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第43話 第二王子と私が持てる剣


 お父様に手紙を出すと、すぐに返事が届いた。やめろと言われるかと思ったが、意外にも好意的に捉えられていた。というより、いっそ第二王子と直接会ってどういう人か判断しろと言われてしまった。

 第一王子は前回のこともあってよく知っている。単純に努力できない人だ。やればできるのにやらない人。甘やかされた結果、努力することが苦痛になり、努力すれば何でもできたはずなのにしなかった人。努力も一種の才能だ、それを潰されてしまった人でもある。

 けれど前回、私は何度かそれを言ったことがある。やればできるし、努力さえすれば素晴らしい王太子、王に相応しい人と言われるはずだと。何故努力しないのかと。まぁ、努力なんてバカのやること……なんておかしな回答をした時点で、見切りをつけてしまったが。


 けれど思い返してみれば、第二王子がどういう人なのかは分からない。関わりがなかったから。いや、そういえば前回一度だけ……忘れよう。私が見極めるべきは今の第二王子。

 あまりごちゃごちゃと考えていても仕方がない。素振りでもしてルクスの帰りを待つことにした。ティアから手紙がきた時点でルクスには話をしてある。


「良いんじゃないかな。セシリアも海は見たことないんでしょ? 僕もないし……もちろんお父様のお許しがでたらだけど……最近セシリアとあまり一緒に出かけられてないし、気分転換にもなりそうだしね」


 お父様のお許しは出たから、ルクスに予定を確認して、ティア宛に手紙を書きたい。最近、ルクスと二人で手合わせもしていない。ルクスが忙しいのは分かる。学院で剣術を学んでいるのだから、疲れてもいるはずだ。けれど、今までずっと一緒に過ごしてきただけあって、どうしても寂しく感じてしまう。

 領地なら騎士の誰かに相手してもらえたのに、王都の屋敷には騎士がいない。使用人達が皆、護衛ができる程度の何かを習得しているらしく、騎士は領地に集めているらしい。よく副団長に相手をしてもらっていたけど、今は一人で剣を振っている。


「執事さん、剣を振って来ます」

「承知いたしました。他の使用人にはあまり庭の方へ行かないように言っておきます」

「ありがとうございます」


 有能な執事さんだ。私が名前を呼ばないことについても何も言及してこない。多分お父様が手を回したのだろう。前回と同じ、私の悪い癖だ。人の名前を覚えようとしないから、覚えられない。社交界では致命的なものだが、覚えようとすれば覚えられる。

 これは第一王子と同じ。できるのにやらないだけ。悪い癖だとは思っているがなかなか直らない。人の名前は人の数だけある。あまりに多すぎて全ては覚えられない。なら最初から覚えなければならない名前と覚えられた名前だけで良いじゃない。そういう話でもないのだろうけど、私の感覚はそうなってしまっている。今更直せというのも無理な話だ。


 王都の屋敷には訓練ができる場所がない。だからいつも庭の一角で木剣を振っている。木剣であればようやく思うように動けるようになってきた。前回のようにとはいかないが、それでもやっと頭の中で思い描いた動きに体がついてくるようになったのだ。ただし、訓練用の木剣であればだが。

 木剣を置き、壁に立て掛けておいた真剣を持ち、スッと鞘から抜く。ずっしりとした重みが腕に掛かる。一歩踏み出し、腕に目一杯力を入れて剣を振る。最初はまだマシ。けれど回数を重ねるごとに上手く触れなくなり、十回程振ったところでカランカランと音を立てて剣が落ちる。


「はぁ、はぁ……いった、手痛い……」


 小刻みに震えてもう剣が持てない。少し振っただけでこの有様。あれからかなり鍛えたつもりだったけど、まだ全然だ。最初は手の皮が剥けたりして物凄く痛かった。けれど段々とそんなこともなくなってきている。代わりというように、手の皮が厚くなり、硬くなっていく。到底令嬢の手とは言えない。

 今まで何とか誤魔化せてきたけど、そろそろ無理そうだ。フェリスに手袋も頼んでおこう。隠せればそれで良い。ルクスは多分気にしないし、剣の鍛錬を欠かさない証拠だと言ってくれる。けれど体裁というものがある。手袋さえしていれば目立たないものだから、あまり気にする必要はない。


 私が今考えるべきは、真剣が持てないこと。二年前のパーティーで起こった事件では、運良くあったレイピアを使った。けれどこの国では重量のある剣が主で、レイピアはほとんど使われていない。軽く切れ味のある剣より、重くて切れ味が低い量産型の剣ばかり。剣の重みを乗せて斬ることができるから、量産型でも十分なのだ。

 けれど私には使えない。少なくとも今は。軽くて切れ味の高い剣が欲しいが、どこにも売っていない。そもそもこの国で軽い剣を打つ人がいないのかもしれない。レイピアは少しだけあるが、実戦で切るために使うものとは言い難い。どちらかといえば突きだ。


 前に持っていた剣も流石に使えなくなってきた。昔これなら使えるだろうとお父様にもらった小さく軽い細身の剣。あの剣も真剣とはいえ、特別切れ味のいい剣ではない。学園に入れば真剣を使う機会もあるはずだ。私ができることは、剣を探すか、今の剣を振れるようになるかだ。

 専門外かもしれないけど、フェリスにも聞いておこう。ルクスももしかしたら学院で何か聞けるかもしれない。もうすぐ帰ってくるはずだ。どうせ今日はもう剣は触れない。木剣と真剣を抱えて屋敷の中に入る。

 汗をかいたからとお風呂に入り、風属性の魔術で髪を乾かす。最近思いついたことだが、魔術で髪を乾かす方が早いのだ。何故かは分からない。そういうことは研究者がぜひ調べて欲しい。私は知らない。

 そろそろルクスが帰ってくる時間だ。私は部屋から出て階段を降り、扉を開ける。


「お帰りなさい、ルクス」

「ただいま、セシリア」


 今日は色々と話す事が多そうだ。

 

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