第42話 手紙
「あ、暑い……」
王都に来て約六ヶ月。夏がきた。
ルクスは春に無事に学院に入学。シエルと共に学院に通っている。私はといえば、時々お茶会に行くことはあるが、ほとんど屋敷に引きこもっている。
お父様に手紙でティアと仲良くなったと書いて送れば、そこまでやれとは言ってないと返された。短期間に第二王子派の令嬢と仲良くなりすぎだとも書かれていた。
確かにと少し反省しようかと思ったが、そもそも第一王子派の令嬢達とは馬が合わない。早々に交流を諦めてしまった以上、無理だとはっきり伝えておきたい。そう思って、お父様に再び返事を書いた。すると今度は分かったからもうしばらく屋敷に引きこもって交流はしなくて良いと書かれていた。
(お父様、いくら我が家が引きこもり一家だとしても、手紙に堂々と書くことではありませんよ)
元々シェラード家は引きこもりなどではなかった。そうならざるをえなかっただけ。常に堂々としていろという教えのシェラード家がわざわざ領地に引きこもった原因は、権力バランスだ。今でもシェラード家の権力は四大公爵家の中で最も高いと言って良い。
つまり、シェラード家の意向によって、今後の国の方針が決まると言っても過言ではない。私が第一王子派とあまり交流できない以上、必要最低限の関わりに留めておく必要がある。せっかく仲良くなれたのに、ティアとはあのお茶会以来会えていない。
会えていないと言えばルクスもだ。学院に入学して早数ヶ月。学院での生活が忙しいのか、私ともなかなか予定が合わず、会うのは朝と夕食くらい。課題と言って部屋の中で何かを悩んでいる様子も何度か見た。正直、少し寂しい。
せっかくルクスと王都に来たのに、結局何もできていない。もっとこう……デートとかができるものだと思っていた。ルクスが入学してすぐ、建国記念で王都では盛大なイベントとして賑わっていた。けれど残念なことに、ルクスは学院生のボランティアのような形で当日の警備を手伝っていた。私はひとり寂しく出店を周り、結局すぐに途方に暮れるように屋敷に帰って引きこもっていた。
次にイベントがあるとすれば来月。七飾り祭りだ。七つの魔術属性を込めた七つの球を魔術で浮かせ縦長の布を丸くなるように吊るす、かなり豪華な飾りが王都に浮かせられる。国を挙げての大きな祭りだ。
お祭りの期間中は、王都の至る所にバングラスという細い木が置かれ、六つの形の紙を飾る。それぞれの形に意味があり、中には願い事を書いて飾る人もいる。何も書かない人もいれば、名前だけ書いて飾る人もいる。貴族も平民も関係ない、王都が賑わうお祭りだ。
ルクスが行けるかは分からないけれど、初めての七飾り祭りだ。できれば二人だけで楽しみたい。七飾り祭りの開催時期は学院の長期休暇と被っている。建国記念日のように警備を手伝うかもしれない。今度ルクスに予定を聞いておこう。早めに決めておけば、一緒に回れるかもしれない。
「お嬢様、手紙が届いております」
「ありがとう……執事さん」
「それでは、失礼いたします」
ノックをして入って来たのは、王都の屋敷の使用人達をまとめるこの屋敷の執事。名前は忘れた。私に一通の手紙を渡すと、静かに部屋を出た。手紙の宛名を見ると、ティア・ハワードと書かれていた。封を開けて手紙を読むと、いつもとは違った内容だった。
『セシリア、我がハワード領地にある海へ行きませんか? 学院も長期休暇に入る頃かと思います、どうぞ婚約者様もご一緒にいらっしゃってくださいませ。クライ達も招待しております。一週間程、我が領地の別荘に皆んなでお泊りしたいと思います。良いお返事をお待ちしております』
ハワード家の領地は、シェラード家から王都を経由した真逆の位置にある。シェラード領から行くには遠いが、私達が今いるのは王都。行こうと思えば行ける距離。海なんて行ったことがないし、見てみたいとも思う。ただ、そう簡単にはいとは返せない。
ルクスの予定と相談、第二王子派のハワード家のみの交流。何より、“クライ嬢達”という言葉。私だけでなく婚約者も誘っているのであれば、クライ嬢達というのはクライ嬢の婚約者の事を言っているのだろう。第二王子派じゃない、第二王子殿下ご本人だ。
「これは流石に……お父様に相談してからじゃないと返事が書けないわ…………」
今の私はまだ第二王子派の令嬢と仲が良いというところに留まっている。体裁だけとはいえ、第一王子派のご令嬢達とお茶会もした。シェラード家は今中立の立場にいると、皆が思っている。
けれどもしこのままハワード領に行ったら? それだけでなく、第二王子派筆頭のハワード家の領地に行き、第二王子殿下と一緒に一週間過ごせば……世間から見れば、シェラード家は第二王子派についたと思われてもおかしくない。
行きたい気持ちはあるものの、まずはお父様に相談しなければと、私は急いで手紙を書く。手紙を急いで届けて欲しいと使用人に渡しておき、私はルクスの帰りを待つことにした。




