第41話 お、思い出させないで!
家の象徴の話をしていたはずなのに、どこか気まずい雰囲気になってしまった。象徴を持つ二人の公爵令嬢が黙り込んでしまったからだろう。
多分私もティア嬢も考え込んでいただけだが、お茶会はこういう時に黙り込んでしまうと妙な雰囲気になる。周りが何かまずいことでも言ってしまったかと勘違いする。何か他の話題に移せればと思い、私はチラリとフェリスを見た。私の合図に気が付いたのか、フェリスが口を開く。
「そう言えば、セシリア様の婚約者様のことをお聞きしたいですわ!」
「ルクスのことでしょうか?」
「まぁ! 良い提案ですわね、フェリス嬢! セシリア様の婚約者様のお話は噂でしか聞いておりませんでしたが、今ここにいらっしゃるんですもの! 皆様も気になりません?」
フェリスの言葉を即座に理解したクライ嬢が話に乗る形で切り替える。場の雰囲気が一気に変わり、皆んな話題に興味津々だ。他の話題はなかったのだろうか。
そもそも噂ってフェリスが流したものだろう。私の手紙を元にしているのはほぼ確定。けれど何をどの程度噂として流しているのかは知らない。クライ嬢の口振から、悪い噂でないことは分かる。肝心の内容を教えてもらっていない!
「セシリア様達のお噂と言えば、やはり二年前のパーティーですね! あの時のお二人のダンスは素晴らしくて……皆の目に焼き付くように残っておりますのよ!」
「あの時のダンス……やはりお二人で練習なさったのでしょうか?」
「えぇ、もちろん他の方とも踊れるように練習はしましたが……ほとんどはルクスと二人で練習いたしました」
令嬢達から黄色い声が上がる。ダンスのレッスンは基本ひとり。パートナーがいない状態で、パートナーがいる想定でひとりで踊り、講師に修正してもらう。講師はほとんどが他家のご夫人をお呼びするが、私達の場合時々お母様に見てもらうだけで、ほとんど二人だけの練習だった。
講師がいない上に、毎回お母様に見てもらえるわけでもない。修正箇所は自分達で気付くしかない。憧れを持つ分には良いが、できるかどうかはその人次第だ。正直、誰かに教えてもらった方が楽だし早く上達する。
「セシリア様の婚約者様といえば、グレートウルフ討伐の功績をお持ちの方でしょう。あの時セシリア様のお怪我を心配して……」
「あの姫抱きのことですね! わたくしも存じております。誰もが憧れるシチュエーションですわ!」
「ちょ、ちょっと待ってくださいませ! まさかそれも噂になってますの!?」
姫抱きなんて人前では一度しかされていない。パーティーの後、そこまで深い怪我でもないのに姫抱きで屋敷まで帰ることになってしまった。恥ずかしくてひたすら顔を隠していた記憶がある。まさかそんなことまで噂になっていたなんて。
チラリとフェリスの方を見ると、静かに首を横に振られる。フェリスが流した噂ではない。つまり、あの時ルクスに横抱きで抱き上げられる私を見ていた令嬢によって広められた噂というわけだ。
「お恥ずかしい……」
「婚約者に姫抱きで連れて行ってもらうなんて、皆憧れますわよ」
「そうです! セシリア様達の仲の良さの表れでもありますのよ」
そりゃあ憧れにはなるかもしれないけど、される側はすごく恥ずかしい。この話はここまでに……と恥ずかしさに負けて言ってしまい、別の話に移った。
お茶会はそのまま平和に終わり、私達はそれぞれの馬車に乗って帰ることになった。
「セシリア様、本日は本当にありがとうございました」
「こちらこそ、ありがとうございました。あの時、話の方向も変えていただいて、とても助かりました。クライ嬢のおかげですわ。フェリスも、ありがとう」
「お姉様のためですもの、これくらいどうってことありませんわ!」
他の令嬢達が馬車に乗り込んで帰っていく中、最後まで残ったのは、私とフェリス、招待者のクライ嬢、そしてティア嬢だった。
「セシリア様、改めて謝罪とお礼を。本日はありがとうございました、そして、大変失礼致しました」
「こちらこそ、ありがとうございました。謝罪に関してはもう水に流しましょう。お互い初対面でしたもの、知らずともおかしくはございませんわ」
「感謝いたします」
「それより、わたくしのことはセシリアと……様は付けなくても大丈夫です。同じ公爵家の令嬢同士、これからも仲良くしていただきたいです」
「こちらこそ、今後も良い関係でいたいと思っております。では、わたくしのこともティアと呼んでくださいませ、セシリア」
「よろしくお願いします、ティア」
嬉しい誤算だが、第二王子派のティアと仲良くなれた。これなら手紙のやり取りもできそう。同じ四大公爵家の令嬢同士でしか話せないこともある。帰ったらお父様に手紙で知らせよう。
私も帰ろうとしたところで、フェリスの馬車がないことに気付く。ポートレット家からフェリスの家──バーナード家までは距離があるはずだ。ここから近い所といえば、バーナード商会のほう。
「フェリス、あなた馬車はどうしたの?」
「えっ? あーと、私は歩いて……」
「ここからバーナード家までは距離があったと思うけど?」
もしやと思いフェリスに問うと、明らかに焦った様子で何かを誤魔化そうとしている。フェリスは仕事熱心だが、最近仕事に熱中し過ぎているように感じていた。まさかお茶会の後まで商会に行くつもりだろうか。
「まさかと思うけど、この後も仕事……なんて言わないわよね?」
「えっ、えーと……」
「送っていくから、私の馬車に乗りなさい」
フェリスを引きずるように馬車に押し込む。私はクライ嬢とティアに挨拶をすると、自分も馬車に乗り込んでバーナード家まで行くように言って馬車を出した。
「セシリアって、もしかして素はあんな感じなのかしら……」
「そのようですよ、あまり気にしない方がよろしいかと……」
そんな話をしていたことはもちろん知らない。
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