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第13話 帰宅


 シエルのお母様の容体は思っていた以上に悪かった。歩けていたのが不思議な程で、治療のため神殿に連れて行くと、何故生きているのか分からないと言われてしまった。

 病自体は珍しくもなく、治療法もある。感染力も極めて低く、今までの貴族としての生活から突然スラムの住民になった事で、耐性のない体が病を発症したのだろうと言われた。しかし、弱った体に着実に病が進行しており、かなり危険な状態らしい。

 

 神殿で治療に専念してもらいたいと思い、彼女をここで預かって貰いたいと話せば、少し嫌な顔をされた。けれど私が懐から取り出した袋に神官の目が変わる。俗世を絶って神に仕えるはずの神官が金で靡くのは如何なものかとも思うが、今はそんな事どうでも良い。

 神官に袋を丸ごと渡し、定期的に様子を見に来るから治療をお願いしますと寄付という名の治療費を手渡す。治療が済んだらまた寄付をしますので、ぜひよろしくと念を押しておけば、神官たちは態度を一変させ見送りまでつけられた。これで神に仕える神官とは聞いて呆れる。


 そうして、シエルの母を神殿に預けると、すぐに屋敷へと帰って行く。途中、二人に合いそうな服も何着か購入した。今までは良かったかもしれないが、流石にこのまま擦り切れたボロボロの服を着せておくわけにはいかない。

 髪もボサボサ、体もどこか薄汚れていて、流石にこのまま着せるわけにはいかないと、仕方なしにボロ切れのまま屋敷に戻ることになってしまった。けれど戻った後に着る服がないといえばないので、買っておいて良かっただろう。

 なんせ帝国の皇子にエスクの協力に必要な鍵となるシエル。下手な服を着せられないし、お古なんてもっての外。我が家にある物で着れそうな服はルクスの服くらいだが、流石にルクスの服を着せる事はできない。スラム育ちだからか、痩せていて同年代の子供より少し小さいように見える。ルクスの服ではブカブカだ。

 

 屋敷まで自分の服は自分で持ちなさいと持てるだけの量を持たせて大通りを歩く。屋敷が近付いて来たところではてなんと説明したものかと思ったが、細かい事は気にしない方が良い。拾って来たとでも言っておこう。

 そうして屋敷に着くなり、使用人が心配していたと私に駆け寄って来る。確かに使用人も護衛も連れず、馬車にも乗らないままお忍びで出掛けたが、そこまで心配するような事ではなかったはずだ。


「あの、お嬢様。失礼ですが、後ろのお二人は……」

「……あー、拾ってきたの。事情はお父様にお話しするから、とりあえずこの二人の身なりを整えてあげてちょうだい。服は途中で適当に買って来たものを持たせてあるから、よろしくね」


 拾ってきたという言葉にギョッとする使用人だが、よく見れば整った顔立ちの二人にやる気が出たのかそそくさと二人を連れて行ってしまった。主にメイド達が。

 すると何処からか走ってくる足音が聞こえてきた。嫌な予感とまずいという心境に恐る恐る屋敷の方向を見てみれば、般若のような顔をしたお父様がこちらに向かって怒涛の勢いで走ってきていた。

 逃げようかとも思ったが、既にこちらに近付いてくるお父様から逃げるのは流石に難しい。今の私は多少剣術が使えるだけの小娘に過ぎない。諦めてお父様のお説教を受けるとしよう。

 私の元へ来るなり思い切り下ろされた拳骨に頭を抱えながら、私は執務室へと引き摺られて行った。記憶が戻ってからは、お父様に雷を落とされてばかりな気がする。確かに色々やってはいるが、悪い事をしているわけじゃない。今回に至っては、シエルの保護が目的で、皇子がいた事は想定外だ。


「さて、いつから私の娘は不良になったのかな?」

「不良になった覚えはありません。それに、今回は半分不可抗力です」

「ほ〜、勝手に屋敷を飛び出し護衛も使用人も連れずお忍びでスラム街まで行って挙句二人子供を拾ってきたのにか?」

「その件について、話さなければならない事があります」


 私はお父様にスラムであった事を全て話した。シエルとその母親を探しに行った事、途中で病弱で外へ出られないとされていた帝国の皇子を見つけてしまった事。それが誘拐によってこの国の、しかもシェラード領のスラムに連れてこられていた事。

 

「はぁ、なんでお前はこうも問題ばかり持ち込むんだ……」

「私が持ち込んだ訳ではありません。誘拐犯が攫ってこちらに連れてきたんです」


 頭を抱えて唸るお父様には悪いがこればっかりは良くやったと思う。もし今後この事が帝国に知られれば、最悪この王国ごと滅ぼされる。貴族は良くて平民落ち、悪くて処刑。それは困る。とても困る。

 

「そういう事じゃ……あぁ、もう良い。それで、誘拐犯はどうした?」

「斬りました」

「きっ……そうか、分かった。場所を教えなさい、騎士達に行かせよう」

「分かりました」


 皇子については、後は私の一存でどうにかなる事ではないが、どのみち近いうちに帝国へ行く事になるだろう。私がやるべき事といえば、その間に最低限の礼儀作法を教える事。スラムの感覚のまま帝国の皇子として戻られては困る!

 もう疲れたからと、シエルの話は明日にする事になった。一応使用人……それも私付きの執事として雇いたいとは伝えてある。お父様も別に反対するような様子ではなかったが、素性の知れない人間を屋敷に置く訳にはいかない。明日はシエルについての説明をしなければならないが、最初に煽ったのはお父様だ。発言には責任を持ってもらおう。

 私は探し物が見つかった事に上機嫌で部屋へと戻って行った。

 

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