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第12話 探し人


「そういえば君、名前は?」

「知らない」

「それならしばらくは少年ね、下手な名前は付けられないから」


 子供を少年と呼ぶことにして、その場を離れる。残念な事に私はスラム街に詳しくはない。ここまで手を引かれて来てしまったから、帰り道も分からない。帰るには少年の案内が必要だ。

 

 そして、色々あって忘れるところだったが、本来の目的はこの少年の保護ではない。シエルという名の子供を探す事だ。元貴族の少年だったが、父親が何やらやらかしてしまい投獄、財産没収に貴族位の剥奪。流れ着いたのがこのスラム街だ。

 母親とこのスラム街にいるはずだ。シエル本人も頭のキレる策士だが、それ以上に必要な人物がいる。シエルの母親は政略結婚の道具として嫁いだらしく、幼馴染の恋人がいた。それが前回の私の右腕として仕えていたエクスという人物だ。


 前回、エクスは私に取引を持ち出した。恋人とその子供を探して欲しい、見つける事ができれば私の側近として仕えると。彼の頭脳は計り知れない。全てをまるで知っているかのように語り、語った事は全て当たる。味方にいれば頼もしいが、敵になると途端に恐ろしくなる。


「少年、先に君が白と呼んだ子供のところへ案内して貰いたいのだけれど、構わないかしら?」

「そういや、そんな事も言ってたな。分かった、こっちだ」


 連れて来られた時と違い慌てた様子はなく、しっかりとした足取りで進んで行く。心做しかスラム街の中心地からは離れているように感じた。先程よりも建物の形が残っている物が多く、人もあまり倒れていない。

 少年が立ち止まったところには、スラム街にしては立派な家があった。もちろんよく見ればいつ壊れるか分からない、とても人の住むような家ではないが、スラム街の家は壊れている物が多いから、まだマシな方だろう。


「シロはここに住んでる」


 少年が指差した先には扉があり、鍵はかかっていなかった。扉が少しだけ開いていて防犯も何もあったものじゃない。貴族の生活からいきなりスラム街への生活は辛いだろう。前回はシエルのみ保護できたが、母親は既に亡くなっていた。それでもエクスは十分だと言ってくれたが、今ならまだ母親と一緒に助けられるかもしれない。

 

 こんな場所でノックなど意味のない事だとは思っているが、一応三度軽く扉を叩く。叩いた衝撃で壁がパラパラと剥がれているから、これ以上はいけない。返事は待たずに中へと入ると、そこには確かに銀髪の少年がいた。


「シロ!」

「げ、またお前かよ。しかも誰連れて来たんだ、早く帰れ。後僕はシロじゃない、シエルだって何度も言ってるだろ」


 会話の内容から割と頻繁に会っていたのだろう。シエルは拒んでいるが、仲が良さそうにも見える。だが、シエルの手には薬のような物を持っているように見える。けれど、私には見覚えのない薬だ。確か、シエルの母親は風邪を拗らせて亡くなったはず。


「あなたがシエルね。ごめんなさい、その薬、ちょっと見せてもらえないかしら?」

「誰だよあんた」

「お前、オレの時と態度違い過ぎないか?」


 余計な事を言う少年にニコリと微笑みで圧をかければ、少年もまずいというような顔をしてそれ以上は何も言ってこなかった。シエルは今後の大事な鍵になる。今ここでシエルが見つかった事はかなり大きい。しかも手に薬を持っているという事は、母親も生きているはずだ。けれど……


「初めまして、私はセシリア・シェラード。この地を治めるシェラード公爵家の長女です。さて、色々聞きたい事もあるでしょうが、先に聞かせてくださいませ。この薬、どこで買ったのですか?」


 シエルの手に持っていた薬は、ただの白い粉に過ぎない。粗悪品どころか、薬ですらない。毒でないだけまだマシだが、これを与えたところで病が治る事はない。きっと小麦粉に少量砂糖か塩でも混ぜたのだろう。それっぽくは見える。


「これはスラム街の入り口近くにある婆さんの店で買ったんだ。スラムの人間にも売ってくれる店は少ないから……」

「そう。申し訳ないけど、これは預からせて頂戴。とんでもない粗悪品よ、こんなものを飲ませてはいけないわ。」

「は!? 粗悪品!? あのババアまた騙しやがったのか!」


 口が悪いのは今は目を瞑ろう。これから直せば良い事だ。今は一度置いておこう。このままこの薬モドキを飲ませていてはかえって体に悪いだろう。それに、このまま死なれてはせっかく私がここまで来た意味がなくなってしまう。

 本当に間に合って良かった。いや、まだ間に合ったかは分からない。無事保護したとして、その後母親が亡くなってしまえば前とそう変わらない。エクスの信頼だって得られるかどうか微妙なところだ。前回は彼から声をかけてきたが、今回は私がエクスに条件の提示を行わなければならない。そのための大切な鍵だ、絶対に死なせるわけにはいかない。


「確かにスラムの住民に売ってくれる人は少ないだろうけど、それはダメよ。気休めにもならない。ねぇシエル、私のところへ来ないかしら?」

「貴族が僕になんの用がある。何か企んでんだろ、貴族ってのはズル賢いやつばっかりだ」

「あら、あなたも少し前までそのズル賢い貴族だったと思うのだけど……まぁ良いわ。私にとって、あなたはとても価値があるの。そうね、五年間。あなたが我が家で私付きの執事として働いてくれるなら、あなたの母親の治療をしてあげる。休みもあるから、教会で最高の環境で治療してあげるから、五年間母親の治療は保証してあげる」


 胡散臭いと思うだろう、けれど呑むしかない条件だ。母親の薬の当てはなくなり、スラムにいるのであれば金もなくこのままでは明日の保証はない。どうせこのまま死に着実に進んでいってしまうのなら、私の手を取って少しでも可能性の高い方を選ぶだろう。彼はそういう人間だ。


「契約書を作れ。お母様の事もちゃんと含めてくれるなら、着いて行く」

「交渉成立ね。それじゃあ、お母様を連れてスラムを出ましょう」


 かろうじて歩く事ができたシエルの母親を連れて、少年の案内のもと、私たちはスラムから大通りへと出る事ができた。

 

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