協力者
その時、何が起きたのか彼等は理解できなかった。油断も焦りもない。ただ冷静に、目の前にいる甲冑を注意深く観察していただけだった。
「え?」
「は?」
突如として、甲冑は光り輝く何かによって吹き飛ばされ、壁に叩きつけられるとそのまま動かなくなってしまった。
「いやぁ、急いで来て正解だったな」
背後から、聞いたことのない男の声が響き渡る。
「走るの速い。もうちょっとゆっくり······」
続いて少女の声がする。二人はこの声に聞き覚えがあった。しかし、後ろを振り向くことが出来ない。男の方が放っているであろう、感じたことのない異様な気配が、背筋を凍り付かせていた。
「まさかあなた達だったとはね。感じたことある気配だとは思ったけど······」
「その声······イリス······?」
シャルロットが恐る恐る口を開く。
「うん、そうだよ」
「何だ、知り合いか?」
「知り合いって程じゃないよ。町で少し会話をしたことがあるだけ」
「······おい、お前ら」
男はルベルとシャルロットに語りかける。
「何者だ? こんな遺跡に入ってるってことは、普通の冒険者じゃあねぇよなぁ」
「そういうアンタこそ何なのよ。イリスとは、どういう関係なの?」
「······まずは俺の質問に答えてくれよ」
男は呆れた顔で、ため息をついた。
「いいよ、ジャック。わたしが説明するから、あなたは黙っていて」
「ヘイヘイ」
ジャックはすんなりと命令に応じる。
「二人共、こっちを向いていいよ。今の所、あなた達に危害を加えるつもりはないから」
ルベルとシャルロットはゆっくりと後ろを振り向く。
「!······」
ここまで口を開いていなかったルベルは、ジャックの佇まいを見て驚き、彼のことを見つめてしまった。
「ん? どした? 俺の顔になんか付いてるかぁ?」
高身長で猫背の男が、大鎌を持ち異様な雰囲気を放つその姿は、ルベルに死神を連想させ戦慄させた。
「······」
ルベルはジャックから目を逸らした。
二人が振り向いた後、イリスは被っていたフードを脱いだ。青い瞳と、白銀の短髪が特徴的だ。
「改めて、私はイリス。そして彼はジャック。ジャック・ヘテロフィルス。わたし達はとあるアンデッドを始末しにここへ来た」
「ちょっと待って······今、ジャック・ヘテロフィルスって言った?」
ジャックの名前を聞き、シャルロットは眉をひそめた。
「ほぅ、俺を知ってんのか······ハハッ、有名人になったなぁ俺も」
ジャックは少し上機嫌になった。
「シャル、知ってるの?」
「······アイツは、代々この国の死刑執行人を担ってるヘテロフィルス家の当主······だった男よ」
「だった?」
「執行人としての職務をこなしてたけど、国の命令を無視したり、本来死刑じゃない囚人を独断で死刑にしたり、問題行動が多すぎて死刑執行人の役を解かれたの。家ごとね。」
「なんだそれ、立派な犯罪者じゃないか」
「アタシも状況を理解できてない。なんであんなのがイリスみたいな子と行動してるのか······イリス! この男とはどういう繋がりなの? それに、コイツと行動を共にできるアンタは何者?」
「······」
イリスは数秒沈黙した後、口を開く。
「んー······彼は、わたしの協力者······というか部下みたいな存在? かな?」
イリスはジャックの方を見ながら首を傾げる。
「······何だって構わねえよ」
ジャックは少しウザそうな顔で答える。
「じゃあ、部下ってことで。それと、私の素性については一切話せない。話すわけにはいかない」
「なんですって?」
「全ては、目的のため」
ルベルとシャルロットは表情を強張らせた。イリスの言葉と表情に、強い信念が宿ってるのを感じたからだ。
「じゃあ、次はこっちの番。あなた達の目的は何?」
「アタシ達はある人に、この遺跡の調査を頼まれて来たの。だけど、アンタ達の邪魔をする気はないわ。この奥の部屋に何があるかを確認して、ここを出るつもりよ」
「そう······」
イリスは考え始めた。静寂の中、ルベルも思考を巡らせていた。
(あの甲冑、妙だ。他のアンデッドがやられるまで殆ど動かず、壁に叩きつけられても反撃すらしない。最初に感じた重苦しい気配も無くなってる。この二人が始末したいアンデッドは奥の部屋にいて、そいつがあの甲冑を操っていたのか? それとイリスの服装、ローブの隙間から真っ白い布が見える。魔法学校の制服みたいな、きっちり整った服装みたいだ。ハワードさんが、魔石探しには騎士団も関わってると言っていたし、もしかしてイリスはその関係者? もしそうだとするなら、役を解かれた死刑執行人を、部下として連れているのにも納得がいくし、奥の部屋にいるアンデッドも魔石と何かしら関係がある?)
考えが纏まったのか、イリスは二人の前まで歩いて来ると、手を前に差し出した。
「一旦、協力しよう」
「!?」
イリスの発言に他3人は驚愕した。
「おいおい、正気か? こいつらただのガキだぜ? 確かに、奥の部屋に用があるってところは一致してるが、何するかわかんねぇぞ?」
「アイツは、今日ここで確実に始末しなきゃならない。どうせやるなら数は多い方がいい。それに、この二人は、わたし達が来る前に甲冑以外のアンデッドを一掃してたから、足手纏いにはならない。ラヴィーナも大丈夫だと言っている」
「そりゃあ、そうかもしれねぇけどよぉ······」
ジャックは後頭部をポリポリ搔きながら、納得がいっていない表情を浮かべた。
「僕達も協力する。絶対に邪魔をしないと誓うよ」
「ありがとう。ごめんね巻き込んじゃって」
「大丈夫かよ、これ······」
ジャックは頭を抱えている。何やら気になる点があるようだ。
「じゃあ、扉はわたし達が開けるね。ジャック、手伝って」
「はぁ? 俺も?」
「神聖魔法が必要なんだよ。わたしのだけじゃ足りない」
イリスは、ジャックの手を掴み扉の方へ引っ張っていく。
「いてて、分かったから引っ張んなって······」
「!」
ジャックは連れられる最中、ほんの一瞬ルベルの顔を見た。ルベルのことが少々気になっているようだ。
「······」
少しだけジャックと目が合い、ルベルは眉をひそめる。ジャックとイリスは二人で協力しながら、扉を開く準備を始めた。
「ねぇ、ルー君。本当に協力して大丈夫? ジャックは犯罪者だしイリスは素性が分からないし」
「それなんだけど······」
ルベルはシャルロットに耳打ちをし、自分の考えを話した。
「······確かにそれはありうるわね」
「ここで得られる情報は、きっと魔石探しに役に立つと思うんだ。だから協力することに同意した」
「他の連中より大きくリードできるかもしれないわね。でも、警戒は解いちゃ駄目よ」
「分かってる」
扉に刻まれた文様が光りだし、ゴゴゴと地鳴りのような音が鳴り始めた。
「二人共こっちへ。開くよ」
イリスの手招きに応じて、扉の前へと向かう。
「開くまで、随分早かったわね」
「護りをアンデッドに任せていたからか、扉の封印は大したことなかった」
扉は牛のようにゆっくりと開き始めた。
「おっせえな······」
隙間から見える向こう側は、闇のように暗い。一同は、暗闇を見つめながら扉が完全に開くのを待ち続けた。




