愛が重い(3)
私に見られていることに気が付いたのか、その笑顔には戸惑いが混じり、首を傾げられる。どことなく、その仕草が……鳥っぽいと思ってしまった私は重症かも知れない。
「そうまじまじと見つめられると、タガが外れそうになるのだが……何か私に聞きたいことが?」
油断するとついゲイル様の調子に呑まれてしまい、聞きたい事も聞けなくなってしまうのでこれはチャンスだ。せっかく与えられた機会を無駄にするまいと、思い切って口を開く。
「ゲイル様、もしくはこのクレセント伯爵家で、鳥を飼っていませんか?」
──パリーンッ
「……申し訳ございません。私としたことが」
セバスが、取り皿用の皿を落として割ってしまったらしい。熟練の執事もそんなミスする事があるのね。
「白色の羽根がもふもふの子で、エナガっぽい種なのですけど……とても可愛いのでまた会いたくて。この前その子に花束を託してくれたのでしょう? 嬉しくて、今日はゲイル様にお礼を言いたかったのです」
──パリーンッ
二枚目の皿が割れる。
「……セバス」
「申し訳ございません。しかし、坊っちゃま? どういうおつもりですか?」
先程までとは形勢逆転。静かに怒るフクロウと、気まずい顔のその主人。もしや鳥の事は秘密だったのだろうか? 子供が勉強机の引き出しの中で拾った子猫を飼うような、そういう秘密の飼育だったのだろうか?
「あ……ごめんなさい。やっぱり勘違いだったかも?」
焦って誤魔化すがもう遅い。
「いや、伯爵家の鳥だ。生憎、飼っている訳ではなく……そうだな、半野生のようなもので好きな時に会えるわけではない。しかしアルエットが会いたいと言うのなら必ず機会は作る。花束も気に入って貰えたようで安心した」
やはりあの花束はゲイル様からだった。鳥に花言葉を乗せた花束を託すなんて、顔のイメージには合わないロマンチックな事を思い付かれる方なのね? それに、嫁いでからもあの子に会える機会があるのだ思うと、一気に結婚生活が楽しみになってきた!
「そういえば、かすみ草の栞も受け取った。ありがとう。もしやあれはアルエットが作った物?」
お礼の栞も受け取って貰えていたことに嬉しくなる。託した物をちゃんと運べるとは、なんて賢い鳥なのだろう! 半野生なのにそれだけ訓練されているなんて、一体何の種の鳥なのだろうか?
「はい! 実は押し花の栞を作るのが得意で、カメリア領の特産品として販売もしているんですよ。あのマーガレットも綺麗なピンク色だったので、一本は押し花にしている最中で……初めてゲイル様にいただいたお花だから大切にしたかったんです」
だって、初めてゲイル様が私に対して愛のメッセージを伝えてくれたのがあのお花だったのだから。とは言わなかったけれども。ちゃんと伝わったようで、再び焦がれるような熱の籠った視線を向けられる。
「だからそんな可愛い事を言われるとタガが外れそうになる……。アルエット、もうカメリアに帰らずに今日からここに住めばいい。そうすれば会いたいという鳥にもすぐに」
「ゲイル坊っちゃま、いい加減になさいませ。後で話がありますから、覚悟しておきますよう」
楽しい鳥談義で忘れていたが、すぐそこに怒ったフクロウがいたのだった。心底面倒くさそうな顔をしたゲイル様が「……後でな」と言うと、さっと割れた皿を片付けて退出していった。
「ゲイル様ごめんなさい。もしかしてあの子のことは秘密でしたか?」
セバスの口ぶりからすると、あのエナガっぽい鳥は伯爵家の秘密なのではないだろうか? やけに賢い鳥のようだから、もしかすると飼育禁止対象をこっそり飼っているとか……裏事情がありそうだ。
「いや、私と結婚するアルエットは──いつか知る事だ。そのうちすべて話すから待っていて欲しい」
やはり何か事情があるようだ。気になるが、そのうち教えてくれるそうなので、気長に待つことにしよう。そう思いながらやっと紅茶に口をつける。大好きなベルガモットの香りで心が落ち着き、
「アルエット、今宵は帰らずに私の元にいてくれないだろうか?」
「──ッ!?」
落ち着けなかった。
突然の予想外の言葉に驚いて、紅茶が気管の方に入ってしまう。ケホケホとむせる私と、真剣な顔のゲイル様。
えーっと、正直まだ早いと思います。一緒に来ているメアリが怒り狂う姿が目に浮かぶし、私も心の準備が一切……
「実は明日も私は非番なのだが……軍の施設にツバメが巣をかけていて、最近雛がいるようなんだ。鳥が好きなアルエットなら見たいのではないかと思って。明日朝から一緒に観に行かないか?」
「行きます!!」
そんなの即答するに決まっている!! 鳥案件なら、紛らわしい言い方をせずにストレートに言って欲しかった!!
「ならば今晩は客間に泊まれるように用意させておく。幸いプレゼント用に作らせておいた服が何枚か届いているから明日の服は心配要らない」
何枚か、という部分に少々引っ掛かりを感じたが、プレゼントに関してはしばらくは何も言うまいと決めたばかりなので、とりあえずスルーする。明日はありがたくそれを着て、ツバメ観察だ! 楽しみすぎてついつい踊りだしてしまいそうなのを必死に我慢する。後で馬車に置いてきた双眼鏡も持ってきておこう。
「とても嬉しいです! 私が鳥が好きなのを気にして覚えていてくださったのですね」
「当然だ。アルエットの好きな物は何でも知りたいし共有したい。夫婦になるのだから、それくらい当たり前の事だ」
やっぱり、怖いのは顔だけなのだ。
「では、ゲイル様の好きな物も教えてくださいね。だって、夫婦になるのなら当たり前の事なのでしょう?」
「私の好きな物? ──酒と鍛錬」
顔のイメージ通りの男らしい回答に思わず声を出して笑ってしまう。一時はこんな怖い人と? と絶望しかけたけれども、この人とならきっと大丈夫。この人とならきっと愛し合える。
そう信じて、今度こそ大好きなベルガモットの香りで心を落ち着けた。
明日はゲイル様目線回です✨
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