13.
「考えよ…。」
風に揺れる花を眺めエディーガは呟いた。
太陽のようなかつての明るさを失ったエディーガに、だれしもが戸惑い驚いた。
長く傍に会ったキィーリスが、職を退いたことが原因だともアイリエヌの爵位継承による廃妃が
エディーガから笑顔を奪ったとも噂されたが、真実にたどり着くものはいないまま時が過ぎた。
王城から姿を消したキィーリス。あれから…
庭園にたたずむエディーガは、視界の端に待ち人を捉える。
背の高い花々の間をゆったりと歩む人影が完全に姿を現し、
エディーガを目にすると身を屈め恭順の意を示した。一年前にまた、彼の前から姿を消した…
「アイリエヌ…。久しいな」
約束していたわけではない。だが、今日登城していると聞いた時から
彼女がここを訪れるだろうと予想ができ、待っていた。
「殿下…。お久しぶりでございます。
……一年前、殿下に断りなく領地に戻りました事。お詫び申し上げます」
何事もなかったかのように言葉を紡ぐアイリエヌに、エディーガは眉をあげる
「よく、私の前に戻ってこれたものだ」
アイリエヌは困ったように小さく首を傾け微笑する
「これからは、ラオギネル家の跡取りとして登城する機会が増えますのでご挨拶をと」
眉を顰めたエディーガに、泰然と相対する様子は一年前に心を患った彼女とはまるで別人のようだ。
暫くの逡巡後エディーガは問いかけた
「あれは、……生きているのか」
「……賊に後れをとるような軟弱者、一年前に廃嫡いたしましたゆえ当家の者ではありませぬ。」
「あくまでも、教えぬ気か。」
一年の間、キィーリスの生死について何一つ情報は掴めず。
逆にラオギネル家の管理能力の高さを思い知らされた気がした。
「恨んでいるのではないか」
「王族の方を恨むなど…。かつておりました愚弟がよく申しておりました。
殿下は素晴らしいお方だと」
ただ、そのあとに女性関係を除けばと続くのを思い出し。アイリエヌは小さく微笑み
察したエディーガは渋面を作る
「そなた、強くなった。今のお前であればもう一度正妃に迎えたいものだ…」
「御冗談でもおよしくださいませ。変わったのは、
わたくしだけではありませんわ。殿下もお変わりになられましたね。後宮も解放されたとか」
エディーガも見ないふりをやめて。
自身の根底にあった女性不審と向き合ったのだ。
母側の従兄であるディルギが、父を同じくしていた事実に。
母と父が婚約した時に、叔母が父に恋をしたこと。その結果兄であるディルギが生まれたこと。
母が予定通り王家に嫁ぎ、叔母が錯乱し始めたこと。
母が妹に気を遣いエディーガの子育てを放棄し一切向き合わなかったこと。
子供のように、母に代わる愛を求め。でも愛情を信じることもできず 多くの人を傷つけ
「恥ずかしい真似をしていたものだ。」
アイリエヌも一年前を思い出し静かに微笑む。
「わたくし、学びましたの。大切なものを守るためには自分自身が盾となることもできると。
学んだのが、少し、遅すぎましたけれど。」
それではと、丁寧に礼をして踵を返した彼女の背に躊躇い声をかける
「ここに、花を手向けに来たわけではないのだな」
アイリエヌは振り返って微笑む
「花の溢れる庭園に、わざわざ切り花を持ってまいりません。
あぁ、でもこの庭園は我が家紋の花が増えましたのね」
立ちつくすエディーガをそのままにアイリエヌは立ち去った。