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やじるし  作者: 猫楊りこ
第2部 夏
19/44

19 強さと弱さ(side.泉)

 侑さんに連絡先を教えてもらった私は、レモンティーを飲み終わるまでfrappéに残り、途中まで一緒に並んで帰りました。

 しかも侑さん、目覚めたレモンティーの代金出してくれたんです。私もたくさん頂いたからせめて半分って思っていたのに、「いいよ」と手で遮ってきました。財布を握りしめて唸ることしかできない私だったけど、感謝の気持ちをちゃんと伝えます。


 お仕事の帰り道、もう辺りは暗くなりつつありました。夏は日の時間が長いので、帰る時間にまだ明るさを感じるとちょっと得した気分になります。


 だけど、今日は得なんかで片付けられないような事態が起きています。侑さんがお店に現れて、お茶に誘ってくれたのです。もうずっとドキドキしっぱなしでした。

 どうしよう。

 この音が侑さんに聞こえちゃったら。


『今日は楽しかったよ。ありがとう、泉ちゃん』

『あっ、いえ。私なんかでよければ、いつでも』


 御礼を言うのはこちらの方です、とパッと顔を上げたものの、侑さんがあまりに素敵なお顔でこちらを見ていたので思わず逸らしてしまいました。

 私はこんな時にうまくいかない自分を責めるように、唇をもにょもにょっと動かしました。


 あんなにモテモテで人気者の侑さんが、今こうやって私との時間を作ってくれている。私なんてこっそり見ていた数多くの侑さんファンのひとりに過ぎないのに。奇跡ってこういうことを言うんでしょうか。すごく、幸せ。


『レモンティーって結構美味しいんだね。また頼もうかな』

『はいぜひ。侑さんいつもいちごばっかりですし、たまには……』

『あ。よく知ってるね、俺がいちごばっかり頼んでいたの』

『ふぁっ⁉︎ え、えと、あのっ』


 し、しまった。もう私にとっては一般常識的な感覚だったけど、侑さんからしたら『なんで?』ってなっちゃいますよね。ああ、やってしまいました。いつも見てますから、とか言えませんし。


『あ、俺いっつもfrappé(あそこ)に行くと、いちごばっかり頼んでるもんな。そりゃ覚えてるよな、店員さんだし』

『そ、そうです。そうなんです。私結構記憶力良くって』


 よ、良かった。何とか侑さんのナイスフォローによって事態は回避できました。


『…………』

『え?』


 私がホッと胸を撫で下ろしていると、侑さんが何かを言っていたんですが聞き逃してしまいました。

 私は咄嗟に聞き返しましたが、侑さんはそれについては何も言ってくれず、また私の方を見下ろしてにこっと優しく微笑んでくれました。


『泉ちゃん』


 でも、その表情はどこか――


『また、一緒に帰らない?』


 どこか、悲しい表情に感じました。


 ・・・


 それから侑さんからよく連絡が来るようになりました。特に規則性はなく、多い時では毎日、かと思うと1週間に1回だけだったり。

 そんなにLINE自体が何往復も続くわけではないのですが、〔部活疲れた〕という内容のものが多い印象です。


 私は侑さんとこうやって離れていても連絡を取り合えること、そしてこの会話は私たち2人だけのものなんだと思うと嬉しくて仕方がありませんでした。

 私は枕に顔を埋め、足をパタパタさせます。ただ侑さんが時々私に念押しをしてきます。


〔このことは、光稀や透子には言わないで〕


 どうしてでしょうか。そもそも私はお2人にぺらぺら喋るつもりもないのですが、この嬉しさを誰とも共有できない寂しさは少しだけ感じたけれど、侑さんのためなら私はそれくらい我慢できます。


 それから侑さんと帰る頻度もちょっとだけ増えました。普段侑さんは透子さんと帰っているのですが、透子さんが部活のない日や侑さんの帰りが遅くなった時はお店の前で待っていてくれます。何だか恋人同士のような気がしてとてもドキドキします。


 侑さん。侑さん。

 私はこんなに幸せでいいのでしょうか。


 そしてある日、光稀さんと透子さんがfrappéにやってきました。侑さんは、いない。

 でも普段から侑さんとの時間が増えたので、もちろん寂しい気持ちはありましたが、そこまで大きくはありませんでした。

 でもそんな私の微かな表情を読み取って、光稀さんが気を利かせてくれました。優しい優しい光稀さん、本当にありがとうございます。


 そしてこの日、私は光稀さんに好きな人がいることを知りました。思わず『ええっ⁉︎』と声を上げてしまい、後から店長に叱られてしまいました。とほほ。


 でも光稀さんが光稀さんの好きな人、響花さんのお話をしている時の透子さんは何だかいつもよりも表情が暗くて、何だかつらそうです。

 あの透子さんはまるで、嫉妬しているようにも見えました。同じ女性だからでしょうか。何となく分かります。透子さんもしかして、光稀さんのこと――


 そしてこの日も侑さんはお店の前で私が終わるのを待っていてくれました。


『す、すみません、侑さん。お待たせしてしまって』

『ううん。全然待ってないよ、大丈夫』


 嘘です。侑さんが部活終わってからもう1時間以上は経っています。

 今日はスタッフが少なくて私が残業したから、かなりの時間お待たせしてしまったというのに、どうして侑さんは私を責めることなく、怒ることなく、優しい笑顔を見せてくれるんですか。


 私と侑さんは歩き始めました。いつも侑さんは私の歩くペースに合わせて歩いてくれます。

 侑さんは足も長いので歩幅が広く、最初頑張って合わせていた私に気付いてくれたようで『ごめん、歩くの早かったね』ととても申し訳なさそうな顔で謝ってきました。

 それから侑さんは私のペースを意識して、一緒に並んで歩いてくれます。必ず『こっちおいで』と歩道側を歩かせてくれます。

 この前なんて私がお母さんから買い出しを頼まれた時にも、スーパーに一緒に行ってくれただけでなく、買った荷物まで持ってくれました。


 侑さん。私、あなたの良さを知っていくたびに、どんどん侑さんに惹かれているのが分かります。どうしよう。本当に、本当に私――侑さんのことが大好きです。


『今日は光稀さんと透子さんが来ましたよ』


 私は今日のバイト中のことをお話しました。侑さんも来て欲しかった、なんて、そんなことは言いません。侑さんが困ってしまうようなことは言わないようにしています。

 もしここで私があなたに、私の想いを伝えてしまったら侑さんは、困っちゃうと思うから。


『そっか。本当に……、本当に行ったんだな』

『え、侑さん、どうしたんですか?』


 明らかにしゅんっとなった侑さん。何だか寂しそうです。


『私でよかったら、お話聞きますよ』


 侑さんは、ちょっと驚いた顔でこっちを見ているような気がしました。


『侑さんは私に、たくさんのことを与えてくれています。私は侑さんに感謝しているんです。こうやって2人で帰る時間も、LINEをしている時間も、私にとってはどれもかけがえのない素敵な時間なんです。だから私……』


 してもらうばっかりじゃ、嫌だから。

 与えてもらうばっかりじゃ、だめだから。

 私も、あなたにしてあげられることをしてあげたい。


『泉ちゃん』

『ふぁ、あ、あれ? ご、ごめんなさい、なんだか私っ』


 ああっ、わわ、私、侑さんに告白したみたいになっちゃいました! 困らせないようにって思っていたのに、やっぱり私って何やってもドジで頼りなくて頭悪くて、それからそれから。


『俺』


 私が『ひぃん』と頭を抱えていると、侑さんが口を開いてくれました。

 ただその時の侑さんは、指定かばんを肩から下げながらポケットに手を入れて、それから少し俯いて、とても悲しい表情をしていました。


『俺は、弱い』

『侑さんは、よ、弱くないですよ』


 ひぃひぃ言っていた私は、侑さんの発言につい言い返してしまいました。


 弱い――それは侑さんの心なのか、体力的なものなのかは分かりませんでしたが、私がずっと見てきた侑さんは、バスケ部のエースで、学校中の女子生徒からとても好かれていて、光稀さんや透子さんのことを本当に大切に思っているとても素敵な侑さんです。


『弱いんだよ』

『あ、侑さん……』

『俺は泉ちゃんが思っているほど、すごい人間じゃない』

『いえ、でも……』


 侑さんの俯きは、更に深くなって表情を隠すようにそっぽを向いてしまいました。私が見上げるほど身長が高いのに、侑さんの顔が、見えません。


『侑さん、あの……』

『俺は……っ!』


 私は侑さんが声を上げたのを、初めて耳にしました。さっきまでポケットに入っていたはずの両手は外に出ていて、力強く握られています。

 その勢いに私は思わず1歩引き、震える両手で口元を隠しました。


『俺は……っ、あいつらのやりとりを落ち着いて見ていられるほど、強い人間じゃない!』


 侑さんの苦しみが溢れ出した瞬間――私は、侑さんに腕を引っ張られていました。


 そして気付いた時には、私はいつか夢見ていたとても温かいその場所にすっぽりと包まれていたのです。


 ・・・


 それから私は家に帰るなり、部屋のベッドに飛び込みました。枕に顔を埋めて、抱き締めるようにぎゅうっと押し付けます。


 私があったかいと思った場所、それは侑さんの胸の中でした。腕を引っ張られた私はそのまま侑さんに、強く強く抱き締められていました。

 私は大パニックになって、目の前がぐるぐると回っていましたが、侑さんは私を包み込む腕の力を緩めません。両手も一緒にしまい込まれていたので、何の抵抗も出来ずにされるがままの状態でした。


『ごめん……、もう少し、このまま……』


 そう言った侑さんの声は、消えてしまいそうなほど小さくて。すごく寂しそうな、悲しそうな雰囲気だった侑さんから出た言葉。

 私は何が何だか分かりませんでしたが、それは侑さんが今とてもつらく感じていることなのだということが直に伝わり、思わず涙腺が緩んでしまいました。


『侑さん……』

『泉ちゃん、ごめん……』


 私たちはしばらくそのまま、時を過ごしました。

 侑さんの言っていたあいつら……、これは一体誰のことを指しているのでしょうか。バスケ部員の可能性だってありますが、可能性が高いのは光稀さんと透子さんのこと。帰り際に侑さんに聞いてもみましたが、そこに関しては教えてはくれませんでした。


 そして今日私がfrappéで感じたことは、透子さんは光稀さんのことを好きなんじゃないかということです。これは完全に私の予想ですが、透子さんから強い電流のように感じるあれは、恐らく嫉妬……。

 本当に仲の良い皆様なので、もしかしたら透子さんは、光稀さんと響花さんが一緒にいるようになれば、これまでのように3人でいられなくなるのが嫌だという意味なのかもしれませんが。


 私はスマホを取り出し、LINEアプリを起動させました。トーク画面の一番上にあるのは、侑さんの名前。ここ最近で一番連絡をとっているという証拠です。私はそんな小さなことにも幸せを感じ、思わず『ふふっ』と笑ってしまいました。


 神様。私は、贅沢者なのでしょうか。


 それから数日経ったある日のこと、侑さんから連絡が来てバーベキューに誘ってくれました。何と光稀さんの想い人、響花さんからのご提案だそうです。しかもとても豪華メンバーです。光稀さんの妹さんも来るみたいですし、これはとても楽しみです。


 買い出しや当日に向けた準備を皆様と一緒に行いました。光稀さんがグループLINEを組んでくれたおかげで、いろんなことがスムーズに進んでいます。さすがは光稀さんです。


 そして当日、透子さんオススメのウォータープルーフの化粧品を使いメイクを済ませます。

 待ち合わせ場所は光稀さんのご自宅でしたが、場所が分からず困っていたら侑さんが『一緒に行こう』と誘ってくれました。


 侑さんから言われた指定の場所へ行くと、そこには透子さんもいました。

 透子さんの私服、あいかわらずとっても可愛い。ただ露出が多くて私には着る勇気が出ません。これは透子さんだからこそお似合いの洋服なんだと思います。

 それに比べて私は動きやすくジーパンだし、色気ないなぁ。

 最初は自分が良いと思って『コレッ』て決めても周りと比べてしまって、自信をなくしてしまうのは私の悪いところだと分かっているんですが。


 それから私たち3人は他の皆様とも合流をして、初めて未来ちゃんと響花さんにご挨拶をしました。


 未来ちゃん。やはり兄妹ということもあって、何となく光稀さんと似ていて、とっても可愛らしい女の子です。でも、何というのでしょうか。どこか寂しそうな表情をしています。


 そして響花さん、本当にお綺麗な方です。思わず固まってしまいました。光稀さんが好きになってしまうのも頷けます。私も響花さんみたいに美人だったら、侑さんにも自信を持ってアプローチ出来たかもしれないのに。


 移動中の車内では、私は侑さんの隣に座ることができました。あんなに連絡を取り合っているし、最近もバーベキューの買い出しで会えたのに、私はやっぱり恥ずかしくてもじもじしてしまいました。やっぱりこの前抱きしめられたぬくもりが体から離れません。


 頬杖をついて景色を眺める侑さんが退屈そうに見えてしまった私は、一生懸命話しかけました。それでも侑さんの反応が薄くて、『ああ、私は何てつまらない話しかできないんだろう』と自分を責めました。


 すると膝に置く私の手に、とても大きくあたたかなものが覆い被さってきました。

 それが侑さんの手だと気付くのに時間がかかりましたが、私はその後すぐにカァッと全身が熱くなり、『えっと、えっと』と言葉が出ずに目を回しそうになりました。


 それはすぐ目の前に座っている光稀さんや透子さんからは死角となる位置。つまり、私たちしか見えない位置で行われている、私たちしか知らない行為。

 恥ずかしい。嬉しい。どうしよう。なんで。

 いろんな思考や感情がぐるぐると私の中を巡ります。


 それから到着するまで実にあっという間のひと時でした。到着した瞬間、侑さんは手を退けます。透子さんが『着いたぁ!』と後ろに身を乗り出してきたこともあるのかもしれません。

 もうちょっと、あともう少しだけ、あの時間が続けばいいのに、と、また贅沢なことを思ってしまいました。


 今回バーベキューをする場所は、本当に素敵なところでした。響花さんらしい、とても感動を呼ぶ美しい場所。私は思わずスマホにその景色を残しました。


 それから早速準備に取り掛かったのですが、そこで響花さんの彼氏さん、朝比奈さんが現れました。私はすぐに光稀さんに目をやります。そこには、とてもつらそうな光稀さんが立っていました。いつもの明るい光稀さんはそこにはおらず、すごく困った顔をした光稀さんがいました。


 そっか。この前frappéで透子さんとお話していたのは、そういうことだったのですね。


 朝比奈さんはすごく手際の良い方でした。すぐに私たちに馴染み、指示を与えてくれます。一緒にグリルや食材の準備をした時は、とても優しく教えてくれました。


 そんな時、光稀さんの悲鳴が聞こえました。私がそちらに目をやると、透子さんが光稀さんに……、う、馬乗りに。うう、私には刺激が強すぎます。


 でもその時の透子さんの表情、私にはとても印象的でした。まっすぐ、光稀さんを見ている透子さん。眩しい。ただ見ているだけしかできない私とは、全然違います。


 透子さん。透子さんの気持ち、すごくすごく分かります。やっぱり透子さんは光稀さんのことを、とても大切に思われているんですね。


『ねぇ響花さん。この辺って、肝試し的なのできないんですか?』


 透子さんからの提案。私は思わず割り箸を下に落としてしまいました。それに気付いた未来ちゃんが、新しい割り箸を持ってきてくれます。

 ままま、待ってください。私、ほほ、本当に、こっ、怖いのは。


 そんな私情を他所に着々とペアが決まっていきます。私のペアは……あ、光稀さんです。侑さんじゃなくて残念とか、そんなこと思ったら光稀さんには失礼なので胸の奥の底の底へと沈めます。


『いい、行きましょう。いき、いき、行きましょう!』


 私は進み始めましたが、体は正直でした。光稀さんに、『右手と右足同時に出てるよ』と小声で言われました。

 ああ、私ってば本当にダメダメです。


 どうして夜というだけで、こんなに怖さが増すのでしょうか。たぶん昼間に来たらそうでもない場所なんでしょうけど、この両側に生えている木が、とてもホラーな味を出していてとても怖いです。


「泉ちゃ」

「あひゃああっ‼︎」

「うわぁ、ビックリした!」


 光稀さんに名前を呼ばれただけなのに、ものすごく驚いてしまいました。


「ごご、ごめんなさい光稀さん」

「い、いいよ、俺は大丈夫。相当怖がりだね。泉ちゃんが嫌じゃなかったら服、握ってていいよ」

「あ……はい。すみません……し、失礼します」


 私は失礼して、光稀さんのシャツを握らせてもらっちゃいました。これだけでも、本当に安心する。


 光稀さん。侑さんの顔立ちとは違ってどこか中性的な趣の光稀さん。とても優しい光稀さん。笑顔の素敵な光稀さん。

 透子さんは、光稀さんのこんなところにきっと惹かれたんでしょうね。こんな私にも、優しくしてくれて、本当に嬉しいです。


「雰囲気出てるなぁ。昼間はあんなに幻想的な場所だと思ったのに、ちょっと歩くとこんなに怖くなるもんなんだね」

「そっ、そうですね。とても怖いです。す、すみません、本当に私、怖がりで」

「あ、じゃあさ。怖さが飛ぶような話でもする?」

「いいですね。ぜ、ぜひそうして頂けるとっ」


 ぷるぷると震える私を見かねてか、光稀さんがいい提案をしてくれました。


「あのさぁ、この前泉ちゃん、侑と歩いてなかった?」

「へっ⁉︎」


 み、見られていたようです侑さん。な、何と返せばいいのでしょうか。でも侑さんからは光稀さんにも透子さんにも内緒って言われましたし。


「侑に聞いても教えてくれなかったんだよなぁ。だから泉ちゃんだったら教えてくれるかなぁって」

「えと、あの……ですね」


 侑さん、言わなかったんだ。侑さんが大事にしている光稀さんに、聞かれても。


「あの……、ぐ、偶然会ったんです。たまたま。私が夕食の買い出しをしている時に……」

「なぁんだ。そういうことか。侑も変だよな。それくらいだったら教えてくれてもいいのに」


 ごめんなさい、光稀さん。私、嘘……ついてしまいました。ものすごい罪悪感でした。光稀さんは私にもこんなにも良くしてくれているにも関わらず、私は光稀さんに嘘を言ってしまいました。


「でも、良かったね、泉ちゃん。侑に会えて」


 ふわっと微笑んでくれる光稀さん。光稀さんは私の恋を応援してくれているのに。侑さんには内緒って言われたけど、私……。


「あ。仕掛けのポイント到着〜」


 林を抜けると、そこには小さな河原があり、魚を取るための網や籠などが設置してありました。ここが折り返し地点となります。


 私たちは来た道ではなく、元の場所へ戻る道を見つけると、2人でその暗闇の中へと入って行きました。

 私の光稀さんのシャツを握り締める力は、より一層強くなっていました。

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