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フェルバラック Ⅲ

長い間更新が止まっていて本当にすみませんでした。

しばらく更新する勇気が出なくて、ためらっていました…。

色々と拙いところばかりの文章ですが、とりあえず完結までは時間がかかってもなんとか進めたいと思ってます。

拙作にここまで付き合っていただけている皆様に感謝です!

 

 聖女様がようやく晩餐や夜会に出席できそうになったのは、それから十日ほども経ったころだった。

 おそらく前回の浄化のときの焼き切れた構築文が原因なのだろう。それでも完璧とは言い難い体調で、でもこのままじゃいつまで経っても進まないからと聖女様に押し切られて、オーウェンは渋々聖女様のための夜会への出席を承諾した。


「ルナ、これから衣装合わせですけど、きつくはないですか」

「うん、大丈夫……」


 歓迎の夜会とあって、これでもかと聖女様を飾り立てようとするフェルバラックの侍女たち。その手に輝いている物々しい宝石の数々に、首を振る。

 今の聖女様には酷く締め付けるコルセットも、足元をふらつかせる高いハイヒールも、体を冷やす胸元の開いたドレスもどれも危険だ。ブリジットさんと一緒にこれでもかと注文をつけて、なるべく聖女様の負担にならないものを選んでいく。


「ブリジットさん、あとはちょっとお任せしても?」

「ああ、いいけど……どうしたんだ」


 部屋の片隅に座り込んでグリモワールを広げだした私に、ブリジットさんが興味津々と覗き込んでくる。


「許可が出たので、ルナの装身具に軽量化の構築文を描き込もうかと」

「それはいい。ぜひ頼むよ」


 ブリジットさんの返事は半ば入ってこなかった。今手元にあるグリモワールだけでなんとか最善を尽くそうと、限りある時間を惜しむように宛てをつけておいたページを次々とめくっていく。

 ティアラにイヤリングにネックレス。ブレスレットにアンクレット。あとできればハイヒールにも手を付けたい。身につけるものはわんさかある。使われている素材になんとか目星をつけながら、次々と構築文を試していく。








 そうやって時間いっぱいギリギリまで構築文を練っていたせいで、気づけば自分の準備をする時間がなくなっていた。

 取り急ぎおすすめされたドレスを着せてもらって、簡単に髪を結ってもらう。すぐにオーウェンが迎えに来て、ふらつく聖女様を支えながら会場のホールまでエスコートし始めた。

 今回サポートにつくのはオーウェンを筆頭に私とブリジットさんだ。見回り役のセヴランさんはさっそく会場の中に溶け込んでいて、もうその存在がわからなくなっている。


「ソフィ、困ったときはすぐに言ってね。いつでも聞いてきていいからね」

「オーウェン、また悪い癖が出てますよ。オーウェンはルナのことだけ考えていてください。自分のことは自分でなんとでもできますから」


 オーウェンの優しい言葉にすげなく返すと、隣でブリジットさんと聖女様がかすかに笑った。それで聖女様は少し緊張が解れたようだった。


「くれぐれも忘れないでください。今の私は『魔術師ランドルフ』です!」

「わかったわかった、ごめんって!」


 オーウェンは情けなく頭をかいたが、次の瞬間にはキリッと表情を引き締めた。


「じゃあ、行こうか」


 その様子は何度目にしたって見惚れてしまう。まるで王子様のようなきらびやかな姿。すらりと伸びた姿勢から伸びやかな腕が聖女様を支え、二人の周りには近寄りがたいほどの華やかな雰囲気が漂う。

 そこにはずっと私が目で追っていた憧れがあった。ずっと独り占めしていた優しさがあった。ずっと惹きつけられていた美しさがあった。自分になくてずっとずっとほしかったそれらに押し負けないように私は一旦表情を消し、それから緩やかに口角を上げる。

 すぐに取り囲んできた貴族たちから今度は聖女様を守るため、私は笑顔の下から言葉という武器を取り出す準備をした。








 夜会は概ね順調だった。

 なにより聖女様には場慣れしたオーウェンとブリジットさんがついている。二人がいれば問題が起こるわけもなかった。

 いつもの癖で会話の合間に会場内を見渡す。ふと見えたライルの姿に、私は思わず息を呑んだ。

 ライルは会場の隅で美しい女性と二人きりでいた。二人きりでなにか楽しそうに話しているようだった。そしてその姿はいつものつまらなそうなやる気のないライルの姿とは掛け離れていた。

 ……よくよく見ると、隣の女性はリザベルだった。あの最初に人懐こく話しかけてきた騎士だ。いかつい騎士隊服を脱いで美しく着飾ったリザベルはまるで別人のようだった。

 華やかな金髪を複雑に結い、しなやかな筋肉を飾る鮮やかなドレスは会場内でも特に華やかだ。長い腕で身振り手振り、リザベルはとても楽しそうに話して、笑って、はしゃいでいた。

 ――お似合いだな。そう思ってしまった。仕事に追われて簡単に着るものを着て出てきた私とは違う。おべっかでおざなりにダンスに誘われる私とは違う。

 私だって、私だって――オーウェンやライルのように生まれてこられたらどんなによかったか。

 なんで私だけ黒の一族なんだろう。みんなと違うんだろう。こんな役回りなんだろう。

 考えても詮のないことが一気に頭を駆け巡ってしまって、一瞬息を詰める。それからゆっくりと息を吐き出した私に、ブリジットさんが声をかけてきた。


「ソフィ?」

「会場内は問題はないですよ」


 大丈夫だ、まだ笑えている。口角は上がっている。ライルたちの様子から視線を剥がす。

 聖女様の安全は引き続き確保できていることを報告すると、ブリジットさんは安心したように笑った。


「いつもいつも助かるよ、心強いな」


 それに曖昧に笑い返して、すぐに聖女様に話しかけてきた貴族たちに相対する。

 まるで嫌がらせしてくるかのように時間は遅く、いっこうに過ぎてくれなかった。








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