終わりの始まり 3
リツとサクラに食事を取ってくるように伝えると、リクは椅子に腰かける。
目を閉じて、じっと考える。
リツの言葉が頭の中で繰り返される。
「リクがいいと言えば、大抵のことは大丈夫なんだからっ」
期待に応える。
今までも、これからも。
『それが自分の役割なのだから』
その言葉で、自分の怯えに抑え込み、思考を巡らせる。
リツとサクラの様子を思い出す。
今回のことは、サクラの絵図なのだろう。
リツは、お人好しで単純で、どう考えても利用されやすい。
しかし・・・。
いまさらにサクラを責めたところで、どうにもならない。
かえってリツを頑なにしてしまうだけだ。
リクの中で、「ウィルス」による効果はまだ不明瞭だ。
期待はしてしまう。ただ、どれだけ効果あると予想されても、予想は予想でしかない。
現状では説得の材料として弱い。
今はまだ、皆には伏せておく。
ぽつぽつと集会所に戻ってきた面々を眺める。
誰もが幼い頃から知る顔だ。
一人一人の兄弟も、親も、その性格も、声も、癖も、自分は知っている。
誰一人として、失いたくない。
そう思い、皆の顔を一人一人確かめていく。
仲間たちは、食事を終えたばかりだというのに、思いつめ、暗い表情を見せている。
リクは覚悟を決める。どのみち、もう逃げ場はない。
大型種が姿を見せ始めたころから、リクも今の危機を可能性として予想していた。
自分は何も諦められない。
何一つ諦めることが出来ない。
戦わなくてはならない。
無様でも無力でも、それがたとえ届かないとしても。
全てを尽くして、超えられぬ壁を越えて、皆と生きていきたい。
その為に、無理にでも全員を一つにまとめ上げる。
息を整えて、ゆっくりとそれぞれを見渡して、皆の求める言葉を伝える。
「皆聞いてほしい。一番可能性があり、そして危険が少ない方法だ。」
リクは、落ち着いた声で言いきる。
本当は、そんな方法なんてない。
いつもギリギリの選択肢の中を駆け抜けてきた。
今回はそれ以上かもしれない。
皆が静まり返り、次の言葉を待っている。
「研究所の全戦力と、各集落との連携をもって、掃討を行う。」
常に希望が、皆の道を決めてしまう。
それが、綱渡りのロープに続いていようとも。
ユウタが不安げにこちらを見る。
リツの意見に賛同していた者たちは、皆お互いの顔を見合わせている。
疑問の声を上げようと、彼らが口を開く前に、次の言葉をかぶせて場を押さえつける。
「リツの賛同も得ている。彼女はこの作戦の重要な部分を担っている。」
そうであれば・・。
意見を一つにまとめたいのは皆同じである。
否定的な意見があったとしても、今は発言をしづらいだろう。
「全員が同じ目的を目指し、一人一人が協力し、力を合わせさえすれば、成し遂げられないことなんてない。」
それが夢物語のような言葉であったとしても・・・だ。
リクの言葉は、不安を高揚に変える。
皆の意識を一つへ誘導する。
「我々は生き残ってきた。これからも生き残り続ける。」
顔を伏せていた者も、口々に意見を述べていた者も、今はリクの表情をじっと見つめている。
リクはその顔に瞳をあわせ、懇願の表情で伝える。
「全員の意見が必要なんだ。一人一人が知恵を振り絞ってこそ、我々は生き残る。」
実行に向けて、細かな問題点をあげる。
チーム分け、作戦の日時、戦力の再確認。
皆に確認させ、互いに議論させる。
実際は、自分が最後に調整をかけるつもりだ。
もちろん皆の意見も参考にはなる。
ユウタが目を輝かせ、皆に外の状況を説明しだした。
議論は熱をもち始めた頃、リクは席を離れ、皆をおいて廊下にでる。
誰もリクが席を離れたことに気が付いていない。
押さえつけていた鼓動が一気に乱れ、リクは胸を押さえて壁に手をついた。
自分の行いの罪深さを感じ、何かに祈る。
引き金は自分が引いた。
誰も後戻りは出来ない。




