生きよう Laboratory side 3
強化防護服のモニターには、古びて幾つかの線が入っている。
なんとか起動はするが、補助の力は以前ほどはない。
今は、それ単体では兵器とは呼べない代物である。
重さを感じない、全身鎧を着ている程度の物に成り下がっている。
研究所外縁部にて、索敵を行う。
89式5.56mm小銃を構え、外敵を排除する。
予想以上に、大型のゴブリン、通称『オーガ』の数は多い。
まだ、自動小銃があれば容易に排除できるものの、この数を日常的に処分できる力は、研究所にはなかった。
そして気が付く。
森に他の生物の気配がない。
全くいないというわけではないのだろうが、不自然なほど他の生物を見ない。
ほんのわずかな期間。
ここ数年の間だけであるが、彼女は研究所内部中心に活動をしていた。
その間に世界は大きく変化している。
明らかにオーガの数が増えすぎて、生態系を壊しつつあったのだ。
「このままでは・・」
言いかけて言葉を飲む。
このままでは世界は再び崩壊するであろう。
もしかしたら、もう既に崩壊は始まっているのかもしれない。
ただ、それを言葉にすることは、怖いと感じた。
研究所に近い位置の集落を目指す。
此処には武装部隊が向かったはずであるが、その後の連絡が途絶えている。
恐らくは、最悪の事態になっているのであろう。
他の可能性に思いを巡らせるが、どれも滑稽な希望に思えてしまう。
強化防護服を着た状態でも、2時間ほどかかる道程。
不意に現れるオーガやゴブリンの投石は、十分な武装をもってしても、十分な脅威である。
武器や弾は、過去の遺物を中心に利用している。
現状は武器の生産能力は皆無に等しい。
こちらの戦力は年々弱まり、ゴブリンやオーガは年々増えている。
この事実だけで、胃液を戻しそうになる。
自分だけは、倒れることも死ぬことも許されていない。
その思いだけで、さらに前へと進む。
道に延々と赤い筋が見える。
それは一つでなく、複数の赤い筋であり、最終的に一つの道に集約される。
その先には、かつて自分が組み立てた集落の一つがあった。
おそらくは、死体を引きずったであろう道筋。
この集落は絶望的な状況であることは、明らかである。
高台にのぼり、集落の内部を探る。
モニターのズームを最大し、壁の内部の様子を映し出す。
すでに掠れて、色を失ったモニターに怪異の光景が広がる。
同族の遺体を喰らう、ゴブリンやオーガが多数。
それに見慣れぬさらに大型種の姿もあった。
大型種は、手近に居る同族を掴むとそのままゴリゴリと噛み砕いている。
容姿は彼らの中でも、特に奇形であり、ぶよぶよとした皮膚が全身で垂れている。
「共食いモルフ」
ずっと以前に見た研究レポートを思い出す。
両生類の類が、ある一定数を超えると生み出す、共食いの怪物。
二回り以上も大きな奇形の体躯。
生殖能力を持たず、近親を除く同種を喰らう。
あの個体が、共食いモルフと同様の性質であるかはわからない。
ただ、既にあのようなものが生まれる状況にまでなっている。
恐らく、彼らの生息数は私たちの予想をはるかに超えていたのだろう。
ここから先の数年で、生き残るのが彼等か人類か・・・。
恐らく共食いを積極的に行う彼らに分がある。
この集落一つを処分したところで、何も変わらないかもしれない。
それでも、この奇怪な光景に耐えられず、銃口を彼らに向けた。




