私の罪 4
リツが戻ってきて、二人でついていく。
ユカリが手を伸ばしてきて、その手をしっかりと握る。
細い指が握り返してくる。
食堂の廊下には、色あせた造化の観葉植物が揺れて、照明がいくつか点滅していた。
「ここで」
と、告げられた部屋は医務室である。
扉の横には、長椅子が置かれている。
リツが、むずがる子供をあやす様に、ユカリの手を引いて、ともに座る。
心配そうに見上げるユカリに、待っていてほしいと告げる。
中に入ると、二宮良子がなにか機材を用意していた。
「医者ではないから、すこし痛いかもしれないわよ」
何かの針をみせて、笑ってこちらを見る。
採血をするのだろう。
ブルーの合皮の角が、ほつれた寝台に横たわる。
天井の照明は、いくつか切れている。
言葉とは異なり、痛みもなく採血が始まる。
「あとで、精液の採取も協力してね。」
なんなら手伝うわよと、おどける彼女に苦笑して手をふる。
そうして、すっと笑いが消えて問う。
「何に使うか、聞かないの?」
なんとなく予想がつく、自身のクローンであろう。
無言で答えると、横たわった自分の髪をなでて、彼女が自嘲し、つぶやく。
「アダムとイブね」
こんな話だったかしらと彼女は苦くわらう。
自分の分身ともいえる存在が生まれることについて、予想もつかない。
彼女が『狂った魔女が人形をならべて笑っているような』と評したような、そんな気持ちになるのだろうか。自分には何もわからない。
「いやがらないのね・・」と彼女は問う。
「なんで、投げ出さなかったの・・・」問い返す。
まるで、何でもない昨日の話をするように、彼女は話す。
「最初は夢中だったの、たぶん自分が生き残ったしまったことで、責任を感じていたのね。」
採血の容器を取り換えて、容器の血液を眺めながら答える。
「ただの偶然なのに、選ばれちゃったって思ったのよ。」
こちらを見て、懐かしいものを思い出したように笑う。
痩せて、それでも優しい笑顔は、確かにユカリと似ていると感じる。
「子供が生まれるたびに、良子の「り」の字をつけるって大騒ぎするあの子達をね」
「ほっとけなかったのよ・・・。」
それは、きっと自分にはわからないくらい、長い年月繰り返されてきたのだろう。
「男性のそういうのは、今一つわからないのだけど、精液の採取はできそう?」
ちいさなコットンで、採血後を抑えて問われる。
たぶん、大丈夫だろう。
「協力は必要かしら?」
そんなことされたら、緊張で何も出ないよと笑って答える。
「残念だわぁ」と笑って返す姿は、やはりユカリを思い出させた。




