死者への祈り
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少年の口に耳を寄せる。
か細いが、息はある。
声をかけても反応はない。
体温がひどく高い。体の傷口から化膿した臭いがする。
顔を確認する。今まで見たことがない顔だ。
カイにも聞くが、駅の町の住人ではないらしい。
近隣にある町が、襲われたのだろうか。
上着を脱いで、少年を背中に括り付ける。
周囲の警戒を二人に頼み、町へ戻ろう。
耳の中で、心臓の音が『バクバク』と大きな音をたてている。
少年を背負ったことによる、肉体的なものだけではない。
野盗に対する、恐怖からのものが、大きいだろう。
あと数分で町に着くかというころ、道に出る途中で、
「グラァァ」という威嚇の吠え声がする。
声はそれほど近くない。木の根元にかがみ、周囲を伺う。
詳細はわからない。
少年を木陰にそっとおろし、手斧を構える。
おそらく声がしたのは、自分たちの進行方向だ。
カイとリョウに少年を託し、先行して様子をみる。
恐らくは過去の道路であろう、
森が開けたところで、女性が道に倒れていた。
倒れた女性に向けて、石が投げつけられている。
その方向には、緑色の人影がある。
まずい。2匹いる。
カイとリョウに状況を告げる。
「リョウ、少年を頼めるか」
リョウはナイフを握りしめ、頷く。
カイと2人で、木陰より様子をうかがう。
おそらく、女性は相当に弱っている。
もしくは、既に死んでいるのであろう。
石を投げていた2匹が、女性のもとへ向いだした。
「いくなら今です」
カイの声に合わせ、木陰から飛び出す。
背を追いながら、手斧を投げる。
一匹の背中にあたり、背に傷を負わせる。
血は出ているが、傷は浅い。
ゴブリンは振り向き、こちらを見ると、逃げ出し始めた。
もう一匹に向け槍を突き刺す。
『グシャリ』と肋骨を砕く音が聞こえ、相手が倒れる。
「よけて」
カイの叫び声が聞こえ、身をかがめる。
逃げたゴブリンが、苦し紛れで投げた石が額をかする。
カイが石を投げ終えたすきを狙い、ナイフでゴブリンの太ももを切り裂く。
叫びをあげ、倒れた相手の胸元を踏み込む。
つぶれた蛙のような音を立てて、ゴブリンは絶命した。
「まだいるかもしれません。」
周囲を警戒しながら、女性の様子をうかがう。
青ざめた顔いろの女性は、すでに息をしていない。
投げられた石の跡が、額に黒ずんだ窪みを作っている。
ユカリさんによく似た、痩せこけた優しそうな女性だった。
リョウのもとへ戻る。
リョウは震えながらナイフを構えていた。
こちらを見ると、へなへなと座り込む。
後ろの少年の様子を見る。
少年の顔はもう苦しんではいない。
苦しそうな息も、もうしていない。
呆然と少年をみる。
現実だという実感がない。
カイが早く戻るべきだという声に「あぁ」と答える。
震えるリョウの手をつかみ、立ち上がる。
土にまみれた魚を拾い上げて、カイが皆を促す。
「急ぎましょう」
少年を見て、祈るような仕草をすると、町へ向かう。
混乱しながら、その背中を追った。
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