順番
酒場と呼ばれる場所に来る。
スターボックスと英語で書かれた看板の店だ。
店に入り声をかけるとよろよろと立ち上がる人影がある。
リョウが人影に向かって歩いていく。
店の人に近況を報告しているようだ。
銀髪でメイド服のような服を着た女性が、リョウの話を聞いている。
確かこの喫茶店の制服は、そのような感じだったかもしれないと眺める。
話し終え、二人がこちらに向かってきた。
「リョウちゃんがお世話になっております。町の酒場で働いております。ユカリと申します。」
「いえ、こちらこそよろしくお願いします。」
ふと疑問に思う。みんな苗字を名乗らないな。
リョウにコソコソと聞いてみる。
「苗字って名乗らないの?」
「苗字ってなんですか?」
リョウが猫の子のように首をかしげる。
意外な文化が消失していたようだ。
苗字がない。
まあ少人数の集まりであればいらないのかな。
あわててユカリさんに名乗る。
「コウと申します。よろしくお願いします。」
挨拶を済ませると、ユカリさんがリョウちゃんが男の人を連れてくるなんてと、からかう。
リョウは顔を真っ赤にして、反論している。
まぁいいのだけど、否定されすぎるのもなんかへこむな。
ユカリさんを眺めてみる。
服装には気を使っているのだろう。新しいものではないが綻びもきれいに繕われている。
どことなく上品な雰囲気を感じさせる。
少し痩せすぎな体だが、笑顔がよく似合う。
やはり栄養が足りていないのかもしれない。
もうじき行商人が来ることをユカリさんに伝え、中で待たせてほしいとお願いする。
注文をしたいのだが、こちらは手持ちがない。
ユカリさんは、出せるものがないので気にしないでいいと笑いながら、席をすすめる。
笑い事ではないのだろうが、もう笑うしかないのかもしれない。
席を進めた後、カウンターの裏に戻ったユカリさんは、椅子に腰かけて眠ってしまった。
ああやって体力を温存しているのかもしれない。
先ほどの笑顔が消えると、痩せたからだが痛々しく見える。
リョウは店の手伝いをして、食事をもらっていると言っていた。
給料はないと聞いて、待遇は厳しいのだと思っていた。
しかし様子を見る限り、リョウは大切にされていたのだろう。
ユカリさんの体は、自分の食事は十分にとっていないことを感じさせた。
流動食を渡すべきか悩む。
配って歩いていては、すぐになくなってしまうし、施すような真似が正しいとも思えない。
ただ、目の前のこの女性は、おそらくずっとリョウに食事を分け与えていたのだろう。
リョウよりずっと痩せている。
この町はこれから足がかりにするべき町なのだ。
親切な協力者は一人でも増やすべきだろう。
自分の中の考えをまとめ、流動食を進めてみる。
先程の会話で、最後の元気を振り絞ってしまったのだろうか。
辛そうに目をあけて、リョウちゃんにあげてくださいと優しく微笑む。
微笑みながら拒むユカリさんを、リョウがそっと押さえると、口に流動食を流し込む。
リョウはほとんど力を入れていないが、あらがえない。
「無理して拒否すると、無駄になってしまいますよ」
そう告げると、ユカリさんは覚悟を決めたように食事を受ける。
水も渡して飲んでもらう。
一連の流れで疲れてしまったのだろう。
少し休ませてくださいと、カウンターの内側で目を閉じて腰を掛ける。
この町は本当に、ぎりぎりの状態であっただろうなと思う。
リョウが話す。
「最初に大人の男の人から死んでいくんです。
みんなのために狩りに出かけて。
それから、あんまりいないんですけどお年寄りが食事を遠慮していなくなります。
次が女の人です。最後に子供が残ります。」
ユカリさんは大人の中ではまだ若く、いろんな人に後を託されてきたらしい。
心中を察して余る。
リョウがユカリさんに体を温めるように寄り添う。
しばらく休んでいなさいと告げ、その場を離れる。
自分に何かできないだろうか。
何かを求めて、頭の中がぐるぐると回っていた。




