終わりの始まり 4
「はい、あーんとしてください」
コウは、黙って口をあける。
リョウが、ふかしたジャガイモを小さく切って、口の中に入れてくれる。
「あつっ」
「あら、ごめんなさい。ふーふーしますよー。ふーふー。」
リョウは子供をあやす様に、ジャガイモをさますと、楽し気に口に運んでくる。
コウは心地悪そうに、それを甘んじて受ける。
二宮良子と子供たちも、二人の様子を真似て遊んでいる。
きゃっきゃ、あちゅいあちゅい。
ユカリは、怒っていて部屋から出てこない。
リョウと二宮良子、それと子供たちに囲まれて、なんともいえぬ食事を取っている。
「あとでちゃんと、ユカリちゃんに謝ってくださいね。」
最後の一切れを、コウの口の中に入れて、呆れ声でリョウが言う。
もぐもぐと口を動かし、黙ってうなずく。
事の起こりは今朝のことだ。
シェルターから数名をつれて、周辺の警戒と、食料採取を行っていた。
最近のコウの日課でもある。
コウと少年達の関係は最初はぎこちなかった。
しかし状況は、そんな人間関係を考慮できるほど余裕はなかった。
彼らは素直にコウの指導に従って、必死に食料採取に取り組んでいる。
秋になり気温が下がり始めると、魚の収穫量が目に見えて落ちてきた。
それなりに大きな池ではあったが、釣り続けてきたことも問題であったかもしれない。
コウは目先を変えて、カエルやザリガニを採取してみることを提案した。
小枝に糸と針を結び、さきにミミズや魚の切れ端をつける。
あとは土に小枝を指して放置する。
周辺を警戒がてら、薪にできそうな枝をひろい、野草を集める。
小松菜やクコの実の群生を見つけ、それを集めると、期待以上の収穫量があった。
池に戻り、小枝をあげる。
どれにも大ぶりのカエルがかかっており、少年たちは歓喜の声をあげた。
早々に期待以上の収穫を得て、食料をそれぞれに分け合う。
シェルターに住む者も、町に住む者も、今日明日は十分な食料がある。
少年たちは久しぶりに満足いく食事で腹を満たす。
余った時間で、コウは釣り針の作り方を指導する。
少年たちは皆熱のこもった表情で、それを見つめる。
拾ってきた金属片を火であぶり、軽く温める。
あたためた砂をかぶせ、ゆっくりと時間をかけてさます。
そうすると金属片はわずかに柔らかくなり、加工しやすくなる。
一般に言われる、「焼きなまし」だ。
金属片の端を、ナイフで削るように切り取る。
太めの針金のような、細い金属片をいくつか作ると、釣り針の形に整える。
今度はそれをもう一度火にかけて、赤くなるほどに熱する。
水につけて急激に冷やす。
釣り針は固くなり、指で押しても曲がらない。
こちらは「焼き入れ」だ。
一人の少年に実際に作業させて、その様子を眺める。
彼はそれを手品のように驚きながらも、手順に従って作業を進める。
出来上がった釣り針を眺め、そしてコウを尊敬のまなざしで眺める。
「割と脆いから、数を作って補おう。」
コウの言葉に、彼らはいそいそと作業を進める。
そして手に入れた釣り針を眺めて喜びあう。
そこまでは良かった。
「コウさんは凄い。兄や父はこんなことを知らなかった・・・。」
少年の中の、誰か一人がつぶやく。
悪気は無かったのだろう、だが、それは口にしてはいけない言葉だった。
突発的につかみ合いが始まり、殴り合いに発展する。
コウは必死にそれを掴んで止める。
「今誰か怪我をして、それがどれだけ迷惑をかけるか考えろっ。」
コウの言葉を受けて、少年たちは、いったんは素直に従う。
しかし、互いににらみ合ったままの状況が続く。
彼らの根にある悲しみを考えると、このままでは遺恨が残るかもしれない。
コウはそう思い、彼らに一つの提案を行う。
「相撲で勝負を決める。神聖な勝負だ。」
彼らにルールを説明し、息が切れ、立てなくなるまで取り組みを行う。
意味が分からぬままに、彼らはそれに従い、次第に熱中した。
怒っていた理由を忘れるまで、それを続ける。
いつの間にか、コウは皆と順に取り組みをすることとなる。
最初こそ、圧倒していたコウであったが、次第に体力が尽きてくる。
そして投げられて、両手首を挫いてしまった。
痛みで苦しむコウを見て、少年たちは我を取り戻した。
少年たちに担がれて、酒場に担ぎ込まれる。
カイとタケルが慌てて駆け寄って、手当てを行う。
必死に事情を説明する少年たちの向こう側で、ユカリの目が冷たくコウを見つめていた。




