92.ちょっとした試練?
宿屋を出て、三人でメルタテオスの観光と探索。
午前中にちょっとした教会を見たあとに昼食をとり、その後しばらく歩いているとそれっぽいお店を発見した。
「アイナさん! ありましたね、ミラエルツと同じ感じのお店!」
「結構探しちゃいましたね。とりあえず魔法陣は買うんですけど、他にはどんな素材があるかなー?
何が出てくるか分からないから楽しみです!」
「それでは入りましょう。足元が暗くなっていますのでご注意ください」
「うん、ありがと。
こんにちは、お邪魔しまーす」
「ひぇっひぇっひぇっ……。いらっしゃいませ……」
「「「ひぇっ!?」」」
「ひぇっ……?」
お店の人の言葉に三人一斉に驚くと、向こうも驚いていた。
「あ、あれ……? ここ、メルタテオスですよね……? 急にミラエルツに戻ってませんよね……?」
「も、もちろんですよ。でも……あれ? 私、混乱してきました」
お店の人の風貌はいわゆる『魔女のお婆さん』といった感じ。
この人はミラエルツで見たことがあるんだけど……。
「ああ……お前さんたち、ミラエルツのお店にも行ったのかい……? ひぇっひぇっひぇっ……」
「はい? もしかして、ここでもお店をやっていたんですか?」
「ああ、あっちはねぇ……私の姉さんだよ……」
「えっ」
一瞬驚いたものの、そのすぐあとには納得した。
なるほど、同じ見た目と雰囲気だから驚いたけど、一卵性の姉妹なのかな。
「なるほど、よく似てますね。双子ですか?」
「ひぇっひぇっひぇっ……。私の上に、もう一人いるよ……。三つ子なのさ……」
「ひぇっ」
それはさすがに予想外。
「姉さんは元気だったかい? さすがにこの歳になると、気軽に遊びに行けなくてねぇ……」
「確かに馬車でも一週間掛かりますしね。お元気でしたよ、二回ほどしかお世話になっていませんけど」
「そうかい、そうかい。それじゃうちでも、気軽に買っていっておくれねぇ……」
「ありがとうございます、ちょっと見させて頂きますね」
「はい、ごゆっくり……」
お店の広さはミラエルツと同じくらい。
置いている品物も基本的には同じような感じだが、薬草の種類とかが少し違うみたいだ。
今回お目当ての魔法陣は――あ、良かった。結構置いてあるぞ。
それじゃ買っちゃおうかなっと。
「すいません。
ここからここまでと、あそこからあそこまでと、そこからそこまでくださいな」
「ひぇっ……?」
お婆さんは思わず、といった感じでエミリアさんとルークの方をちらっと見た。
「あ、ミラエルツでもこうでしたので……お会計、よろしくお願いします……」
「お手数をお掛けします……」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「――はい、確かに……。
それにしてもお前さん、こんな量をぽんっと買うなんて……すごいんだねぇ……」
「え? そうですか?」
「私たちはミラエルツでもう二回見てきましたし、何だかもう慣れましたね」
「そうですね……」
エミリアさんとルークが何やらぼそぼそ喋ってるけど、よく聞こえないなぁ?
「ひぇっひぇっひぇっ……。ところで、姉さんは少し変わったものを見せてくれなかったかい……?」
「変わったもの、ですか?
――もしかして、『竜の血』とかですか?」
「おぉ……。ついに手放したのか……」
「あと、『精霊の魂』と『不死鳥の羽』と『闇の石』も買わせて頂きました」
「ひぇっ……? まさかそこら辺をすべて出すなんて……。買うお前さんもお前さんだけどねぇ……」
「あはは、お高い買い物でしたよ」
この四つで金貨140枚だったしね。
「ふぅむ……。姉さんは金に困っても、認めない人には良いものは売らない性格だからねぇ……。
よし、アタシもとっておきを出しちまうかねぇ?」
「え? とっておきですか?」
「今のところでもずいぶん買ってもらったからねぇ。ま、お金がまだあるならの話だけど……ちょっと待ってておくれ」
そう言いながらお婆さんはお店の奥に引っ込み、しばらくすると瓶を抱えて戻ってきた。
「お待たせしたねぇ……。
生憎と姉さんほどは持ってはいないんだけど、これが私の秘蔵のお宝さ……」
お婆さんの持ってきた瓶の中には、キラキラと輝く石がいくつも入っていた。
「これ、何ですか?」
「ああ、これは『光の魔導石』といって――」
「全部ください」
「ひぇっ!?」
「「ひぃ……」」
「そ、そんなに即決して良いのかい……?
使い道とか、分かるのかねぇ……?」
いやいや! これって『神剣デルトフィング』の素材のひとつだよ?
神器に近い素材のひとつだよ!? ここで買わなきゃいつ買うの!
「ひとまず、とある武器に使われていたことは知ってます!
これを探してました、全部買います。おいくらですか?」
「う、うーん……。まさか全部とはねぇ……。
さすがにそう来られると、アタシもちょっとお前さんを試したくなってきちまうねぇ……」
「えー?」
しまった、もう少し焦らせば良かったかな!?
でももう遅いか。
「分かりました。何でもどうぞ」
「ひぇっひぇっひぇっ……。そうかい、そうかい。
それじゃ何をお願いしようかねぇ……」
お婆さんはしばらく考えたあとに、怪しいドクロのネックレスを出してきた。
「お前さん、例の魔法陣を買っていくってことはアーティファクト錬金をやるんだろう?
それならちょっと、このネックレスに効果付与をお願いできるかねぇ……」
「え? そんなことで良いんですか?」
「ひぇっ……? だ、大丈夫かね……?」
「えぇっと、大丈夫ですけど……。あ、付ける効果は何でも良いですか?」
「何でも……?」
「いえ。ステータスが良いとか、別の効果が良いとか……」
「別の効果……。いやいや、お前さん、アーティファクト錬金を本当にやってるのかい……?」
「やってますよ、昨晩が初めてでしたけど」
「ああ、そうだったのかい? それじゃまだまだひよっこだねぇ……。
まぁ、できるところまでやってごらんな……」
「……? 分かりました、それじゃとりあえず明日にでもまた来ますね?」
「あ、明日……? 無理はしないようにねぇ……?」
「はい、それじゃ今日はありがとうございました。
ドクロのネックレスはお借りしていきますね」
――うぅん? 何だか最後の方、話が噛みあわなかった気がするけど……何だろう?
まぁいいや、ルークのネックレスのついでに、依頼されたネックレスにも何か付けて来よう。
付くのは何でも良いんだけど、良すぎるのはここには付かないで欲しいかな。付くならルークの方に! ということで、ね。




