75.まるで抱き合わせ販売のように
私たちは今日も冒険者ギルドの依頼で魔物討伐に来ていた。
今回受けた依頼は、森の奥に棲みついたラージスネイクを二体討伐するという内容だ。
なんだかんだでミラエルツ近辺の魔物の種類はあまり多くはなく、そのためラージスネイクとは既に何回も戦っているのだが――
「そういえば、今回は森なんだね?」
「はい。ラージスネイクがいるのは、いつも岩場や砂地でしたからね。確かに珍しいかもしれません」
「でも岩場とかよりは涼しくて気持ち良いですね~。まぁ……ちょっと虫がアレですけど」
エミリアさんは手をはたはたとさせながら何かをしている。
虫を追い払っているのかな?
「いつもと勝手が違うところは注意しなくてはいけませんね。樹が生えている場所ですと、私の剣の邪魔にもなりますし」
「私の魔法も樹が邪魔をしてしまうかもしれないですね」
「私は――いつも通りなので、二人とも頑張ってください」
ずっと魔物討伐に参加している割に、私はこと戦闘においては未だに役立たずである。
うーん、そういえばお金も結構あるし、魔法をぱぱっと覚えられる魔法道具を買うっていうのも良いのかな。
買うのじゃなくても、そういうのはダンジョンにある場合もあるんだっけ? でもそれは王都の北にあるっていうからなぁ……。
「――あ、そういえばエミリアさん。私たちと一緒に旅をするのは王都まででしたよね」
「え? はい、そうですね」
「王都に着いたらすぐお別れですか? 王都ではまだ一緒にいられます?」
「特に具体的には決めていませんでしたね……。どうしてですか?」
「ミラエルツを出たら、一気に王都まで行くのも良いかなって思っていまして。
でも王都に着いてすぐにエミリアさんとお別れなら、次の街で少し何かやっていこうかなーって」
「なるほど……。でも私のために道中を遅らせるのも申し訳ないですね。
ではアイナさんたちが王都を出るときまではご一緒させて頂きましょう!」
「大丈夫ですか?」
「大丈夫です! まぁ、きっとなんとかなります!」
それじゃお言葉に甘えて、基本的には王都まで一気に行こうかな?
途中の街には少しくらいは滞在するだろうけど。
「良かったですね、アイナ様」
「うん、良かった良かったー。エミリアさんとはお別れしたくないもんね」
「あはは。ありがとうございます」
気兼ねなく一緒に旅をできる仲間がいるっていうのはとても素晴らしいことだからね。
今はそんな時間を一緒に過ごしているんだけど、やっぱりいつかはお別れがきてしまうわけで。
そう考えると寂しいものだけど、可能な限りは一緒にいさせてもらおう。
「……それにしても、ラージスネイク先生はまだですかね」
「依頼の内容によればもう少し先のようですね。そろそろ慎重に行きましょうか」
「はーい。集中、集中!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「いました」
「はい、いました」
「いましたねー」
森を奥に入っていくと樹の生えていない広い場所があり、そこにラージスネイクが二匹集まっていた。
「……あれ、二匹が一緒にいるね。これは予想外……」
「確かに珍しいですね。……ふむ、どうやって倒しましょうか」
「いつもならこの距離だと気付かれそうですけどね……」
しばらく様子を見ても、ラージスネイクはぴくりともせず。
やっぱり何かいつもと違う感じだ。
「アイナ様。ここは遠距離から攻撃して、不意打ちをするのが良いかと」
「そうだね。それじゃエミリアさん、魔法でお願いします。他に遠距離攻撃っていっても、私の爆弾くらいしかないですし」
「それならアイナさんもせっかくですし、爆弾を使ってみてはどうですか?」
「いやいや、さすがにこんな森では使いにくいですってば」
「それは残念。では、私の準備は大丈夫なのでいつでもどうぞです!」
「それでは始めましょう。アイナ様もよろしいですか?」
「うん、大丈夫!」
私はいつも通り、エミリアさんの後ろにスタンバイ。
あとはもう自分の身を守るだけである。実に嘆かわしい。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「――シルバー・ブレッド!!」
エミリアさんの声と共に、聖なる力の塊がラージスネイクに向かって撃ち放たれる。
バシュッ!
攻撃は見事にラージスネイクの後頭部に直撃し、結構なダメージを与えたかのように見えた。
しかしその攻撃でエミリアさんの存在に気付いたラージスネイクは、一直線に彼女との間を詰め始める。
しかし――
「ハァアアッ!!」
バシュッ!!!
横から、木陰に隠れていたルークの一閃であっけなく頭を斬り飛ばされた。
そのまま身体はエミリアさんのところまで滑ってきたが、それを避けるなんてことは彼女にとって造作もなかった。
ちなみに私もしっかり避けたよ、ちょっと当たりそうになったけど。
「まずは一匹――って、あれ?」
一匹目を倒したものの、もう一匹が動く気配はまるで無かった。
ルークもこれは想定外だったようで、少し先でもう一匹のラージスネイクのいる場所を遠巻きに覗き込んでいる。
「――アイナ様。何だか様子がおかしいので、ラージスネイクに鑑定をお願いしてもよろしいですか?」
「うん、そうだね。ちょっと待ってね」
変に近寄って疫病とかをもらっても嫌だからね。
それじゃ、かんてーっ。
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【ラージスネイク】
巨大な体躯で素早く地面を這う蛇
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普通! それなら状態異常とかかな?
かんてーっ!
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【状態異常】
魔石中毒
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……ませきちゅうどく? これは初めてみるものだね?
「――何か状態異常で、『魔石中毒』だって」
「魔石中毒ですか……? ずいぶんと珍しいものに出くわしましたね」
「知ってるの?」
「ええ。魔物が魔石を体内で合成するのはご存知かと思いますが、その力が飽和するとああいった感じで動きが止まるらしいんです。私も初めて見ましたが」
「へぇ……。飽和ってことは、魔石を持ってるのかな?」
「はい、そのはずです。倒してから探すとしましょうか」
「そうだね。でも気を付けて倒しましょ」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――とはいったものの、動かないラージスネイクなんてルークの一撃で瞬殺のわけで。
「終わりました」
「スムーズ過ぎて言うことがあまりないけどお疲れ様でした。それじゃ魔石を探してみよう!」
「アイナ様、一般的には頭か胸か腹にあることが多いですよ」
「なるほど。それじゃ鑑定で、そこら辺から探してみるねー」
「――というわけでココにあるようです」
私が指差したのは頭のあったところから少し下がった胴体のとある場所。
「私たちから見ると、外からそんなことが分かるアイナさんも大概なんですよね」
「私から見れば聖魔法やら剣術がすごいエミリアさんやルークも大概ですけどね」
「あはは、お互い様ですね」
「まったくですね」
そんなバカ話をしている間に、ルークがラージスネイクから魔石を取り出してくれた。
「アイナ様、どうぞ」
「うん、ありがと。さてさて、どんな効果かな?」
魔石を陽にかざしながら覗き込んでみる。
澄んだ石の中に微かな色が混ざり合っていて、なかなかに綺麗な石だった。
「――そういえばずっと討伐していたのに、魔石は初ゲットですね!」
「探そうとしなければ分かりませんからね。体内にあるわけだし……。さて、それじゃかんてーっ」
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【安寧・迷踏の魔石(小・小)】
高負荷の術の反動を15%軽減する。
不思議な音を出す
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……なに、コレ?
これは声に出して読むのも面倒な感じだからウィンドウに出そうかな。もう一度、かんてーっ。
「――ウィンドウに出したけど、こんな効果だそうです」
「へー……。こんな効果、初めて見ました」
「二つの効果が混ざっているようですね。これ自体はよくあることなので問題無いかと思います」
「なるほど。……あ、でも――『安寧』って、私が一番欲しかった効果かも!?」
『高負荷の術の反動』を『軽減する』!
もしかすると、これがあればユニークスキル『英知接続』の頭痛が和らぐかもしれない!?
「この魔石、私が使っても良いですか?」
「はい、もちろんです」
「大丈夫ですよ、欲しかったものならどうぞー」
「ありがとうございます!」
アイテムボックスから水を出して、軽く水洗い。ルークが血を拭いてくれたとはいえ、やっぱりしっかり洗わないとね。
「えへへ、それじゃ四つ目の魔石スロットに入れて……っと。よーし、できました!」
「おめでとうございます!」
「武器が育っていくって感じがしますね!」
「そうですね、嬉しいなー。効果は後で試してみないと分かりませんけど、多分いけるはず……!
――さて、それじゃ森の外に出て軽くお茶でもしましょうか!」
「はい」
「はぁい」
そして私たちはその場から立ち去ろうとした。
ぷぎゅ
「……ん?」
「アイナ様? 何ですか、今の音」
「……あー、もしかしたらもうひとつの……『迷踏』の効果でしょうか? 昔どこかでお話したことがあったかもしれませんけど――」
エミリアさんが少し驚いた顔で言う。
……ああ、そういえばあったかもしれない。
歩くたびに『ぷぎゅ』っていう魔石……。
えー……。よりにもよって、これに付いてくるんですかぁ……?




