093 攻撃手段確保
『というわけでどうしたらいいと思う!?』
『こんな切羽詰まっている状態で聞かないでください! もうちょっと普通の状態で連絡ください!』
巨大なワームに引っ付いた状態でアズラットはアノーゼに訊ねる。
その状況なのだからアノーゼとしても文句を言うに決まっているだろう。
実際普通の状態で訊ねていればまだ急ぎも焦りもなかっただろう。
『後で反省する!』
『絶対に嘘です! でも文句を言っても仕方ありませんし言い合いをしている意味もないでしょう! なので端的に話し合いますね!』
たった今ネーデが追われている状態であるのだから放置するわけにもいかないだろう。
なのであまりぐだぐだ話し合いをせず、必要なスキルを的確に取得する。
『とりあえず、どうしたらいい!?』
『そうですね……外側にいる状態、解放するわけにもいきません。その状態ではできない。単純に攻撃系のスキルと言っても、あまり有効ではありません。覚えたばかりのスキルのレベルを考慮すると、既存のスキルまたはそれに類する種族の能力を使用する前提で考えたほうがいい。単独のスキルで強力な力はそもそも無理ですから。その上、スキルは基本的にその個体の持つ性質で覚えられるものが限定されます。<念話>は私の<アナウンス>があったから覚えられたようなもの。人間の場合はかなり多種多様なスキルを覚えられますが、魔物や他の生物はまた別。スライム種であれば<水魔法>みたいなスキルは覚えられますが、<火魔法>は無理であるようにその適性にはかなり多くの問題が……』
『御高説はいいから!! そんなこと言っている余裕ないから!』
『っ! そうでしたっ!』
少し早口ではあったが、アノーゼの無駄に長い話が続いたのをアズラットが打ち切る。
『必要とするのは攻撃手段、特殊な攻撃ではスキルに依存する攻撃になる。であれば、できれば直接攻撃に関わるスキルがちょうどいい。しかし、難しい話です。例えば<斬撃>などのスキルとなると覚えられません。<変化>、<溶解>、そういう系統のスキルなら……? いえ、即効性がないのでつらいと思われますね。できればアズラットさんの能力に関わるものを、<圧縮>、<跳躍>、<防御>、<隠蔽>、関われるものとするなら<圧縮>か<跳躍>……まあ<圧縮>になるでしょう。<圧縮>、これ自体はあまり効果としては期待できないもの、常に使っている。使うことで取り込んでいる物を<圧縮>すれば潰すことができる、いえ、解放でも攻撃手段になる。そもそもそれが目的だったわけですから』
『今は無理だけどな。体内に入ればそこからできるんだけど』
『そこです!』
『え?』
『体内に入る、そういうスキルを得て体内に入って爆散すればいいんです! 表面じゃ難しいですが、多少表面に近くとも体内に入れば影響力はある!』
『それができればねえ……消化も時間かかるし、触れている部分からになるし』
体内に入る。確かにそれができればいいだろう。しかしそれができなかったから今の状態だ。
ならばスキルかスライムの持つ能力で入る、というのもありかもしれないが……それも難しい。
『そこでスキルです! 確か<圧縮>からの解放は部分的な解放による一か所から突き出る針のような感じにできるはず! それを使うんです!』
『……まあ、できなくもないけど、それで貫くのは』
『その勢いと、スキルの利用です! えっと、貫通系のスキル……<穿孔>のスキルでも!』
『そのまま<貫通>じゃダメなの?』
『恐らく<貫通>は覚えられません。微妙にわかりづらい種族の覚えられるスキル制限です。そもそも<貫通>だと例えば防御の上からダメージを通すのも一種の<貫通>、穴を開けることにも使えますが、他にも性能が分散します。それなら穴を開けることに特化している方がレベルが低くとも効力は高いはず』
スキルは専門的であればあるほど強力なものになりやすい。
<魔法>よりも<火魔法>の方が威力は高まると言ったふうに。
そうでなくともアノーゼの話では<貫通>は覚えられないので<穿孔>ということでもある。
スライムは物を貫通させるということはどうにも難しい。
できなくもないが、しかしそれは結果として。
その消化能力で穴を掘ることはできるのだから穴を掘るスキルは覚えやすい。
そういった地味に面倒な色々な制限というか思い込みというか性質というか。
まあ、細かい事情はともかく、スライムであるアズラットは<穿孔>でなければ覚えられない。
『あまりぶつぶつグダグダ言っても仕方ありません! 余裕ありますか!?』
『……ない、な。しかたない……! スキルよこして!』
『はい!』
<スキル:穿孔を取得しますか?>
『いえす!』
<スキル:穿孔を取得しました>
『後は頑張ってください!』
『おう!』
スキル<穿孔>をアズラットは取得する。そしてそこからアズラットの攻撃が始まった。
(えっと……解放、<圧縮>からの解放による突き出る体と、その体による<穿孔>。ま、やるだけやってみるしか……下手をすればこの体が押し出されるだけに終わりかねん。その場合ネーデがどうなるかわからないが……やるしかない、時間も後どれほどあるかっ!)
残りの時間、猶予がどれほどあるかもわからない。
言われた通り、二つのスキルを利用した攻撃を行う。
部分的な<圧縮>の解除、それにより一部分から解放され溢れるように突き出るアズラットの体。
ある程度制御しないとブワっと広がるようになるのでそちらの制御と操作に意識を向ける。
そして、その状態の伸びる体に<穿孔>のスキルを使う。
複数のスキルを掛け合わせる手間で実に面倒である。
だがその行動の結果自体は単純でわかりやすい
突き出した体は巨大なワームの体に食い込み貫く。
とはいえ、覚えたばかりの<穿孔>のスキルのレベルは一。
その状態で極端な能力は発揮されない。
(よし……って、これで終わりじゃないんだよなっ!?)
自分の体に食い込む針のようなもの……とまでは言わない。
しかし、やはり体に入り込まれれば痛い。
それゆえに、追う途中であったが痛みで暴れ始める。
それでもまだ追うことは止めていない。
(っと、流石に暴れるか。とはいっても、再度<圧縮>で体内に入りこめば流石に振り落とされはしない……まあ、周りの肉の動きに潰されかねない、というのはあるか。一応耐えられはしますけどね? ま、それは重要じゃない。"体内に入り込んだ"というのが重要なのさ)
体内に入り込んだ。口から入り食道や胃などで<圧縮>を解放し極端に膨れ上がる。
それにより体内器官を破裂させることで大ダメージを与えるのがアズラットの攻撃手段だ。
基本的には頭、口の中で行い頭を爆裂四散させるのが多い。
もっとも、これ自体は簡単なことではない。瞬間的な爆発的解放力の威力の問題がある。
それにその前にかみ砕かれる危険性もある。それ以外にも危険は多い。
まあ、それらは普通の場合。今回は本当の意味で体内……その肉の内側に入り込んでいる。
<穿孔>によってあけた穴から。
(<圧縮>解放)
膨れ上がるアズラットの体。その体にワームの肉体は押し広げられる。
爆発的に広がるその勢いに押され肉体は吹き飛ばすように破壊された。
「――!!」
肉体が部分的に吹き飛んだ。細い肉の繋がりで維持されてしまうことになった体。
その頭部が命令を出して動く勢いのまま、体を支える部分が失われると動きが滅茶苦茶になる。
ずるりと持ち上げられていた頭部が落ち、進もうとする体に当たる。
ぐらりともつれ込むように混乱した体が転がり暴れまくる。
そうしてワームは砂漠の中に倒れた。まだ息はあるが。
(し、死ぬかと思った……)
吹き飛ばしたこともあり、体の<圧縮>が解除された状態。
その状態でワームの横転に巻き込まれれば死にかねない。とりあえず何とか生きてはいるようだ。
「アズラットー!!!」
(おおう……)『(ネーデ、大丈夫かー!)』
「大丈夫だよー! そっちこそ大丈夫ー!!」
『(おー)』
ひとまず、両者ともに無事。ワームを倒し生きていられたようである。




