094 進んだ先
巨大ワームを倒した二人。しかし、いきなり先に進むというわけにもいかない。
ここは熱砂の大地。食事できるような魔物もあまり出てこず、水も少ない地。
そんな場所で全力疾走していたネーデは暑さは何とかできていてもかなり体力消費が大きい。
アズラットも、ネーデの<保温>の影響下にないままワームに取り付いていた。
すぐに干からびるわけでないにしても、その消耗は結構なものだろう。
そもそも、折角倒した巨大なワーム。それを放っておくのはもったいない。
流石に冒険者として素材を回収するのは不可能だが、アズラットにとってはいい餌である。
『(ってことで食べてもいいよな? 最近食事自体は少なめだったし)』
「うん、別にいいよ。私が倒したわけじゃないし……」
ワームそのものは別にネーデにとってどうでもいいものである。
そもそも言っている通り、アズラットが倒したもの。ネーデが許可を出す理由もない。
好きにすればいいのである。まあ、この場合アズラットが食事する手間をかけるからだろう。
ネーデが先へと進む時間を奪うので気にかけたのだろう。
もっとも、ネーデから言わせればアズラットの方が優先なのだが。
<圧縮>を解除し、大きくなったアズラットはそのワームの巨体を取り込む。
動いていた時は流石にできなかったそれだが、動かない今ならば全く問題はない。
ただ問題があるとすれば、ネーデの<保温>の効果を受けられないことだろう。
流石に広がったアズラットの体の全域をネーデのスキルでカバーしきれない。
まあ、それはしかたがないものだ。巨大ワームを食らうことができればそれで問題ない。
うぞりうぞりとワームを取り込み消化していく。流石に量が量で時間がかかる。
しかし、それなりに時間をかけ、なんとか取り込み食らいつくした。
(ふう……)
「お疲れ様」
『(ああ、単に食事なだけだし。っていうか、こっちこそ待たせたみたいで悪かったな。この砂漠で待っているのは流石にきついとおもったんだが)』
「別に。乾燥しているのはちょっとあれだけど、暑さは何とかなるし」
<保温>の恩恵もあり、ネーデ自身は暑さの影響をあまり受けない。
今は最初よりもそれなりに成長し効果が上がっている。
まあ、それでもまだまだであるが。
『アズさんアズさん』
『……ん? どうした?』
『はい、まあ今彼女と話している所なので悪いとは思ったのですが。ほら、大きい獲物を食べたでしょう? 強い魔物だったでしょう? つまり経験値が多いと言うことでしょう?』
『ああ……』
『ぽーん、と一気にレベルアップです。もう次の進化の近いアズさんがグリフォンほどではないとはいえ、こうレベルが一気に上がったのです。つまり、あれです。進化です』
『えっと、もうか?』
『はい。っていうか、もう少し早いものとも思ったんですよ? 少々彼女がアズさんが食事できる機会を奪っていたこともあって、レベルの上りが遅れていたわけです。まあ、それに文句を言っても仕方がないのですが……とりあえず、進化ですよ進化! あ、一応彼女を心配させないように、進化するのでちょっと少しの間動かないと言ってください! それでも恐らくは心配されると思いますが、いきなり止まって微動だにせず返事もしないよりははるかにましと思いますので!』
『ああ、うん、わかった、わかったから……』
そんな風に二人が話していると、ネーデの方からアズラットに声をかけてくる。
「アズラット?」
『(…………ああ、ごめん。ちょっと……ああ、うん。えっとな、前に俺が止まった時があっただろ?)』
「え……うん、あ、確かあの時の……?」
『(ああ。グリフォンの時の。まあ、進化ってやつだ)』
「進化……」
『(それで、少しの間反応できないし動きも見せないから、それを伝えておかないとだめだってことでな)』
「うん、わかった。アズラットの方から声をかけてくるのを待つね」
『(……うん、ありがとう)』
ネーデは大人しくアズラットが進化し意識が元に戻るのを待つことにするようだ。
『ということで進化頼む』
『いえ、頼むと言われても。まあこちらから通知を送ることには変わりないんですが、今まで……二回も特殊なやり方になりましたが、今回は普通ですよ?』
『……その普通、俺が経験したのは一度だけだと思うんだけど』
『そもそも進化自体をそう何度も経験すること自体少ないんですけどね。スライムはそれこそ進化回数が多いですが、他の魔物でそこまで極端に進化回数が多いのはそう多くないでしょうし。そのうえ、初回は普通、次が暴走、そして強制と毎回違うのはそうそうないですね。とんでもないことですよこれは』
『別に誇れることでもない。っていうか、早くしろよ』
『つれないですねえ……まあ、こちらもきちんとお仕事はしますよ』
<アズラットはスライムキングに進化できます。進化しますか?>
『スライムキング……ボスもあれだが、キングか。っていうか後ろにつくのか。まあいいけど』
『はいはい、そういう話はいいですから。早くお願いします』
『ああ、うん。冷たいなーとか思うけど、まあいいよ。進化頼む』
『はい』
<スライムキングに進化します>
『ん…………』
『おやすみなさい。少しの間ですが、意識の休みを存分に楽しまれますよう』
『ねむってるのにわかるか……………………』
そうしてアズラットは次の進化、スライムキングへと進化をする。
もっとも、彼の見た目は変わることがない。
<圧縮>で現状の体を維持することを続けているので。
『(ん……)』
「あ! アズラット、起きた!?」
『(……ああ、うん。おはよう……というのが正しいのかは知らんが。とりあえず進化終わったみたいだな)』
「進化……って言っても、変わらないけど」
『(大きさはずっとこのままで維持してるからな)』
常に<圧縮>で体の大きさを維持している。それは進化時でも変わらない。
変化があった時は進化自体を攻撃手段とした暴走進化時くらいだろう。
一応あの時はネーデも見ていたが。
「そうなんだ。進化している時でもスキルって意味あるの?」
『(なかったらブワっと広がってるぞ? まあ、ネーデは巻き込まれることはないはずだが)』
いまだにネーデとアズラットの間に結ばれている契約は維持されている。
基本的にお互い不都合のない、攻撃されることのない、その状態はずっと続いているのである。
『(まあ、それはいいだろ。予定通り先に進もう。ずっとここにいても仕方がない。進化も終わったしこちらも得にやることもないし)』
「うん、そうだね」
そもそも巨大ワームに追われたことも、アズラットの進化に関しても予定にはないこと。
当初の予定は真っ直ぐ進み次の階層へと向かうこと。
「はい、乗って」
『(……まあ、移動が楽だからいいんだけど。思えば質量とかどうなってるのやら)』
「……?」
巨大なサイズのアズラットが<圧縮>により小さくなっている。
それはその小さな体に内包されている。
さて、その重量に関しては一体どうなっていることなのやら。
今更な話だが疑問は尽きない。
少女の頭の上に乗って大丈夫なのだろうか。
大丈夫なのは事実であるが、だからこそ余計に謎だ。
(気にしても仕方がないか)
考えても意味はない。
もしかしたらアノーゼに訊けばわかることかもという思考が少し心によぎる。
とはいっても、あのどこか抜けているスキルの管理神ではわからないと言われそうでもある。
あまり深く考えても意味はないし、理論的なことを知ったところで役に立たない。
ならば無理に知る必要はないと特に気にしないことにアズラットは決める。
そして、二人は砂漠の先に、少し変わった風景を見る。
「あれなんだろう?」
『(岩場だな……もしかしたら岩砂漠か? まあ、ともかく、言われた通りの場所だな)』
「そうだね……ってことは次の階層があるってこと?」
『(だろうな)』
次の階層。その場所に通じる岩場。二人はついにその場所に到達した。
ついに、とは言うが別にそこまで極端に時間経過しているわけではないが。




