089 砂漠の脅威
第十二階層、砂漠の様相をして青空と開放的な空間の広がる迷宮内部。
もちろんそれは幾らか見せかけであり、広さにおいて限度はあるだろう。
だが疑似的に表現されている太陽は実際の太陽と同じく日が照らし砂を熱する。
砂漠自体も実際の砂漠ほどではないがそこそこ深いはずだ。
「たあっ!」
そんな中、当然ながら魔物は襲ってくる。砂漠という大地に適応している魔物達だ。
砂漠の大地は砂の大地、踏み込む足、支える足、足場となる砂地は通常よりも不安定である。
その影響もあり通常ならば若干の戦いにくさがある。
立っていれば足が沈む、踏み込んだ足が思ったよりも沈む、足場は柔らかく衝撃が吸収される。
そういった不安定で戦いにくいのが砂漠の特徴でもある。
しかし、ネーデはあまりそこまで極端な影響はない。
<跳躍>のスキルの恩恵があり、歩く、踏み込むのではなく跳躍をすることで対応している。
それは本能的なものか。少なくともアズラットでは把握できない、理解できないものだろう。
「ふう……」
<跳躍>で移動し、相手に斬りかかる。さらに言えば場合によっては相手そのものを足場にする。
そうした対応をしてネーデは問題なく戦える。まあ、全く問題ないとは言えないが。
「っと!」
倒した魔物を足場にして跳躍し再度地面に降りる……と同時にまた跳躍。
彼女が着地した場所から魔物が現れた。たった今倒した蠍の魔物と同種の魔物。
大蠍。単純な名称だが普通の蠍が大きくなったようなものなのでその名称で構わないだろう。
その魔物が地面から現れネーデが降りた場所を攻撃した。しかしそこにネーデはいない。
「危ない、なっ!」
攻撃を外した大蠍に斬りかかり、一刀両断。今のネーデならばこの場所でも十分戦える。
そこそこ硬い甲殻を蠍は持っているが、しかし金属製の剣には敵わない。
『(いきなり出てくるのはやっぱり危ないな)』
「うん……でも<危機感知>も<振動感知>もあるから」
『(そういう点ではかなり安全ではあるが……まあ、地面を歩く際はきちんと気を付けておかないとな。<危機感知>は勝手に反応してくれるが<振動感知>は意識していないと使えないだろう?)』
「そうだね……さっきも危なかったし」
『(まさかこの場所だとスライムも結構な脅威か……十一階層では危なげはなかったが)』
先ほどもネーデは地面から出てくる魔物に遭遇している。大蠍はかなりわかりやすい。
襲ってくるゆえに<危機感知>にも引っかかるし、その動きは<振動感知>ではっきりとわかる。
しかし他の階層ではほぼ雑魚のスライム種も十二階層ではそこそこの脅威だ。
なぜならこの場所にいるスライムは砂場に潜んでいる上に、熱量が高い。
名称をつけるならファイアースライム。つまりは触れた物を燃やす火と熱の力を持つスライム。
現れるときにのっそりと現れるせいもあって<振動感知>では微弱な反応しか感じられない。
上に乗ると現れるが、別にそれ自体が攻撃する意図がないため<危機感知>に引っかからない。
触れるくらいになれば<危機感知>に引っかかるのだが、出てくるだけの時はわからない。
ゆえに不意打ち気味の遭遇になる。
とはいえ、最初こそ触れた部分が焦がされるが、その後の回避が容易であるため脅威ではない。
「ところで……蠍はいらないの?」
『(むしろこっちが聞きたい。食べないのか?)』
「食べないよっ!?」
『(まあ、それはいいんだが……暑さはかなりなんとかなっているが、水が問題だな)』
「……暑さは何とかなるけど、すっごく乾燥してるもんね」
<保温>のスキルは熱、温度に関する影響力は完璧ではないが調整してくれる。
しかしそれ以外に関しては別だ。砂漠の高熱高温に対応してくれるが乾燥は別だ。
とはいえ、乾燥だけならある程度問題はない。水分の確保という大問題を除けば。
「……水、ないよね?」
『(オアシスでもあればな……)』
砂漠は水がない場所である。当然この十二階層にも水はない。
アズラットの言う通りオアシスでもあれば話は違ってくるかもしれないが。
もっともここは迷宮であり、そういう舞台をわざわざ用意するとも思えない。
『(最悪倒した魔物を食べるしかないな)』
「えー……あの蠍を?」
『(蠍を)』
魔物とてこの階層では水の確保は容易ではないだろう。生きるためにどこかで水を得ているはず。
もしくは、生まれる魔物を食することでその水分を食事から吸収している可能性もある。
魔物自身乾燥に強い性質を持つことで耐えている可能性も低くはないだろう。
「うう……水ー」
『(まあ、場合によっては戻って確保ってのもありだけどな。十一階層は雪と氷におおわれているから水が簡単に確保できるし)』
「そうだね……でも、戻れるかな?」
『(方向さえ間違わなければ戻れるかな……まだ一応見える範囲だから良いけど)』
水の確保自体は十一階層に戻れば簡単にできる。雪や氷を十二階層に持ち込めば容易に溶ける。
しかし、その十一階層とつながる境界地、砂漠の中に埋まっているような洞窟ももう遠い。
砂漠の問題は似たような地平であることだ。砂漠自体に山のような丘ができていることもある。
そういった環境で遠くのものが見えにくかったり、また似た地形や風景でわかりづらかったり。
つまり遠出すると道に迷う危険が跳ね上がるのである。
『(……方位磁針とかないのか?)』
「ほういじしん?」
『(……羅針盤は?)』
「らしんばん?」
『(……まあ、知らなくても仕方がないか)』
ネーデの住んでいる場所は海に近くもないし、そもそもネーデ自体あまり良い環境にいたわけではない。
彼女自身は単なる村娘のようなものであり、教養も大したものではない。
そんな状態だからこそ冒険者をやっているわけであるのだが。
「っ!」
『(ん?)』
ネーデが剣を振るう。それはネーデに向かって飛んできた"草"を切り裂いた。
『(……今のは)』
「危機感知が反応したんだけど……」
『(ただの草のようにしか見えなかったが、魔物か何かだったのか? それとも単に草が飛んできたのが危機と感じられたか……)』
事実としては、その飛んできた草も魔物である。とはいえ、大した攻撃能力があるわけではない。
この十二階層においてはスライムが若干強く、その草を含めた二体が最弱を争う。
危害を加える攻撃をして来るが、基本的にダメージにはならない。
それでも攻撃の意思はあるので<危機感知>は反応した少なくとも危害を加える意図はあるようだ。
『(せめて仙人掌ならまだよかったかな)』
「さぼてん?」
『(砂漠ならいてもおかしくはないか? まあ見かけたら教えるよ)』
「……ふうん?」
ネーデに砂漠の知識はない。ゆえにそのような反応になる。
それはともかく、ネーデは次の階層への道を探すために歩き始める。
砂漠は広い。果たして簡単に次の階層への道が見つかるものだろうか。
「また魔物……骨!?」
『(肉すらつかない魔物か。食えないなあ……)』
「別に食べなくてもいいよ……でも、食べられる物あるかな……?」
十二階層は砂漠。砂漠という環境に適応する魔物が存在する。
乾燥に強い魔物、そもそも生きていない魔物、砂の魔物、そういった魔物が基本だ。
まだ出会っていない魔物も多いが、その中で食事に適する魔物は多くない。
代わりに脅威となる魔物は少ない。そこだけは救いといった所だろうか。




