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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
三章 竜討の戦い
88/356

088 環境に対応する

『(……ごめん、もう一度言ってくれない?)』

「スキル覚えたから大丈夫だよ」


 そう言って今度は冒険者カードをネーデが見せてくる。


『ネーデ Lv34

 称号

  契約・アズラット

 スキル

  <剣術> <危機感知>

  <身体強化> <跳躍>

  <振動感知> <防御>

  <治癒>   <投擲>

  <保温>


 実績

  竜生迷宮三階層突破

  竜生迷宮十階層突破(仮)』


 そこに新たに追加されていたスキル、<保温>。

 確かにその名称からすれば十一階層と十二階層には有効に思える。

 しかし、そのスキル選択はアズラットにとっては不満に思う所だ。

 ネーデにとって全く有用でないとは言わない。しかし、使いどころに困る。

 なぜならその名の通りならば、単純に温度を保つことしかできないスキルである。

 つまりそれはかなり限定的な環境下でないと効果を発揮しない。

 高温高熱、低温零下。そういった温度が関わるような環境でないと意味をなさない。

 とはいえ、溶岩流れる火口付近やマグマの上などでも耐えられるのは意味があるかもしれない。

 これからの迷宮でそういった環境があるかもしれない。なので無駄ではないだろう。

 ただ、やはり限定的で汎用性が少ないのはアズラットとしては気にかかる。


『(それ、使い道がどれくらいあると思う?)』

「……ちょっとあんまりない、かも?」

『(役に立たないとは言わないが……微妙なスキルだと思うぞ?)』

「……そうかな」


 ネーデとしてはアズラットにそう言われるとしゅん、と気落ちした表情に変わる。

 彼女にとってはこのスキルはアズラットのためにと覚えたものでもある。

 それが本人から駄目出しされてしまうと彼女としても悲しくなるところだろう。

 そんな表情を見てアズラットもあまりきつく言うほど鬼ではない。


『(まあ、覚えたのは仕方ないし役に立つならそれでいいだろうけど)』

「……そうだね!」


 ぱあっ、とネーデの表情が明るい笑顔となる。


「それで、とりあえず十一階層に行ってみる?」

『(……そうだな。実際どれくらいなのか、っていうのを確認してみないとスキルの有用性もわからないか)』


 名前だけでスキルの効果は予想は出来る。

 しかし、実際にどの程度有効かはすぐにわかるものではない。

 アズラットの持つ<念話>や<契約>などスキルレベルの無いスキルである可能性もあるだろう。

 なのでそれは実地で経験して確認するしかない。

 いきなり挑んでやっぱり戻らなければならないとかは損だ。


『(よし、言って確認してみよう。完全に温度が保たれるなら万々歳、ある程度の緩和でもかなり有効的だしな)』

「うん!」






 十一階層。それは凍土、雪と氷に覆われた遺跡のような迷宮の階層である。

 そんな中、毛皮の服を着ずともネーデは震えず立っている。

 <保温>のスキルの有用性を確認中だ。


「ちょ、ちょっと……寒い」

『(だが低温下でもまだ寒さで震えず行動できる程度に感じられる温度は緩和されてるな。これで毛皮の服を着ていれば普通の状態なら平気だろう……まあ、狼やあの氷の目とかの影響を受ければどうなるかわからないし氷や雪の魔物を相手にどの程度温度が保たれるかは疑問ではあるが……)』


 通常状態では問題がない。しかし、通常でない状態になるとどうなるか? それはわからない。


(気になるのはレベルがあるかどうか。つまりこのスキルが成長するかどうかだな。成長してくれるなら今後も効果が高まる……それこそ服を着て移動する必然性もなくなる。あの砂漠でも堂々と進める可能性は高まるだろう。まあ、その辺りどうなのかは俺にはわからないんだが……ああ、そうか聞けばいいのかこういう時)

『(とりあえず……一度戻るか。そして服を着て再挑戦。一番重要なのは難なく進める十一階層よりも十二階層だしな)』

「そうだね……ね、アズラット。アズラットは今大丈夫?」

『(ん? 大丈夫……?)』


 ネーデに訊ねられ、アズラットはその意味を考える。いや、考える間でもない。

 アズラットはいつも通りである……この十一階層の低温下のなかでも。それにすぐに気付く。

 低温の影響を受けていないわけではない。それが<保温>の効果がない時よりもはるかに少ない。


『(確かにかなり大丈夫だな。ってことは……もしかして俺も<保温>の効果を受けているってことか)』

「そうみたいだね。本当によかったー……」

(…………はあ。正直言って自分のためにスキルを使うべきだと思うが。いや、ここは気を使わせて申し訳ないと思うべき所かもな)


 アズラットとしてはやはりネーデに自分のためにスキルを覚えさせたとなると気が重い。

 もちろんネーデも常々アズラットがそういう風に言ってくることは理解している。

 なので全く自分の役に立たないスキルというわけでもない。

 実際ネーデもスキルの効果を受けている。

 だが、そこにアズラットのために、という考えがなかったわけでもない。


『いいじゃないですか。彼女の少しばかりの恩返し、と言った所ですよ?』

『そういうものか。って言うか唐突だな』

『だってこのままだとあれこれ思い悩むでしょう? あまり深く考えない方がいいともいます』

『そういうものか……』


 唐突なアノーゼからのアナウンス。まあ、自分の思考に深く入り込まずに済んでよかっただろう。


『(とりあえず十一階層を抜けること。そのためにいったん戻って準備だな)』

「うん」


 ネーデはアズラットを頭の上に乗せながら十階層へと戻る。

 ただ服を上から羽織ればいいだけであるが、一応の休息や準備をしっかりしてからの方がいいだろう。

 そうして戻っている間、アズラットはアノーゼと会話をする。


『ところで、<保温>のスキルはレベルがあるのか?』

『あるスキルだったと思います。と言っても私はそこまで細かくわかっているわけじゃありませんが……そもそも、レベルがないスキルの方が本来は珍しいんです。そういうスキルはそれ自体がそのもので完結する物、効果の派生する要素がほとんどないスキルになります。<ステータス>、<アナウンス>、<念話>、<契約>。そういったレベル……つまりは効果の大小がある意味の無いスキル。<保温>の場合は効果の影響力、つまりはどこまで温度を適切な形で保てるか、そういう点でレベルが発生する内容ができますから』

『なるほど……』


 現在では十一階層で寒さを感じるが、レベルが上がればそれすらも感じなくなることだろう。

 それは当然十二階層でも同じ。また、場合によっては範囲も影響力に含む可能性はある。

 ただしそれは現状では把握できないが。


『しかしまさかいつの間にかスキルを覚えているとは……』

『いいじゃないですか。普通は自分で選んで覚えるものです。アズさんが決めることでもないでしょう』

『まあ、そうだな……』

『いい子じゃないですか。恩返しのためにスキルを覚えてくれるなんて』

『………………ふむ。まあ、確かに。こっちがスキルを覚えてもよかったが……まあ、無駄になるよりは』


 と、そこでなんとなくアノーゼの反応に関して思い出す。


『……もしかして、知ってたか?』

『何がでしょう?』

『ネーデがスキルを覚えたの』

『いえ、そんなことはありませんよ』


 アノーゼはネーデに合流することを勧めていた。

 それには何か意味があったのではないかという邪推である。


『……あの時の反応。何かあったような感じだったよな?』

『あの時の反応……?』

『アノーゼってスキルを管理する神、とやらだったか? ならネーデにもスキルを与える役割を担っているんじゃないのか? 別に俺だけじゃないよな?』

『まあ、この世界にいる多くの人間のスキルに関わる管理事項を担当しているのは間違いないです。ですが、私だけでないのも事実です。他の誰かが彼女にスキルを上げたのかもしれませんよ? 私とは限りません、ええ、限りませんとも』


 胡散臭い言い方でアノーゼは否定する。別にアノーゼとしては追及されようとも問題はない。

 なぜならそれこそ彼女の役割であるし、アズラット自身も確証はない。

 それに決めたのはネーデだ。

 確かにアノーゼが彼女の考えていることから最も最適なスキルを彼女に提案したのは事実だ。

 しかし、それ自体は彼女の役割の一部でもある。

 彼女が担当したのは単にネーデを気にかけていたからだ。

 それゆえに彼女の役割上の仕事として、最も適切で有効的な可能性のある能力の提示となった。

 もっとも、わざわざアズラットに対してそういうことを言い出すことはない。追及されても躱す。


『あ、ちょっとお仕事入ったので。では』

『あ! おい!』


 逃げた。まあ、<アナウンス>さえ切っておけば、もしくは反応しなければ追及をかわせる。

 別に喋ってもいいのだが、わざわざ怒られることをしたくないと言うのが彼女の本音だろう。


(あんにゃろう……後でとっちめる。まあ、ネーデにとっては損ではないんだろうし、俺としても恩恵を受けることになるからあまり文句も言えないな……まあ、今後あまりこうい事をしないようにだけ言っておこう)


 後でアノーゼに文句と今後似たようなことをしないように言及する。

 まあ、そう言った所でアノーゼがアズラットのために勝手なことをする可能性はある。

 別に契約をしているわけでも約束をしているわけでもない。できるわけでもないし。

 そのあたりはアズラットもわかっている。だからアノーゼ自身の思慮に期待するしかないだろう。

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