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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
三章 竜討の戦い
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086 熱砂の大地

 十一階層の凍土の迷宮、遺跡のような構造を雪と氷が覆い隠す階層を進む。

 そしてその先に存在する次の階層、十二階層。その境界と思わしき場所を二人は発見する。

 いや、正確にはアズラットがそうであると思わしき場所を見つけるのだが。

 その境界付近では凍土を成している雪や氷が融けてなくなっている。

 若干水っぽくその名残がいくらか残っているがそれくらい。

 当然そうなる要因として十二階層から流れ込む暖気の影響があるだろう。

 基本的にそれぞれの階層は明確に完璧に区切られていると言うことはない。

 魔物は行き来しない特性を持つが、冒険者は行き来できるし空気が流動しないのも変だろう。

 つまり十二階層からは暖かい空気が、十一階層からは冷たい空気が各々に流れ込む。

 その影響で十一階層の雪や氷が融け、そのようになっているのである。

 だが…………それにしても、はっきりと融けすぎている。それはなぜか?


「あっつーい!!!」

『(これはそのまま進むと干からびそうだな……ネーデ、その格好だと熱いからとりあえず境界付近に戻るぞ)』

「う、うん、流石にここからこの格好は無理……あつい暑い熱い……」


 答えは単純、十二階層に存在する空気の持つ熱量が大きいから。

 流れ込むのは暖気というよりはもはや熱気と言ってもいいくらいの熱量だった。


「でも……すっごい砂だったね」

『(砂漠だな……砂砂漠。岩砂漠とか種類はあるらしいが、まあどうでもいい話か)』

「さばく……」

『(しかし、空と太陽が見えるとか面白い場所だったな。あれでも迷宮の中なんだよな?)』

「た……多分。えっと、そういう迷宮の外のように見える場所もある、みたいなことはちょっとだけ聞いたことあるかな?」

『(へえ)』


 砂漠。十二階層は砂と乾燥、そして太陽の光が差す熱気の溢れる大地だったのである。

 九階層や十一階層のような、明らかに迷宮とは思えないような風景が広がっている。

 それでもまだ十一階層は遺跡のような構造、九階層は壁や天井がはっきりとしている。

 しかし十二階層は階層の出口の場所が砂丘を貫いている洞窟、そして天井も壁も全く見えない。

 もちろんここが迷宮である以上天井も壁も存在するはずである。しかしそれが見えない。

 恐らくはそういった壁や天井を見えなくする幻影のようなものを投影する構造なのだろう。

 もっともアズラットやネーデがそれについてわかるというわけでもない。

 それにそういった壁や天井があるにしても、砂漠という環境からか広く作られていることだろう。

 推測ばかりであるが、少なくとも九階層と同程度以上には広いことが予想できる。


「……それで、どうするの?」

『(とりあえず……その上に来ている毛皮の服は脱いで、もう一つ貰っている布を着るんだ)』

「……? 布を着る? 確かに服みたいな感じに着れそうだけど……暑いよ?」

『(まあ、それはしかたがない。どうしても服や鎧をすべて外して進めるわけでもなく、そもそもからして暑くても服は着ておかないといけない。どうしても汗はかくし熱気が体に溜まるが、それでも着ておくものは着ておかないとどうしようもないからな。その布は日差しから体を守るためのものだ。迷宮内に存在している太陽が迷宮の外に存在する太陽と同じかは知らないが……)』

「……ふうん?」


 ネーデはよくわかっていない様子である。まあ、ネーデは砂漠などの環境について全くの無知だ。

 それに太陽光がどのような影響をもたらすか、なども理解はしていないだろう。

 実際に砂漠での活動を経験すればまた話は違ってくるが、それを経験する場合は大変だ。

 この十二階層をネーデ自身の考えで進むなんてことになれば、恐らくは途中で死ぬ危険が高い。


「わかった……一応やれるだけやってみるけど……」

『(こっちも確認しながら指示は出す。駄目そうなら一度戻って話を聞いてみるのもいいしな)』

「話を聞く……って、あの冒険者ギルドの職員の人に?」

『(教えてくれるかはわからないが……まあ、聞くだけならタダだしな)』

「……そう言うなら、やってみてもいいけど」


 少々好ましい行動ではないが、アズラットが言うならネーデはやってもいいと答える。

 かなり信頼されているようで何よりだ。まあ、それが必要なのかは現状では不明だ。

 アズラットの指示通り、ネーデは布を自分の体に纏う。

 元々完全な布ではなくある程度服になっている。

 通気性はそれなりにいいようだが、この場合通気性はどうなっているのがいいのか。

 それはともかく、アズラットが見る限りではネーデはまあまあ上手に布を纏うことができている。


『(……とりあえず、進むか)』

「……大丈夫? そこにいると熱いんじゃない?」

『(だけどネーデの服の中とか、持ち物を入れているところに隠れるわけにもいかない。そういう場所だと咄嗟の行動ができないし、振動感知の能力も大幅に減じる。それじゃあネーデも困るだろ?)』

「確かに困ると言えば困るんだけど……アズラットは大丈夫?」

『(駄目そうなら駄目って言わせてもらう。その場合は戻ってもらうしかないかもしれないが)』

「うん、そうして。私もアズラットがいてくれないと困るから」


 そんな風に二人は話しながら十二階層を進む。進み始める。






 進み始めたはいいが、早々に戻らざるを得なくなった。

 幾らか魔物に遭いつつ十一階層に撤退する。


『(ひ、干からびる……っていうか流石に死ねる……)』

「大丈夫? 本当に大丈夫!? 最初に言ったと思うけど、無理なら隠れててもいいんだよ!?」

『(流石にそれは……ネーデだけで進ませるわけにもいかないだろ。ネーデ自身、自分だけで進めると思ってるか?)』

「う……」


 ネーデは確かに結構な実力がある冒険者だと言えるだろう。

 しかし、一人で行動は厳しいものがある。

 これまでどれほどアズラットの存在に助けられてきたのかわからないだろう。

 睡眠時の周囲の警戒、一定範囲内の魔物の存在の把握、ネーデの知らない事を教えてもらうなど。

 アズラットが外に出ていなければわからないことも多くなることだろう。

 まあ、そうなってしまうのは仕方がない部分もある。ネーデはまだ成人もしていない年齢だ。

 わからないことが多いのは当然、経験も足りず教育を受けているわけでもない。

 そんな少女なのだから誰かの手助け無しで迷宮探索は厳しいことだろう。

 ゆえにアズラットの手助けが彼女には必要になる。冒険者の仲間がいないということもあって。


「だけど、アズラットがこの状態じゃ無理だよね?」

『(……まあ、それは否定できないんだけど。かといって隠れているわけにもな)』


 結果としてネーデとアズラットの意見は平行線になる。

 ネーデはアズラットを隠し、アズラットが干からびるような事態になることを回避したい。

 アズラットは自分が隠れることでネーデが自身で対処できない危険に巻き込まれることを回避したい。

 ネーデは自分だけだと全ての危険を回避できないことは理解している。

 アズラットは隠れないと干からびて死ぬ危険があることを理解している。

 そういった問題をお互い理解しているからこそ判断も行動もできないのである。


「…………どうしよう?」

『(とりあえずいったん戻ってみるのもありじゃないか? あまりここで考えても仕方がない)』

「むう……わかった。兎や狼も獲らないといけないし、戻って聞いてみる」


 砂漠の方に進んで食料をとるのは環境的に厳しい。できなくもないが、つらい。

 アズラットの問題もある。そういうことで凍土の階層に戻り食料を確保しながら十階層へ戻っていった。

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