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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
三章 竜討の戦い
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083 冒険者の環境対策

 今更九階層においてネーデが苦戦することはない。

 巨人や巨虫はともかく、他の魔物に遅れはとらない。

 それゆえにネーデは目的の魔物をあっさりと狩る。スキルもあって見つけるのも容易だ。

 もちろん全ての魔物が近くにいるわけではないので結構探すのに時間はかかったが。

 そして持ってくることに関しても結構面倒ごとは多い。三体、大きさの関係もあって。

 とはいえ、まるごと全部を持っていくと言うわけでもない。そこまでする意味合いはない。


「っ! や、あっ!」


 剣で斬りこみを入れ、樹を折り倒す。巨人や巨虫ほど簡単ではない。

 人の力ではどうしてもそうやって手を加えて伐らなければならないだろう。

 もっとも、幾分かはアズラットが加工の手助けをしたりもする。万能消化は強い。


「これでいい?」

『(まあ全部乗ればそれでいいと思うぞ)』


 わざわざ樹を伐採してまで何をしているのかというと、肉を乗せて運ぶためである。

 伐った樹から背負い籠のようなものを作れば幾らか量があっても持っていける。

 とはいっても、流石に全部は持っていけない。


『(肉はいくらかブロックに分けるとして……豹は少なめになるか?)』

「他の二体と比べると小さいしね……」


 巨大熊、迷彩巨大猪、潜豹。個の三体のうち豹は大きさとしては小さい。

 逆に言えば豹は普通に運んで持っていけるともいえる。他の二体はまともに運べない。

 大きさは猪が十、熊が五、豹が一くらいのサイズ差だ。

 その分巨大生物は肉のブロックを作りやすいが。


『(先に熊と猪の方を狩るか。そっちを狩ってから肉をブロックにして、籠に入れる。その後は豹を狩って蓋の代わりにでもする、みたいな感じでするのはどうだ?)』

「蓋……」

『(紐で縛り付けるみたいなことでもできればいいんだが……流石に紐はないよな。まあ、豹が入るくらいの大きさの隙間を作り、そこに体を押し込めるようにして蓋をするほうがいいか)』

「えっと……」

『(とりあえずまず猪から狩ろう。狩って肉を切ってそこからは実際にやりながら指示するから)』

「うん……お願い」


 こういう時ネーデはあれこれ考えるのが苦手である。そこをアズラットが補っている。

 二人が一緒に行動する良さはそういう相手の足りない部分を補えるところだろう。

 もっともアズラットの足りない点でネーデが補えているかと言うと言葉に詰まるかもしれない。

 まあ、そんな風に二人が作業しながら魔物を狩り、その肉を手に入れ、十階層に戻る。

 狩ること自体、加工すること自体はそこまで手間でもない。見つかりさえすれば順調なのだから。


「また!?」

『(上に行くときは襲ってこなかったよな!?)』


 登っていく際、石像系の魔物、ゴーレムや柱男やガーゴイルが襲ってくる場合対処することを考えていた。

 しかし、ネーデとアズラットの想定に対し上に登る際に襲ってくることはなかった。

 だが代わりに再び階段を下りる今回はまた襲ってくる。


「っ! ふう……」


 とはいえ、一度戦った相手との戦いである。どうすれば倒せるのか、経験済みだ。

 それゆえにそこまで苦戦する相手でもない……まあ、倒しやすいかと言われればそうでもないが。


「えっと、あとあの柱のやつと……」

『(ゴーレムだな。柱のやつはまだ楽だが、ゴーレムはまた戦うとなるとつらいな……)』

「そうだね……」


 ゴーレムはネーデの武器が折れることになった原因である。

 もっとも、それ以後もまた似たような相手との戦いを行う危険はある。

 そう考えると武器を手に入れることのできる十階層の底で武器が折れたのは都合がよかったかもしれない。


『(まあ、また折れたのなら交換してもらうなりするのもありだろうな。三種の結構な量の肉を持っていくわけだし、それを装備と交換ということだったわけだから。新しい物だから簡単には折れないとは思うけどな)』

「うん。そうしてもらってもいいよね」


 そうして二人は階段を下りていく。

 鳥などは投擲をしつつ弱らせ倒し、柱男はあっさりと折り壊す。

 底の近くまで来て再びゴーレム戦。

 前と同じ戦い方で足を壊して行動できないようにし、頭を狙う。


「ふう……」

「お疲れさん」

「っ!」


 ゴーレム戦が終わった後、誰もいない底で声を掛けられる。

 ネーデはその相手と一度会っているのでその声の主が誰かはわかっている。

 しかし、やはり誰もいない所でいきなり声を掛けられれば知人であっても警戒はするだろう。

 特にネーデの場合相手を完全には信用していない。例えギルド職員であったとしても。


「……ギルドの職員さん。姿を隠したまま声をかけないでください」

「おー、そりゃ悪かった。だが俺の方も職務の関係でな? お嬢ちゃんだけがここに来るわけじゃねえんだ。人間以外にも魔物がこの底に来ることもある。まあ、落ちてくるのが大半だから階段の下の影になるところに隠れてりゃ安心なんだけどよ。そいつらが全部完全に死んでいるかどうかって言うと、死んでいない場合もあるんだわ。そういう場合襲われるのも嫌なんでな?」


 別に底に来た冒険者を驚かせるのが彼の役割というわけではない。どちらかというと彼の趣味だ。

 と言っても、彼の言う通り全く意味がないわけでもない。魔物が落ちてくることもある。

 ガーゴイル、柱男、たまにゴーレムも落とされる。鳥の魔物も落ちてくることがある。

 そういった魔物は生きていると底にいる人間に襲い掛かることもある。殆ど落下で死ぬが。

 ギルドの職員の男も別に弱いわけではないが、積極的に無駄に戦いたいわけではない。

 なので戦うにしても不意打ちで確実に一撃で殺せるように、姿を隠し不意打ちする。

 まあアズラットのような特殊な感知で把握されていると姿を隠していても意味がないのだが。

 少なくとも十階層の魔物相手には比較的有効と言えるだろう。


「それで、持ってきてくれたのか?」

「あ、はい。これです」


 どさっ、と音を立てて簡素に作り上げられた背負い籠を置く。


「……おおっ!?」

「えっと、三体の魔物……豹はそのまま、他の二体はお肉を切り分けて持ってきました」

「はー、こりゃすげえな。複数人で冒険者やってる奴等よりもよっぽど使い物になるじゃねえか……まあ、一人でやらざるを得ないから余計に成長せざるを得なかったってところかねえ? っと、そういうのはいいか。一応確認させてもらうぜ」


 そう言ってギルド職員の男は籠の中身を確認する。潜豹の死体を取り出し、状態をチェック。

 その後に中の肉を取り出す。流石に血などまで完璧に処理しきれていないので少し残っている。

 それでもまだましな方とは言えるだろう。アズラットに指示され幾らか血の処理などはしている。


「ま、こんなもんか。悪くならねえうちに処理するなりしまうなりしておかねえと……とりあえずしまっておくか」


 男が肉をしまう。死体もしまう。これで一応言われていた取引は終了したわけだ。


「それで、お肉を持ってきたわけですけど……」

「ああ、本来なら剣の代金の扱いだったよな。まあ、三体分持って来たわけだしなあ……この先に必要な装備を渡すぜ」

「ありがとうございます」


 そしてネーデは職員の男から二つの服を受け取る。いや、正確には服と布のような覆いだ。


「……これは?」

「その服は十一階層向けのもんだな。行ってみたらわかるが、十一階層は寒い。凍土だ。だからあったかーい服装ってことでこの毛皮の服ってわけだな。まあ、基本的に上着として羽織ってろ。フードがついているが、特殊な感知系のスキルでもない限りはあまりしない方がいい。耳が塞がれるし若干視界が狭まる。ま、寒さをしのぐために被るのは悪くねえがな」


 服の方はわかりやすい暖かい装備、ということだろう。服自体が温かいわけではないが。

 しかしもう一方はまるでただの布のようにしか見えない薄い纏いだ。


「えっと、こっちは……?」

「これはなあ……十二階層で使うんだ。十二階層だとこの毛皮の服はすぐに脱いだほうがいい。死ねるぞ? で、そっちで使うのがこれだ。まあ行ってみりゃあ分かる」

「教えてはくれないんですか?」

「フェアじゃないからな」


 先の情報を教えてくれればいいのだが、それは公平な行いではないとギルド職員は言う。

 冒険者が他の冒険者に情報を教えることもある。だがそれは冒険者同士の付き合いだ。

 ギルド職員と冒険者の付き合い方と冒険者と冒険者の付き合い方は違う。

 ギルド職員はその立場上迷宮の多くの情報を知る。しかしそれは迷宮で得たものではない。

 冒険者が持っている知識は冒険者が迷宮で得た情報である。その違いが問題だ。


「ギルド職員は冒険者に知っている情報を渡してはならない。まあ、相手が知っているのなら幾らか教えてもいいんだがな。全く未知の所に進む場合にその迷宮の情報を教えてはいけないわけだ」

「そうなんですか」


 とはいっても、別にそういう条件で契約されているわけでもない。

 なので時々不正はある。ただ、どうやってかは知らないがペナルティがつくらしい。


「ま、この二つがあれば十分だろ。また何か必要になりそうなら今回と同じで肉を持ってきてくれれば交換するぞ?」

「その時はお願いします」


 そうして十一階層、十二階層を進むための装備を受け取りネーデは先へと進む。

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