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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
三章 竜討の戦い
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081 凍土を進むために

 十一階層。ネーデとアズラットは早々に戻ってきたがその階層は今までとはまるで違っていた。

 いや、違うとは言っても階層としての形態はおおよそ遺跡に近い構造と言えるだろう。

 だがそれでもこれまでとはまるで違うものである。

 何が違うと言うと、それは環境だ。


「寒かった……」

『(まさか雪が降って積もっているとは……気温も低い)』


 寒い、雪が降る。迷宮の中であるというのにまるで雪の降る寒地のような環境。

 雪が降り雪が積もり水も放置していれば凍るような空気の温度。

 評するのであれば、雪原か凍土というのが相応しいような環境だった。

 十一階層、凍土迷宮。今までとはまるで違う環境。

 そこに装備もなく適応できるはずはない。


「ははは。何も準備することなく先に進むからだぜ?」

「……っ!」


 十階層の底にいる冒険者ギルドの職員が戻ってきたネーデのことを笑う。

 流石に目の前で自身を笑われればネーデも不快に思う。ゆえに睨みつける。

 まあ、無様な姿を晒したのは自分の責任ではあるだろう。なのであまり文句も言えないが。


「ああ、すまん。別に笑いものにする気はねえよ。そう睨むな」

「…………」

「そもそもだ。お嬢ちゃん武器が折れてるの忘れてなかったか?」

「……あ」


 ネーデの武器は十階層の最後に出てきたゴーレムを相手にしたときに折れている。

 そのためもし十一階層に進んだ時に魔物が出ていれば困ったことになっただろう。

 一応その身の戦闘能力やアズラットの存在があるため大丈夫であるとは思われるのだが。


「そうだ、武器が折れてて……どうしよう」

『(戻るしかないだろう。ここで話していたせいで半ば追い込まれるように進んだわけだが、武器がなければ先に進むことも無理だしな)』

「……戻るしかないかあ」


 はあ、と小さくネーデは溜息を吐く。十階層から敵を全部無視するにしても脱出は大変だ。

 そのうえ外に出る場合はアズラットを置いていかないといけない。

 さらに言えば、他の冒険者に絡まれる可能性も増える。今のネーデには無駄なことばかり。


「ちょっと待て」


 戻るしかない、そんな風に考え始めているところに職員の男が待ったをかける。


「……なんですか?」

「武器、防具。当然だが普通は迷宮の環境を知っていて全部準備するなんてことは無理だ。迷宮に持っていける物って言うのはそう多くはない。全ての魔物に対処するための武器や防具を持っていくとなると荷物が多大になりすぎる。それこそスキルで<収納>のスキルとかがなければ持ち物を運ぶなんてことは不可能なくらいになるだろう」

「……そうですね」


 ネーデは睨みつけながら男に答える。男の言っていることは理解できる。

 だが別にそれがネーデに関係あるかと言われれば別に関係の無いことである。

 いや、関係ないとは言わないだろう。ネーデは一人ゆえに持ってこれるものが少ないのだから。

 しかしそれを語った所で特に意味はない。ネーデ自身理解できていることである。

 それはネーデの立場上仕方のないことであるため甘んじて受け入れている。


「それで?」

「ああ、別にお嬢ちゃんを責めようとかそういう意味合いじゃねえんだ。どんな冒険者でも、迷宮にとって必要なあらゆる装備や道具を持ちこめてるわけじゃねえってことだ。だからこそ、俺のような奴がこの場にいるわけなんだ」

「…………」

「つまり、俺が武器を売ってやるってことだ」

「……え」


 職員の男はどうやらこの場において武器や防具などのこの先に進む必需品を販売する役割らしい。

 それがネーデにとっては予想外で一瞬思考が停止する。いや、少しの間理解できずに止まった。


「……………………つまり、武器を売ってくれるってことですか?」

「ああ。そう言ったな」


 しかし、それでもやはりネーデにとって疑問は多い。そもそも迷宮に持ち込めるものが少ない。

 それはつまり、この迷宮で使うようなことのない金銭の類も持ち込めないと言うことになる。

 そもそも迷宮にお金を持ち込んでも使い道がない。多くの場合、使い切るか預けるものだ。

 だから迷宮で商売する、というのは少々おかしな話になってくる。


「私お金を持ってません」

「知ってる。迷宮に来る冒険者は金を持たねえのが基本だからな。だが、冒険者カードがあるだろ? そっちで後でギルド側で清算するとかもできるわけだ。俺は職員だから、さっきお嬢ちゃんのギルドカードに記したような仮の実績をつけられる。ま、あまり勝手なこともできないんだがね」


 いくら男がギルドの職員であるからと言ってもあまり多大に自由にできるわけではない。

 この場所に就く上で色々と規定されていたりする。


「とりあえず俺が用意できるのは武器の替え、防具の替え、この先を進むうえで必要な環境対策の装備をいくつかってところだ。流石に食料や水の類はこっちで提供しねえし、寝床の準備とかそういうのは自分たちでしてくれよ? 一応この場所はかなり安全な場所だが魔物が襲ってくることもある。それは自分で対処してくれ。こっちで守ることはしねえ。で、これらの購入代金に関しては支払い額に関してはこのリストを参考にしてくれ。一応お金を持ってなくとも取引は出来るが、その分ギルドカードに実績で記載される。それは後で冒険者ギルドでギルドカードの更新をする際に支払うことになる。その時点で持ち金や換金金額が足りなくとも問題はないが、その代わり借金扱いになるから注意しとけ。ああ、それとここと似たような場所はこの先にもある。そこで支払い分を帳消しにできたりもできる。ギルドの出張所みたいなやつの正式なのがこの先にあるんでな。そこで実績の更新もできるし、素材の換金もできる。ま、結構先だから戻ってやっておいた方がいいかもしれねえが……そこは好きにしな」

「……な、長い」

『(とりあえずまず武器を買うことにしよう。進むにしても戻るにしてもないと困る。他の装備はどうするかは今のところ考えず、まず武器をどうにかしないと本当にどうしようもないからな)』

「うん……えっと、それじゃあ武器を……」

「ほいリスト」


 男はネーデに対しリストを渡してくる。

 とはいっても、ネーデにはまるで参考にならない。


「……その、武器自体を見せてくれませんか? 私こういうのわからなくて」

「あー、そういうタイプか。まあお嬢ちゃんだとそういうもんかね……っと、その折れた剣を見せてくれねえか? それでリストから近いもんを選んでみるからよ。一応選んだもんを見せてみるからそれでいいか駄目かこっちに答えてくれればいいや」

「それでお願いします」


 そうしてネーデは男に持っている折れた剣を渡す。

 折れているとはいえ武器を渡すと丸腰になるので少々不用意かとも思うところだ。

 男は武器を検分してそれに近しい武器を選出する。


「ん、多分これが近いと思う。持ってみな」

「はい」


 ネーデは受け取り、軽く取りまわしてみた。

 おおよそ悪くない、というのがネーデの感想である。

 ただ、やはり持っていた武器と比べると格段に落ちる。

 ネーデの持っていた武器は相応にいい品だった。

 とはいえ、ゴブリンの集落で見つけたものがそれほど良い物かとも疑問に思う部分もあるが。


「いい感じ…………なのかな?」

『(それでいいならそれを購入すればいいと思う。駄目なら別のに変えてもらうしかないしな)』

「……じゃあこれでお願いします」

「おう。じゃあギルドカードを……って本来なら言う所なんだがね」


 にやりと男が笑う。ネーデがそんな職員の男に警戒し少々構えた。


「ああ、別に変なことをするつもりはねえ。ちょっと頼みごとをしたいんだ」

「……頼み事ですか?」

「依頼みたいなもんだ。それをしてくれるなら、その武器の代金とこの先に必要な環境に対する二つの装備をくれてやるぜ」


 どう考えても怪しい男の言葉。どう答えればいいか、ネーデとしては悩むところだ。


「えっと……」

『(内容次第と答えておけ。詳しいことを知る前にするかしないかを決めても仕方ないからな)』

「……内容次第です」

「ああ、それでいいぜ」


 そうして男は依頼の内容を語る。とはいっても、それほど難しい物でもなかったが。

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