072 強さを見返して
『・種族:スライムボス Lv36
・名称:アズラット
・業
スキル神の寵愛(天使)
■■■
偽善の心得
契約・ネーデ
・スキル 9枠(残1)
<アナウンス> <念話>
<ステータス> <契約>
<圧縮lv58> <防御lv6>
<跳躍lv30> <>
<隠蔽lv24> 』
『ネーデ Lv32
称号
契約・アズラット
スキル
<剣術> <危機感知>
<身体強化> <跳躍>
<振動感知> <防御>
<治癒> <投擲>
実績
竜生迷宮三階層突破』
(おお…………なんというか、結構充実したラインナップになって……っていうか、<圧縮>のレベルがちょっとおかしいよな。まあ、俺の体を圧縮しているからかレベルがあがりやすいとかか? 使用頻度、使用率、使用状況が影響するなら食事で増大する体を常に圧縮し続けるという都合上こんなものか。それにしてもグリフォンを食べた結果がこのレベルか……七、いやあの時のレベル的には六ちょっとなのか? レベル二十九でいつ三十になるか、って感じだっただろうし。そう考えるとあのグリフォンの強さがわかるな。意外とあっさりと倒せたが……運がよかったみたいだ)
アズラットが改めて<ステータス>で自身の能力を確認する。
レベルもなかなかの高レベルになり、スキルも八つ、進化前で覚えられる限界枠まで覚えていた。
そしてスキルに関してもそれなりにレベルが上昇している。
特に<圧縮>は頭一つ以上抜けているだろう。
そしてレベルは二十九が三十六に。アノーゼも言っていたが進化するのは本来三十レベル。
急速に上がったレベルは本来進化するレベルを大幅に超えている。
つまりそれだけグリフォンが強敵であり経験値の豊富な敵であったと言う事実がある。
そしてそれはアズラットのステータスだけではなくネーデの冒険者カードからもわかる。
アズラットが<ステータス>で能力を確認したようにネーデも自身の能力を確認した。
その数値をアズラットが覗きレベルが三十二になっていることが判明した。
以前見た時はいつだったか、アズラット自身覚えていないが少なくともかなり上昇しているのを確認できる。
実際にネーデのレベルはグリフォンと戦う前は二十六か七といったところだろう。
そこから三十二まで上がったと言うことは五か六のレベルの上昇であったと言うことだ。
アズラットとネーデの得る経験値の性質に違いがあるが、やはりそれくらいの強さだったと言うことだろう。
(……ネーデの方はあまり変わりない、いや、スキルが充実。まあ俺と同じ数だけど……一応もうレベル三十二、最初が三、三十で六だから……九覚えられる、つまり空きが一つか。そっちでも現状は俺と同じ……実績は変わらない。これはまあギルドで書き換えするものらしいしな)『(ネーデの方も結構充実していると言うか、レベルも結構上がってるよな)』
「そうだね……そっか、もうこんなに……」
(三十二……であった頃は十レベルくらいだったか? それがもう三十二か……ちょっとレベル上がりが速すぎるような気がする。いや、グリフォンは偶然出会った敵だから除外するとして……二十六付近か。それでも十分速いようなそうでないような……)
アズラットとネーデが出会ってそれなりに時間は経っているだろう。
その間に急速に階層を攻略し、現在九階層。レベルも当時から大幅に上昇している。
アズラットはともかく、ネーデのレベルの上りはあまりにも速いのではないか?
少なくともアズラットはそう思うようなレベルの上がり方だ。
『……どう思う?』
『そう言われても……私はスキルの神なのでレベルや経験値について問われてもどう答えればいいかわかりませんよ?』
一応アズラットはアノーゼに訊ねてみるが、あまりいい返事は来ない。
まあそれも仕方ないと言える。アノーゼはスキルの神でありレベルの神や経験値の神ではない。
己の管理事項以外の部分は基本的に知りえる内容は少ない。
アノーゼの場合スキルについて詳しく知っているかどうかも疑問だが。
『ですが……理由はいくつか。まず、彼女は冒険者としては一人で行動しています。それにより得られる経験値が彼女だけに収束する……つまり他の人に割り振られるような経験値の分散が起きないんです。一人に全ての魔物を倒した経験値が集まった結果、急速な成長につながる。アズさんに経験値が入らないのはスライムのレベルの上がり方が特殊なせいですね。食事によってレベルが上がるのはスライムの特徴ですから』
『ふむ……まあ、確かにゲーム的な考え方ならばそう言うのもあり得るか』
『あと、階層の問題もあるでしょう。正確には相手をする魔物の強さですね。強い魔物を相手するほど得られる経験値は多い。これは同時にその逆もあって、弱い魔物を相手にしても経験値は得られない。まあ、そうでないとスライムばかり倒してありえないくらい高レベルになんてことになりかねませんし』
『そういうのもゲーム的だな……』
『ああいうものは意外と参考になるものですよ? ああいった創作物も一種の世界ともいえるわけですからね』
アズラットはゲーム的ともいえるが、むしろその逆であるのかもしれない。
ゲームが世界に等しいものである、そう考えられるのかもしれない。
『まあ、彼女がレベルが上がるのが早いのはつまり経験値を独り占めしているうえに弱い状態で強い敵と戦って、しかもアズさんに振られるはずの経験値が彼女に持っていかれるから。これは別に彼女が倒した相手だけでなくアズさんが倒した相手もそうです。それはグリフォンを倒して彼女のレベルが上がったことからもわかることですし……』
『そうだな。まあ、特に害はないんだろうけど……』
ネーデにとっては別にレベルが上がることが悪いことではない。
しかし、あまりに短期でレベルが上がるのは果たしていいことなのか。
アズラットにとっては判断に迷う所であると言えるだろう。
『そうですね。せめて彼女が自分の強さに自惚れ無謀なことをしないように注意するくらいでしょう……まあ、そういうことはないと思いますけどね』
『そうだな』
『では、そろそろ私とのお喋りはやめにして……不安そうにしている彼女を相手してあげてください』
『……あ』
アズラットがアノーゼと話している間、現実でも時間は進む。
当然その間はアズラットは動かないしネーデの言葉に反応したりもしない。
そのためネーデは心配しているのだ。以前進化したときと同様に。
まあ、今回は前回ほどでもない。アズラットが時々そのようになるというのは既に分かっている。
それでもやはり心配にはなるのだ。
『(……ネーデ?)』
「あ……もう大丈夫なの?」
『(え、ああ……ちょっと考え事をな)』
「そうなんだ……」
うまく話し合うことはできない。なんというか、どうにもお互い普通に話しづらくなった。
下手に話が途切れたり不意に沈黙することになると元に戻すのは難しい。
『(……ああ、そうだ。ネーデはこれからもこの調子で迷宮探索を続けるつもりか?)』
「……? どういう意味?」
『(今のネーデはレベル三十二、スキルも多彩で迷宮も九階層に来ている。ここの魔物でも狩って持っていけば多分実績の項目が八階層に更新されるわけだろ? それだけの実力と実績が証明されれば、今のように俺と迷宮に来なくても冒険者の仲間を作って行動できるんじゃないかと思ってな)』
「……っ」
『(それなら無理に俺に頼る必要はない。冒険者の仲間と一緒に行動して、普通に人間らしい迷宮探索ができると思う。だからどうするか、って思ってな)』
ネーデはすでに十分すぎるくらいにレベルが上がり、スキルも強くなっている。
いくら幼い少女であったとしても、実際の実績があれば流石にそこまで侮られることも……少ないだろう。
そのうえ迷宮を単独で踏破しているということもある。一人でそれならば複数人で挑めばどうか。
少なくとも今までのように扱われることはないだろうとアズラットは推測する。
「…………私は」
ネーデは言葉に困ったように詰まる。
「……私は、アズラットと一緒の方が」
そこまで言って、ふるふるとネーデは頭を振る。
そして、あらためてアズラットに視線を向きなおす。
「私はアズラットと一緒がいい。今更他の冒険者と一緒に探索とかする気にもならない。そんな人達よりも、アズラットの方が、アズラットが一番信頼できる。だからアズラットと一緒に迷宮に挑みたいと思う……ダメ?」
『(…………ああ、わかった。ネーデがそういうなら一緒に探索しようか)』
「うん!」
満面の笑顔でアズラットの言葉にネーデが答えた。
ネーデは今まで冒険者にいい扱いをされていない。
理由は色々で、幼い見た目や頭の上のスライムなどがある。
だが理由があるからなんだと言うのだろう。理由があればそれまでの扱いを許容するわけはない。
悪く扱われれば相手のことを悪く思うだろう。敵対的な相手に好意的に接するはずがない。
それゆえに今のネーデは完全に冒険者不信だ。
まだ人間不信になっていないだけましかもしれない。
そして今までの行いからアズラットに対しては絶対的な信頼を抱いている。
魔物であろうとも関係ない。ネーデにとってアズラットは絶対的に信頼できる相手なのだ。
だから冒険者よりもアズラットの方をネーデは選ぶ。
(……やれやれ。まあ、ネーデのことが嫌いというわけでもないんだけどな。人間の方に戻ったほうがいいんじゃないかと思うけど……本人がこう言うならしかたないか)
自身がそう望むのであれば仕方がない、とアズラットは思う。
そしてこれからも彼はネーデと一緒に探索をする。
『(じゃ、九階層攻略を目指そうか)』
「うん。頑張ろうね」
グリフォンの影響で色々と混乱しかけていたが、当面の目標である九階層を攻略する。
ひとまずそれが二人がするべき行動となるだろう。




