071 色々な変化
(んんー…………よし、戻った。進化するときは眠っている感じに近いと言うか、意識がなくなっている感じというか……まあ、まだ三回目でいまいちその時その時で違うような感じだな。状況次第、条件次第か? 一回目は普通に進化したが、二回目はアノーゼから言われて暴走進化、三回目は今回でレベルがあがりすぎの状態。つまり普通に進化するならいつも通りなのか。いや、いつもと言っても……)
いろいろとアズラットは起きたばかりで考える。進化というものは魔物特有のもの。
それも、個体として進化自体は独自の物でありさらに言えば見かけることがほぼない稀少なもの。
そんなものであるがゆえに進化ということに対する詳しいデータというものは少ない。
いや、厳密に言えばスライムは進化させやすいと言う特徴があるだろう。
食事を過剰に与えれば分裂する前に規定レベルに達し進化できる。
しかしあくまでそれは最低位のスライムであり、ビッグスライムなど進化した魔物はまた難しい。
そしてスライム以外はそれこそ敵を倒すことで経験値を得る必要があるため不可能に近い。
ゆえに観察による記録はスライム以外は極めて少ない、ほぼ存在しないと言えるだろう。
「アズラット!」
(ん……? ああ)『(ネーデ、どうした?)』
「っ! よ、よかっだー! 生きてたー! アズラット生きてたー!!」
『(にゃっ!?)』
突如ネーデがアズラットを抱きしめる。
幼い体ゆえにその年齢特有の柔らかさはあるだろう。
もっともそれをアズラットが感じることはない。
触れる感覚はあれども人間とは全く違う感じ方だ。
まあ、そういった感覚について話すのは少々ずれた内容となるだろう。
今重要なのはなぜそうなっているかだ。
「アズラット、アズラット……っ、うっ」
(一体何が……)
アズラットとしては戸惑うばかりである。何故かいきなり抱きしめられている。
そのうえその相手はアズラットを抱きしめながら涙を流しているのだから。
先ほど……アズラットが進化する前、その時はまったく普段通りだったと言うのに。
とりあえず先ほどまで本調子とは言い難い状態であったが今のネーデはほぼ治っているのだろう。
(……わからん。なぜ泣いているんだ)
『それはアズさんが色々と説明しないまま進化したからです』
『……アノーゼ。いったいどういう?』
ネーデに抱かれその腕と体に挟まれている中、その涙の理由をわからず困惑するアズラット。
そこにアノーゼが声をかけてくる。彼女は常にアズラットのことを見守っている。
つまり、アズラットの側にいるネーデのことも必然的に見守っているのである。
まあ、彼女にとってネーデはアズラットの側にいるおまけみたいなものなのだが。
一応アズラットが気にしている相手であるのでアノーゼも多少は気にしている。
『彼女はアズさんがグリフォンと戦っていたのを見ています。そして、戦いが終わり、いきなり止まってしまった。一応アズさんから進化すると言っていましたが、彼女は魔物の進化ということに関しては詳しくはないでしょう。つまり、アズさんがいきなり止まってしまった理由がわからない。それで彼女はアズさんに声をかけるわけですが反応はない。それまで反応してくれた相手なのに、何も言ってくれない。一体どうしたことかと思う。そして何度も声をかけても、やはり反応はない。もしかしてさっきグリフォンの攻撃を受け傷つき、死んでしまったのではないか? そう思ってもおかしくはないですよね』
『……そういうものか?』
『魔物がどういう事情で生きて死んで進化するかなんてものはわかりませんからね、普通の人間には。そして今まで一緒に行動していた頼りになる師匠の様な親しい相手が自分を守るために死んでしまったのではないか、そう思ってしまった。それでずっとあの調子で呼びかけて……ええ、こちらとしても少し可哀想に思えるくらいに真剣でした』
本気で心の底からネーデはアズラットの事を想い心配していた。それをアノーゼは見ていた。
『それでアズさんが目覚め、あの子に答えた。それでアズさんが生きていると分かり、本当に嬉しかったのでしょう。だから今アズさんはその状態になってしまったわけです。ええ、まあ、仕方がないことではあるのかもしれませんが、ある意味アズさんのせいでもあります。進化するとき説明が少なすぎたせいもありますから。まあちゃんと説明をしても彼女はアズさんのことを心配した可能性はあるかもしれませんけどね』
『あー……うん、まあ、うん』
アズラットとしてもどういえばいいのかわからない。
とりあえず今はネーデの思うががままに任せるしかないようだ。
「アズラット…………」
『(…………そろそろいいか?)』
「え? あ、うん、ご、ごめんっ!」
ようやくある程度落ち着いてきたネーデにアズラットが声をかける。
その言葉でネーデはようやく現状に気づき、アズラットをその腕から解放した。
『(何か心配かけたみたいで悪かったな)』
「そんな……ことないけど」
『(……そういえば、いつのまにか呼び捨てになってるな)』
ネーデの自分への呼称がさん付けからアズラットと呼び捨てになっていることに気付く。
別段アズラットはそれで気分を害するわけでもなく、単にそれに気付いたからそう呟いただけだ。
しかし、それを指摘されたネーデはその言葉に慌ててしまう。
「えっ、あ、その、呼び捨てしちゃってごめんなさい!」
『(いや……別にいいぞ、呼び捨てでも? むしろ今までがさん付けでちょっと距離があると言うか、他人行儀的な感じだったかもしれないな。一応一緒にここの迷宮に挑戦している仲間なんだ。呼び捨てでちょうどいいくらいじゃないか?)』
「仲間……」
ネーデはアズラットが自分のことを仲間と言ったことに少しだけ嬉しそうにしている。
彼女にとって仲間と呼べるような者は存在しない。
これまでアズラットは自分を鍛える師匠のようなものだった。
アズラット自身もそういう立場だと認識していると彼女は思っていたが、ここで思わぬ言葉をアズラットが言った。
仲間。つまりアズラットはネーデのことを対等の相手として見ているということである。
どこかネーデ自身アズラットとは距離がある感じだったが、その距離が一気に埋まったような感覚だっただろう。
それは先のグリフォンとアズラットが戦い始める前の叫びもあって完全にアズラットへの不信が消えた瞬間だった。
「呼び捨てでもいいの?」
『(ああ。まあ気にすることでもないしな)』
「わかった。じゃあ、あらためてこれからもよろしくねアズラット!」
『(……あ、ああ。よろしく)』
あらためて、とネーデが言うがアズラットとしてはそこまできっちりとすることだろうかと思ってしまう。
なのでどう対応していいのかはわからなかったが、とりあえず普通によろしくと返すに留めたようだ。
『(とりあえず、一度八階層まで戻るぞ? 今はグリフォンの影響かわからないが魔物の気配は……とりあえずない感じだが、すぐに戻ってくるかもしれないし、現状に関してゆっくりと把握したいからな)』
「うん、わかった」
そうして二人は八階層へと戻る。
グリフォンの出現の影響か、それともたまたまか特に苦労もなく八階層に二人は着く。
『(よし。これでゆっくりできる……)』
「戻って来たけど……どうするの?」
『(自分のステータス……ネーデの場合は冒険者カードの確認とかをしておきたい。スキルの状況とかレベルの状況とかな)』
「うん、えっと……」
アズラットは<ステータス>、ネーデは自分の冒険者カードを取り出し各々自分の現在の状況を確認した。




