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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
二章 魔物と人の二人組
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069 飛ぶ鳥を落とす勢い

 <風魔法>と<怪力>。グリフォンの持つスキルはこの二つである。

 そもそも魔物は独自の性質を持ち、それは一種のスキルに近い。

 アズラットのようなスライムならば振動感知や万能消化の性質を持っているように。

 グリフォンの場合、その翼での飛行などがもともと持つスキルに近い性質だろう。

 そういったものとスキルは明確に違う物。

 基本的に魔物はスキルを持ちにくい。

 知能の問題もあるが、スキルを求めない所もあるだろう。

 アズラットのようにあれが欲しいこれが足りないと基本的に魔物は思わないことが多いのである。

 しかし、それでも魔物がスキルを持つことがある。それもまた少し特殊な形態になるが。

 魔物の中に己の性質として持ち得ないのになぜか生まれつきスキルで取得する技能が存在する。

 グリフォンの持つ<風魔法>と<怪力>はそれによって取得されたスキルである。

 まあ、そういった魔物のスキル事情はあまり重要な話ではないだろう。

 重要なことはグリフォンが強力な魔物であり、二つもスキルを持っていることである。


(くそっ! まあ、吹き飛ばされただけだが……っと!)


 グリフォンに跳びかかったアズラット。しかしその攻撃もグリフォンの足に弾かれる。

 殴りつけるように横薙ぎに振るわれるだけだがそれでも結構な威力だ。

 しかし、流石にその一撃で倒されるほどアズラットは弱くはない。

 アズラットの防御力はその本来の大きさ、体積が由来である。

 本来アズラットはヒュージスライムでありその大きさはかなりのもの。

 それが今のネーデの頭に乗っかることのできるほどの大きさになっているのである。

 体積的に十分の一じゃきかないくらいの大きさとなっていることだろう。

 つまり、その圧縮された分の体積がまるまる防御能力に変わっているのである。

 もちろん単純に防御能力が十倍になったとかそういうものではない。


(しかし、攻撃能力が低いのがネックだな。まあ、飲み込んで……っと! 遠距離攻撃とは厄介な!)


 アズラットは攻撃手段に乏しい。消化能力は高いが一瞬で消化できるほどのものではない。

 グリフォンに取り付いて消化するにも時間がかかる。できないことはないはずだが。

 しかし問題はアズラットの移動能力と攻撃能力。

 <跳躍>や圧縮の解除による移動があるとはいえ、アズラットの移動能力はそこまで高いわけではない。

 そのうえグリフォンには<風魔法>という遠距離攻撃手段が存在する。


(厄介だが、なんとかするしかないな。流石にネーデを放っておくわけにもいかない。流石にネーデを連れてグリフォンから逃げるって言うのも無理だ。っていうかもう完全に目をつけられてるよな。そもそも襲った理由からしてわからないが……まあ言っても仕方がない!)


 幸いないことにこの九階層には乱立する樹々が存在する。

 アズラットの<跳躍>は地面がないと扱えないスキル。だが別にそれは地上である必要はない。

 壁となるようなもの、つまりはアズラットが触れられるものであればそれを<跳躍>する足場にできる。

 それゆえにこの九階層はアズラットにとってはそれなりにやりやすい階層……なのかもしれない。

 もちろん樹々の間は結構離れているし今の<跳躍>のレベルではあまり速く跳べない問題もある。

 だが今はグリフォンに対抗できるのであればそれでいい。


(今っ!)


 グリフォンの隙を突きアズラットが跳びかかる。

 それをグリフォンは前へと跳躍して回避する。


(っ! 見えない位置だったろ!? いや、風か!?)


 <風魔法>。風とはつまり空気の動きの一種であると言えるだろう。

 スキルにより風を自分の周りに待機させているグリフォンは空気の動きを風で感じられる。

 アズラットやネーデの持つ振動感知ほどではないが、自分に近づくものを探知できるわけだ。

 それによりアズラットの接近に気が付き回避した。そしてグリフォンはアズラットに向き直す。

 跳躍、そのままアズラットに対しその<怪力>の籠められた足を振り下ろす。


(おおおおおおっ!? や、やばっ!?)


 その足はアズラットを踏み潰す。その力はとても大きい。

 ぐにゃりとアズラットの体が大きくたわむ。

 アズラットの防御能力でもグリフォンの力には流石に負けるようだ。

 しかも勢いのあるのは最初だけ、などという都合のいいものではない。

 グリフォンが力を籠め続ける限りずっとその力はアズラットに向けられている。

 今はまだたわむ程度だが、そのまま力を籠められ続ければその一撃は核へと届くだろう。


(っ! <圧縮>解除っ!)


 アズラットは自分の体にかけられている<圧縮>を解除する。

 それによりグリフォンの足は踏み抜かれた。

 しかし、その代わりにアズラットの体は大きく広がり、グリフォンの体を飲み込んだ。

 踏み抜かれた部分も何のその、大きく広がったアズラットの体の一部でしかない。

 核さえ無事ならばアズラットは死ぬことはあり得ない。


(どうだ、このままその体飲み込んで消化してやるっ!)


 アズラットはその広がった体でグリフォンの体を飲み込み消化を開始する。

 全身を包まれその触れている部分から消化が開始、グリフォンの体が酸により爛れていく。

 だがアズラットは何かを忘れていないだろうか。グリフォンの持つスキルを。


(っああああああああああああああ!?)


 <風魔法>によりグリフォンの渦巻く風の攻撃がアズラットの体に炸裂する。

 それによりグリフォンを包むアズラットの体が飛び散り、スライムの拘束から自由になる。

 辛うじて核は風に巻き込まれ傷つくことはなかったが、それでも風の攻撃が掠り大きな痛打となる。


「ッ!」


 自身の体を飲み込もうとし、包み込んで酸による溶解を行ったアズラットに対し怒りを向けるグリフォン。

 そのまま<風魔法>のスキルにより風がグリフォンの周りに渦巻き始める。

 また先ほどのようにアズラットに向けられるだろう風の塊。今度は回避するのは難しいだろう。

 先ほどのように体を飲み込まれた状態から自由に近い状況になっているのだから。

 しかし、そんな時グリフォンに向けて何かが飛んでくる。


「ッー!!」


 グリフォンが鳴く。自身の頭部、目を貫いた鋭い痛みに。


(剣……ネーデか!)


 グリフォンの頭部をネーデの剣が貫いていた。

 振動感知で感じられるネーデはまだ動けるほど回復はしていないようで先ほどの場所にいる。

 しかし、その腕は何かを投げたような状態になっていた。つまりネーデが投げたのである。


(……今っ! 今しかないっ! 問題は消化時間……いや、こういう時はっ!)


 グリフォンを包み込み、飲み込む。それにより消化する。

 消化ができなくとも体で包み込んでいる間は呼吸ができないため、息切れを待つのも手だろう。

 しかしグリフォンには風魔法が存在し、それでアズラットが吹き飛ばされることを考慮しなければならない。

 ならばどうすればいいのか? アズラットには大きな攻撃手段というものは存在しない。

 ただ、少々やり方が特殊な例外的な攻撃手段が一つだけある。


(<圧縮>! ああ、くそ、殺気の吹き飛ばしで結構減ってる! でもこれだけあればまだいけるか!? <跳躍>っ!)


 アズラットがグリフォンの頭部へと跳躍する。

 ちょうど片目が失っている側からというのが功を奏したのかもしれない。

 そのまま頭部に取り付き、アズラットは自分の体をグリフォンの口の中に入れる。

 今暴れている状態であるが下手をすればそのまま飲み込まれたり核に噛みつかれたりする危険もあった。

 だが運がよかったかもしくは賭けに勝ったか、うまく体を口の中に滑り込ませることができた。


(<圧縮>解除っ!)


 アズラットの体はネーデの頭に乗せられるほどの小ささである。

 それくらいまでに<圧縮>している。

 しかし、もともとの大きさは小さな洞窟を占められるほどの大きさ。

 もしその大きさが生物の口内で<圧縮>から解放されたとすればどうなるか?

 膨れ上がったアズラットの体はそのままグリフォンの口内を埋め尽くす。

 爆発的の膨張する体はそのまま口内の奥や外へと抜ける前に、一気に広がる。

 それは口内の耐久能力をすぐに超える。

 そうするとどうなるかというと……吹き飛ばすのである。頭を。


「ッ」


 鳴き声も出せず一瞬でグリフォンの頭部が刺さっていた剣と一緒に吹きとび、あたりに散らばる。

 そしてその吹き飛んだ頭のあった場所から湧き出るようにアズラットの体が広がる。


(……流石に頭無しで生きられるほどではないよな。はあ……とりあえず、全部食らっておこう。今回は本気で死ぬかと思った)


 死闘、というには少々戦い方が奇抜なところがあったように思える。

 そして運頼りの部分も多かっただろう。

 それでもグリフォンという存在に勝ったのは事実である。

 アズラットとネーデは辛くも生き延びることができた。

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