表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
二章 魔物と人の二人組
63/356

063 森を抜けるためには

 九階層は森、それも多くの魔物が潜み住まう魔の森である。

 普通の人間には暗く危険の多い場所であるがアズラットにとって脅威ではない。

 ネーデには<危機感知>と<振動感知>の恩恵があればそれなりに進めることだろう。

 しかし、大きな脅威を目の当たりにし簡単にはいかないと判断される。

 大きなカブトムシ、そのとんでもない攻撃能力。それを見て恐れないはずがない。

 その魔物一体だけで済めばまだ楽に済むのかもしれない。

 あの大きなカブトムシの脅威をアズラットが確認し八階層に戻った後。

 何度か九階層に再訪し迷宮の様相や出てくる魔物の調査を行い始めた。

 存在する魔物にも幾らか出会っている。

 上から襲う栗鼠や枝に擬態するナナフシ、花を背負う蝶に鎧や剣などの金属を襲う啄木鳥。

 専ら脅威にならない四種の魔物はこれと言って害ではない。

 地上にいる魔物で厄介な虫型の魔物、蟻の魔物に蟷螂の魔物。しかしこれらは倒しやすい。

 ネーデの実力であれば単純に襲ってくる相手はよっぽど数を揃えられなければ大丈夫だ。

 不意打ち気味に出てくる迷彩色の猪、枝の上に潜んでいたり樹の陰に潜む豹、地面に潜む大貝。

 そういったアズラットやネーデでは把握しにくい存在もいる。とはいえ振動感知は優秀だ。

 動きさえあればほとんどの魔物は感知できる。

 魔物の中には茸の人型の化け物、そしてそれに寄生されたような元人間のような化け物もいる。

 それ以外にもコボルトに近しい魔物もいる。しかしこちらは少々強めの魔物だ。

 肉体的にもコボルトよりはるかに強く、狼男と言う言葉が似合う魔物である。

 巨大熊、頭に角が生え恐ろしい顔をした蜥蜴の魔物、そういった魔物もいる。

 また、この階層にもスライムはいる。ここのスライムは紫色。まあどうでもいい話であるが。

 さて、そういった魔物はまだ比較的ネーデでもアズラットでも対処の出来る相手である。

 だがネーデでもアズラットでも対処の出来ない魔物もいる。

 先に見た大きなカブトムシの魔物。一瞬で巨大熊を挽肉に変え樹々を折り倒してきた魔物。

 そしてそれに似通っていると思われる巨大なクワガタムシの魔物も確認できている。

 幸いなことにアズラットは<隠蔽>を使うことができると言うこともあり、それらの魔物は回避できる。

 しかし、そういった脅威が存在すると言うことがアズラットにもネーデにも恐ろしい話なのである。

 遭遇すれば死にかねない。

 <隠蔽>も万能ではなく、先に見つかっている状態であれば回避は出来ないだろう。

 移動速度は相手の方が速く、攻撃は当たれば巨大熊と同じ未来が待っている。

 倒すとしたら、一度降り立った後に再加速するまで攻撃できる隙はあるかもしれない。

 だが防御力はどうか?

 カブトムシもクワガタムシも甲虫、巨大化した虫系の魔物はどれも比較的硬い。

 そのうえ虫系の魔物は生命力が高く、痛がることも少ないゆえに確実に殺さなければ危険である。

 今のネーデとアズラットがどの程度これらの魔物を相手にできるのか。

 アズラットは辛うじて加速状態の体当たりを受けなければ何とかなりそうだがネーデは厳しい。

 そして、それとは別の脅威として巨大な人型の魔物が存在する。

 ずしんずしんと歩くたびに音が出る魔物。天井の光を覆い隠す樹々の枝まで身長がある巨人。

 カブトムシとクワガタムシと巨人、ネーデとアズラットでは現状対処できない大きな脅威の魔物。

 それらを倒せなければ先に進むことは許されないだろう。

 別に倒さずとも誰かがネーデやアズラットを止めるというわけではない。

 ただ、それらの魔物と同格の魔物がこれから先出てくる可能性が高いと言うことである。

 もしかしたらそれ以上の魔物だって出てくるかもしれない。

 ネーデの冒険者カードにも記されているが、この迷宮は竜生迷宮。

 未だ蜥蜴以外に竜らしき魔物の姿形が全く見えていないのである。

 これから先竜らしき魔物が出てきてもおかしくはない。

 ここの魔物程度に勝てないでどうやって勝てばいいのか。

 つまりこの階層で躓く程度ではこの先冒険者として迷宮の奥を目指すのには不適格であると言うことである。


(とはいってもどうしたものか……)


 九階層の魔物についてはアズラットも入り口からあまり離れず探索し、おおよそ把握した。

 そのうえで先に進むわけであるが、ネーデとアズラットでは脅威の魔物が三体もいる。

 別に無視して進んでもいいが、この先の階層でそれ以上の強さの魔物が出る可能性は高い。

 ゆえにそれらに対抗できるだけの実力をつけなければならない。

 しかし、それらの魔物にどう対抗するべきであるのか?

 それを考え現在悩んでいる状態なのである。


『(ネーデ、あのでかい虫の魔物と巨人にどう対抗したらいいと思う?)』

「…………あんなの、勝てないよ」


 ネーデは最初から弱気である。自分が時間をかけて倒す巨大熊を一瞬で挽肉に変える強さである。

 その強さの差は明確すぎる。それゆえに恐れ、勝ち目がないと嘆くのだ。


『(勝てないってことは…………まあ、今は無理だな。だけど、この先に進む冒険者だっているだろ。誰だって最初から強いわけじゃない。ネーデも最初は四階層で苦戦するくらいだったのに今はもここ、九階層に来ることができるようになっただろ? それと同じでネーデが強くなれば勝つことだってできるはずだ)』

「…………」

『(諦めたらそこで終わりだろ。俺だって最初は本当に弱いスライムだったんだ。ネーデだって鍛えればもっと強くなれる。幸い九階層の他の魔物とは十分戦えるんだ。まだ諦めるのには早い)』

「…………わかったよ。頑張っては見るね」


 ネーデは弱々しいながらもそう答える。


(……まあ、ネーデはなんとか励まして頑張ってもらうとして。問題はこれから先どういう方針で鍛えるかだ)『(ネーデ、とりあえずあの魔物たちに勝てるようにするにはどうしたらいいと思う?)』

「……どうしたらいいって言われても……わかんない」


 ネーデには巨人たちにどう対抗するかの妙案というものはない。


『(……とりあえず対策は必須だな)』

「対策?」

『(そうだ。まずあの突進に対する対策。一撃受ければ巨大熊と同じで挽肉だからな。仮にあの突進を受けないにしても、角や鋏の攻撃は厄介だ。それにあの二種の虫だけでなく巨人の問題もある。素手も厄介だが、あいつは樹を折って武器に使う様子もあるようだしな)』


 アズラットが確認した限り、巨人は樹を破壊しその樹を武器に使うようだ。

 近距離だけでなくある程度の距離をカバーしている。厄介な話である。


「えっと……?」

『(つまりは防御力だ)』

「つまり装備を変えるってこと?』

『(装備を変えた程度でどうにかなればいいんだけどな……)』


 仮にネーデが金属製の盾や金属の鎧を装備したところでどれほどの防御能力が出せるだろうか。

 それ以前に、仮に鎧や盾を装備してもその鎧や盾を通して肉体にダメージが行くことだろう。

 結局のところ攻撃そのものを完全に遮断できるようなものが必要になる。


『(方針としてはスキルを考えている)』

「スキルかあ……」

『(一応まだ覚えるだけの余裕はあるだろ? まあ、一応検証……いや、確認はいるが)』

「そうなんだ」

『(まあ、それまでは今まで通りちょっと九階層に出向いて鍛える程度になると思う。しばらくはそういう方針で動くからな)』

「わかった」


 ひとまず現状はネーデとアズラットは少し九階層に出向き鍛え、八階層に戻るの繰り返しになるだろう。

 そうして鍛えながら、アズラットはアノーゼにスキルについて訊ね、有用なスキルを調べる。

 そしてこれだと思える防御系のスキルを覚え、対抗できるまでレベル上げをして倒せる実力を得る。


(ひとまずアノーゼに相談しないと。なんかすごく久しぶりな気がする……最後いつ話したっけ?)


 最近アノーゼと話す機会の無かったアズラット。最後に話したのはいつだっただろうか。

 そんなことを思いながら彼は<アナウンス>のスキルを使いアノーゼに連絡を取るのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ