064 拗ねる天使
『アノーゼ』
<アナウンス>を使いアズラットはアノーゼに連絡を取る。
基本的にアノーゼから連絡するための物であるが、アズラットからも連絡は取れる。
『……アノーゼ?』
しかしスキルで連絡してもアノーゼは反応しない。
<ステータス>でステータスを出してスキルを確認するが以前のように黒塗りになっているわけでもない。
『おーい、アノーゼ?』
『…………』
なんとなくアズラットはアナウンスが通じているのに無言を返されたのに気づく。
どうやらアナウンスが届いていないわけではないようだ。
『アノーゼ?』
『…………つーん』
『………………えっと、あの、アノーゼさん? どうかしましたか?』
『つーん!』
奇妙な反応である。どうにもアズラットも戸惑う様子を見せて反応しづらい感じである。
『……アノーゼ?』
『今まで全く私に話しかけようともしませんでした。私から話しかけてもいいですけど、そればっかりだと私も寂しいですよ? ええ、別にいいんです。アズラットさんが若くてかわいい女の子が側にいるから声だけで文句や説教臭い年上女子には興味がなくてどうでもよくなったって。ええ、別にいいんです』
『いや、そういうわけじゃないんだけど』
『いいんです、わかってます、若い子がいいのはいつの時代でもどこの世界でも変わりません。ええ、別にいいんです』
どうやらアノーゼはアズラットと暫く会話していないから拗ねているようである。
何か会話をしたいのならアノーゼから会話すればいいのだが、アズラットからはアノーゼに意識を向けない。
例えばスキルに関して知りたいとか、迷宮のことについて知りたいとか、そういうことを思えば関わりやすい。
だがどうにも、アズラットはアノーゼが関わるような内容にはうまく触れる思考をしなかった。
もしくは、アノーゼが関わるような事項よりもネーデ側に関わるようなことばかりを意識していたのもある。
アノーゼはアズラットに寵愛を授けているアズラット一筋のストーカー気質の女神系女子である。
意中の相手であるアズラットが別の女性に意識を向けているところにあまり積極的に関わるつもりはない。
いや、全く関わるつもりがないかというと疑問ではある。
まあそういう諸々の思惑や状況がうまく掛け合った……もしくはうまく掛け合わなかったのかもしれない。
そのためアノーゼとアズラットが会話するような機会がなかったのである。
流石にずっと話していないとアノーゼもアズラット分の補給ができないと寂しがる。
ようやく話しかけてきて嬉しくはあるが、しかしずっと話す機会がかった。
その結果アノーゼは拗ねた様子でアズラットを責めているのである。
『……ごめん』
『……いえ、いいんです。本当に。これはちょっとアズラットさんに私の方もしっかり意識してほしいなーっていうポーズなんです。本当に怒ってるわけじゃないんです……こちらこそごめんなさい』
アズラットが謝り、それにアノーゼも別に怒ってないと答える。
少し拗ねてはいるが、実際に怒ってはいない。
そもそもアノーゼはアズラットに対し寵愛を授けるほど強い愛情を持っている。
それに普段からストーカーのようにずっと様子を見守り、その全てを見ているのである。
愛しているから全てを許すとは言わないが、アズラットがどのように生きて、どのように頑張っているのかはわかっている。
それゆえに本気で自分を蔑ろにしたと責めるつもりはない。
ただ、やはりずっと話しかけてもらえない、意識してもらえないのには不満がある。
ゆえに拗ねたポーズを見せたのである。
『とりあえずこの話はこれまでにしましょう。アズさん、何か用事でしょうか?』
『え、あ、うん。えっと……』
『おおっと! みなまで言わなくても構いません! 私はアズさんのやっていること考えていることその全てを見守るアズさんのためのスキル天使! 何も言わなくてもその全てを私は理解しているのです! つまり、あの大きなカブトムシやクワガタムシの魔物、そして巨人の魔物に対する対抗策が欲しいのですね! わかります! とってもわかってますから!』
『……………………』
アズラットは思う。アノーゼはこのように面白おかしい反応をする馬鹿っぽい天使だったかなと。
いや、アズラットはそこまでアノーゼとの付き合いがあるわけではない。
なのでそう思うほどの付き合いはないはずなのだが。
少なくともここまで馬鹿っぽい感じだっただろうかと思っている。
もしかしたらアズラットの以前の記憶が記憶喪失の状態でもどこかに残っていたのかもしれない。
それはともかく。話を本題に戻すとしよう。
『絶大な攻撃能力に対する防御手段……中々に難しい話ですね』
『まあな。あれ、俺だと大丈夫かな?』
『……厳しいと思います。アズさんの物理攻撃に対する防御能力は確かに高いですが、限界があります。ですが、そろそろ進化できるくらいにアズさんは強くなってるはずですし、進化するのがいいと思いますよ? 進化すれば多分受けても死なない程度にはなります』
『あと一レベルなんだよなあ……』
四階層で進化したのち、しばらくずっと進化していないアズラット。
五、六、七、八と四つの階層を通ったのにまだ進化していない。
食した魔物の総量の問題だろうか。
ネーデが戦うためか、どうにもアズラットは魔物を食する機会が減り気味である。
まあ、あと一レベルあがれば進化できると言うこともあり焦る必要性はないだろう。
それよりも重要なのはネーデがどうやって防御力を高めるべきかである。
『まあ、俺は良いんだけど……』
『彼女の防御能力に関してですか。まあ、人間ですからね……盾や鎧をどうにかしたところで意味はありません。<身体強化>にも防御能力を強化する作用はあります。<肉体強化>もそうですが、強化するだけでいくらかもともとの防御能力を強化する作用はあるんです。ですがその程度では意味がないですからね』
『そうなのか。まあ、ちょっと防御力が上がったところで……仮に二倍になっても耐えられるわけもないしな』
あの巨大な魔物たちの攻撃は単純に強い物であり、並の防御で防げるものではない。
巨大熊ですら一瞬で挽肉に変わる。
巨大熊の防御能力がネーデの防御能力と比べ低いと言うはずもない。
『ですから必要な防御は攻撃を受けないようにする……<回避>や<受け流し>みたいな物理的に攻撃を避ける逸らすスキル、または<遮断>や<防御>のような攻撃そのものを一度完全に遮断して受けるものになるでしょう』
『避ける逸らす……もしくは完全にシャットアウトする、そのどちらかってことか』
攻撃を防ぐための手段はいくつかあるが、防御力を上げても意味がないのならば受けないようにすることが肝要である。
しかし、受けないと言う事項にも種類はある。
攻撃そのものを回避する、もしくは攻撃を別の方向へと逸らすこと。
もしくは攻撃そのものを完全に遮断することである。
『恐らくは<回避>や<受け流し>は求めるものとは性質が違うと思います。<回避>は<危機感知>で危険を感じたら回避すればいいだけの話ですし、<振動感知>も得ている以上スキルをわざわざ得る必要性はないと思います。<受け流し>が少し扱いづらいですね。このスキルは基本的にその攻撃を意識していることが必要ですし、<受け流し>を使うための条件も必要です。無条件で何でも受け流せるわけではないですから。そういう点では<遮断>か<防御>がおすすめです』
アノーゼがお勧めしてきたのは<遮断>や<防御>などの攻撃を完全に防ぐことのできるスキルである。
ひとまずアズラットはそれらの違い、有用性についてさらに訊ねることにした。




