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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
一章 スライムの迷宮生活
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039 少女とスライム

 迷宮内に存在する小さな穴から入り込んだ小さな道の先。そこにあったゴブリンの集落。

 存在していた集落は今はなく、すべてがスライムに埋め尽くされていた。

 まだいくつか建物が残っていたり、外に残っていたゴブリンのような生き残っている存在はいる。

 しかし、既に集落にいた頭脳役となるゴブリンはスライムに食われ死に至っている。

 その状態でここにあったゴブリンの集落が再建されるようなことはありえない。

 ゴブリンの集落は壊滅した。たった一匹のスライムの手によって。

 そんなスライムは集落全域にその体が広がっていたが、今は急激にその体を縮めている。

 そして迷宮の一階層に存在するような普通のスライムの大きさにまで縮んでいった。


(…………ふう。ようやく戻った。暴走進化……酷いことになってたな)


 スライムである存在、アズラット。

 今はヒュージスライムに進化したその身は集落を飲み込めるほどに巨大である。

 しかし持ち得るスキル<圧縮>により本来の、初めの時のスライムの姿を常に維持している。

 先ほどはアノーゼの手によって暴走進化という形で進化したがためにああなった。

 今は本来のアズラットの意識が戻っているので普段の状態に戻したのである。


(<ステータス>!)


『・種族:ヒュージスライム Lv25

 ・名称:アズラット

 ・業

    スキル神の寵愛(天使)

    ■■■

    偽善の心得

    契約・ネーデ

 ・スキル 8枠(残1)

  <■■ウ■ス>  <ステータス>

  <圧縮lv31>  <跳躍lv16>

  <隠蔽lv10> <念話> <契約> <> 』


(レベル二十五……進化もしてるし、スキルも上々。まあ、スキルの空きが足りていないのが困りものか……まあ仕方がないか。しかしこの"偽善の心得"って……いや、まあ偽善なんだろうな。あれもこれも)


 今回このゴブリンの集落であったことはアズラットにとってはいろいろと複雑な内容である。

 そして魔物であるアズラットがその心で行った数々の事柄は偽善と言われても間違ってはいない。

 もっとも、それが業に追加されるとは思わないだろう。

 一体誰がどういう基準で追加した物かはわからない。


(契約……ネーデ? ああ、あの少女の……そういえばあの子は)


 そうして周りの様子を確認するアズラット。先ほどからどうにも警戒が甘い。

 さっきまでヒュージスライムの本来の在り方に近い状態で周りの物を本能的に飲み込み食していたアズラット。

 元に戻ったとはいえ、状況的に混乱気味で今はそれらを色々と把握し始めている状態である。

 そのため警戒心もかなりまだ弱い状態だった。

 それは集落全体にいたゴブリンを食らいつくしたというのもあるだろう。

 振動探知、周りを見回し周囲の状況を確認すればすぐに少女の存在は把握できる。


(……よかった。まあ流石に殺してはないよな。わざわざ契約したんだし。っていうか、アノーゼ! アノーゼ! うん?)


 アズラットがアノーゼに対し連絡を取ろうとするが伝わらない。


(あれ? ……ちょっとまった、確かさっき……<ステータス>!)


『・種族:ヒュージスライム Lv25

 ・名称:アズラット

 ・業

    スキル神の寵愛(天使)

    ■■■

    偽善の心得

    契約・ネーデ

 ・スキル 8枠(残1)

  <■■ウ■ス>  <ステータス>

  <圧縮lv31>  <跳躍lv16>

  <隠蔽lv10> <念話> <契約> <> 』


 先ほどと同じくアズラットがスキルを使い自身の状態を確認する。

 その中にある自分のステータスの一部分の変化に気づく。

 スキル<アナウンス>の一部が黒塗りの状態になっている。


(話すことができないからか? ってことはあの子に対する対応は俺がしなければいけないのか……いや、そこもアノーゼに頼りきりってのは確かによくないんだろうけど。まあ、<念話>もあるしなんとかなるのかな?)


 ひとまずアズラットは少女に近づく。

 少女は自分に近づくスライムにびくりと震えている。

 まあ先ほどまで自分の周りを囲まれていた状態だ。

 そしてそれを成していたのがアズラットなのである。

 それを行っていた存在が近づけばそれは怖い。

 目の前でゴブリンたちが殺され食われていたのを見ていたのだから余計に怖い。

 しかし、今の状況であれば彼女も逃げられるはずだが逃げる様子は見られない。

 観念したのか、それとも腰を抜かして動けないのか。先ほどまではどちらかというと呆然としている様子であったが。


『(話せるか?)』

「っ!? だ……誰?」

『(さっきも言ったと思うけど、目の前のスライムだよ)』

「……本当に? 本当に今私に話しかけてきてるのはあなたなの?」


 怪訝そうに少女が訊ねる。

 それもそうだろう。スライムは知性や知能が存在しないのが人間の中で一般的なのである。

 そもそもアズラットみたいな存在が極めて例外的な存在であるのだからこの対応もしかたがない。

 まだ<念話>のスキルを持つ魔物使いが話しかけてきたと言う方が納得できるくらいである。


『(そうだよ。えっと……ネーデ?)』

「なんで私の名前を!?」

『(さっき契約したからかな。俺はアズラット。見ての通り………………スライム、だな)』

「確かにスライムみたいだけど……スライム? 本当にスライム?」

『(一応今はヒュージスライムってことになってる。スキルでこの大きさになってるけど)』

「ヒュ、ヒュージスライム!?」


 ざっと一気に少女……ネーデがアズラットから距離をとる。

 ヒュージスライムは人間にとって災害レベルの危険である。

 迷宮内外でまともな形でヒュージスライムが生まれた場合、周りのすべてを飲み込むほどの危険になる。

 ゆえにスライムは進化させないようにするし、進化したスライムを見た場合すぐに倒すのが一般的である。

 ネーデの場合は先ほどのアズラットの起こした惨状を見ていたゆえに余計にその危険が分かる。


『(そんなに怯えなくてもいい。そもそも何かするつもりならさっき喰われてたと思うけど)』

「そういえば……」

『(契約しただろ? あれでお互いがお互いを害することができないから大丈夫だ)』

「そうなんだ……」


 ネーデは落ち着いた様子である。それにアズラットは満足する。


『(…………)』

「…………」


 お互い喋らない。

 そもそも二人はこの場所で初めて会った相手である。何か話すような間柄でもない。

 もともと冒険者と迷宮の魔物、敵対関係にある者だ。

 アズラットがネーデを助けたいと思ったから現在の状態になっているだけなのである。


『(それじゃあ俺はこれで)』

「え?」

『(ほら、もうゴブリンたちもいなくなったし安全だろ。ゴブリンに襲われかけていた窮地からは助けたわけだし、もういいかなって)』

「ちょ、ちょっと待って!? おいていかないで!」

『(いや、でも、俺は魔物だし……)』

「こんなところに置いていかれたら私死んじゃうからっ! 助けて!」


 必死な様子でアズラットに懇願するネーデ。

 流石にその本気の懇願にアズラットも引き気味である。


『(……えっと、なんで俺にそこまで頼むの?)』

「……私じゃ四階層から三階層に戻るのとか無理だから。三階層も、いきなり狼に襲われて……そこをゴブリンたちに助けられたようなものだったし。そのあと攫われちゃったけど……」

『(それはまた……大変な目に遭ったみたいで)』

「私、三階層に来たばかりでまだ全然戦えるほどじゃないの。お願い、助けて……」


 迷宮の三階層まで来たはいいがそこで死にかけたのをゴブリンが確保しここまで連れてこられた。迷宮の四階層に。

 その四階層から無事三階層まで戻る、さらに言えば三階層から無事二階層に戻る。

 まず不可能と言っていい。

 そもそも今の彼女の状態を考えればどう考えてもだれがどう見ても無理だと断言する。


「武器もないのにどうやって戻ればいいの?」

『(あー……それもそうか。ってことは二階層にまで送ればいいか?)』

「…………ねえ、スライムさん」

『(なに?)』

「私を助けてくれない?」

『(ここから連れていくくらいなら別に)』

「そういうことじゃなくて……」


 少し言葉を切るネーデ。わずかに逡巡するものの、すぐに言葉を切り出す。


「私を、これからも助けてほしいの」

『(…………これからも? どういうことだ?)』

「私は冒険者としてこの迷宮に入ってる。でも、仲間もいないし成人もしていない女で全然弱い。そんな状態でこれから冒険者としてやっていけるはずもない。でも……私が今できるのはこれくらいで、冒険者として迷宮に入るしかない。一人で活動していくのは流石に無理。だから、スライムさんに助けてほしいの」

『(冒険者ギルドとか、他の冒険者とかいるだろ。仲間を募ったりは出来ないのか?)』

「成人していない私を仲間にしてくれる人なんていない……仲間に入れようとしてくる人達は何か嫌なこと考えてるし」

『(ああ、なるほど……)』


 ネーデが仲間を作れないのは彼女の年齢、強さが問題だ。

 成人していない幼い少女がどれほどの強さを発揮できるか。

 レベルやスキルという強さを示す物があっても、少女の幼さではどれほどの力になるだろう。

 仲間にするだけの強さがない以上仲間に入れることはできない。

 同じような冒険者がいれば話は違うのだが、残念ながらそういう冒険者はいなかった。

 それゆえに一人で迷宮に入り込んでいたのである。


「お願いします……」

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