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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
一章 スライムの迷宮生活
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038 ゴブリン集落の壊滅

 少女は困惑していた。今目の前で起きている光景が理解できなかった。


「(なんで……? いったい何が……?)」


 少女の目の前では突然現れた巨大なスライムが壁となって立ち塞がっている。

 しかし別にスライムは少女に対して敵対的な行動をとっているわけではない。

 むしろその逆で少女を守っている。ゴブリンたちの攻撃から。


「(なんで魔物が私を守るの……?)」


 少女には理解できない。魔物同士の戦いというのは迷宮内で起こりえる行為なので理解できる。

 しかし、魔物が人間を守ると言う話は聞いたことがない。

 いや、ありえないというわけではない。

 一部の人に近い魔物、エルフなどは迷宮内に存在する場合でも交流を持つ場合はある。

 しかし、それがスライムとなると話は違う。

 スライムは本来知性の無い魔物であるのだから。


「(今のうちに………………逃げるのは無理かぁ)」


 周りの様子からスライムが自分を守っていない限り確実に矢で射られてしまうことだろう。

 まあその原因の一因はスライム側にある。

 少女を守る行為がスライムを確実に攻撃できるという事実に繋がるせいでもある。

 そして周りが完全にゴブリンに囲まれているので仮に矢が来なくても逃げられない。


「(このままじゃ…………)」


 スライムは少女の壁となり一方的に攻撃を受けている。

 スライムの目的は不明だがこのままではいい結果にならないのは確実だろう。

 だが少女にできることは何もない。

 このまま何もできないまま徐々に絶望に心が染まっていく。

 そんな時、彼女の頭の中に声が響く。


『(聞こえる? 聞こえるなら返事してほしいんだけど?)』

「っ!? だ、誰!?」


 いきなり頭の中の届く声。それがいったい誰の声なのか少女にはわからない。

 その声の主がどこにいるかもわからない。

 それゆえに叫ぶ。その声の主の言葉を届かせるために。


『(おお? もしかして言葉分かるのか。これはありがたい……っていうか、こっちに対する返答っていうのは出来るかどうかは不明か。俺も<アナウンス>で慣れてるから普通に会話できるけど、普通はいきなり念話届いて対処しろって言われても普通は無理か)』

「え? 誰? 聞こえてるの? どこにいるの?」

『(聞こえてる。っていうか目の前にいるから)』

「…………え?」


 目の前と言われ、少女は目の前を見る。

 そこに人の姿はない。一面スライムに覆われている。


「前にはスライムしかいないよ!?」

『(いや、俺はそのスライムだから)』

「っ!? ええええっ!?」


 少女は驚く。

 何故ならその頭の中に届く声は少女の目の前で壁となっているスライムの言葉だと言う。

 スライムに知性はない。知能はない。

 スライムはただ迷宮でゴミ掃除を行うがごとく魔物や人間の死体を食べて処理するものである。

 少なくとも冒険者を含む一般的な存在にとってはそういう認識だ。


『(えっと、あんまり長い間話をしていても大変だから重要なことだけを話す)』

「……重要なこと?」

『(今から、そちらに対して要求をする。その要求に対し支払うこちらの代償も宣言する。そのうえで、そちらは"契約する"と答えてほしい。でないと俺はそちらの安全を約束できない。このままだと俺もそちらを守れなくなるし、このままゴブリンにやられるだけ。死にたくない、ゴブリンの子供を産むことになりたくない、そうじゃないか?)』

「え? うん、そうだけど……ちょっと待って!? なんで迷宮の魔物が私を助けるの!? わけわからないよ!?」

『(それは後に話す。生きたいのなら、この先無事で生きていきたいのなら、頼む)』


 少女は訳が分からない状態だ。

 しかし、その言葉が嘘でないのならば……少女は生き延びることができる。

 そもそも少女には後がない状態だ。

 周りの状況から逃げ延びることもできず死ぬ可能性の方が高い。

 死なずとも恐らくはゴブリンの苗床となり死ぬまで生きる事になる。

 死ぬ前に心が壊れる可能性も高い。

 そして少女は最初からスライムに助けられた状態である。

 あの時助けられなければあのゴブリンに犯されていた。

 であるのならば、スライムに頼って生き延びる可能性のある道を選ぶしかない。


「わかった! 言うことを聞くから、なんとかして!」

『(よしよし。なら、<契約>をするぞ! "俺は君を傷つけない、攻撃しない、敵対しない。君は俺を傷つけない、攻撃しない、敵対しない。汝この条件で<契約>をするか? 返答や如何に?")』

「"契約する"!」


 少女の発言と共に、スライムと少女はお互いの間に何らかの繋がりが生まれるのを感じる。

 とはいえ、それははっきりと確認できるようなものではない。なんとなく感じるようなものだ。


『(これから凄いことになるけど、大人しくしとけっ! 一応危害は加えないけど絶対に安全とは限らないから!)』

「ええっ!? 嘘ついたの!?」


 スライムは答えない。別にスライムは嘘をついたわけではない。

 ただ、そうなるかもしれない危険がある、というだけだ。








『アノーゼ!』

『はい! 少しの間、アズラットさんと話せないのは本当に悔しく苦惜しくこの世のすべてを呪いたくなりますが、仕方ありません我慢します! 行きますよヒュージスライムに暴走進化させます!』


 その進化に機械的なアナウンスによる進化の確認は行われない。

 以前の進化のような眠気も感じられない。

 ただ、アズラットは唐突に自身の意識が切れるのを感じた。

 いや、意識を失ったのだから感じることもできないだろう。

 この後にアズラットはその時そんな風に感じた、ということを思ったと言うだけだ。

 このときのことはアズラットの記憶に残ることはない。

 進化し暴走している状態のことはアズラットの記憶には、残らなかった。








 壁となっていたスライムはぶるりと震えた。

 そして、一気に膨れ上がるように爆発した……ように見えた。


「きゃああああああああああああああっ!?」


 目の前で爆発するように膨れ上がり爆発的に巨大化したスライム。

 それは本来ビッグスライムに許される大きさを超えていた。

 スライム種は進化により巨大化する。

 食事を行うことでも大きくなるが、それ以上に進化による巨大化は大きい。

 もっとも、スライム種の進化による巨大化はヒュージ以降はほぼないと言っていいだろう。

 そのかわりヒュージになる段階で、今まで食べた分がそのままその体の大きさに適用される。

 それまでは食べたものの体積がそのまま自分の体になることはない。

 進化による巨大化は本来反映されるものに過ぎないのである。まあそういう細かい話はいい。

 今までアズラットが食べてきた量は、アズラットがレベル二十三になるくらいの食事量である。

 本来ヒュージスライムはレベル一、生まれた時点でもかなり危険なくらいに巨大である。

 それがレベル二十三になるくらいに食事した量、それが現在進化したアズラットの大きさに反映される。

 それがどれほどの大きさになるのか? ここにあるゴブリンの集落を飲み込むくらいである。


「………………あれ?」


 そんな巨大化したスライムがゴブリンの集落を飲み込むほどに広がっているのに、少女は飲み込むことはなかった。

 まるで少女を避けるかのようにスライムが周りに寄りついていないのである。


「なんで?」


 答えははっきりしている。先ほど少女がスライムとおこなった契約、それが全てだ。


「……さっきの契約? あれのおかげで助かったの?」


 スライムはこのゴブリンの集落全体に広がっている。

 全てを飲み込み全てを食らい全てを消化している。

 その体は集落の入り口まで届いている。

 入り口を塞いだのは偶然だが、それによりゴブリンたちは逃げることができない。

 今の進化による爆発的な拡張中に核を狙い撃つことができればまだ話は別だがそれはまず無理だろう。

 何故ならこの状態のスライムの核がどこにあるかすらわからない。

 そもそも逃げることもできないスライムの濁流を避け核を射貫くなどその筋の天才でもなければ無理だろう。

 まずただのゴブリンにできることではない。


「……これ、いつ終わるのかな?」


 スライムで埋め尽くされ逃げ場のない中、何もできないまま少女はその場で佇んでいる。

 少女はしばらくそのままでいるしかなかった。

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