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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
一章 スライムの迷宮生活
35/356

035 人殺しの魔物の人助け

『……アズラットさん、大丈夫ですか?』

『大丈夫。自分で選んだことだ』


 初めて人を殺した、人を殺すことを選択し、殺す必然性の無い殺人を行ったアズラット。

 その後その死体全てを食らいそこに彼女たちの存在した痕跡を無くす。

 別にそれ自体はなにも悪いことではない。良いことでもない。

 ただ、アズラットにとっては色々とそこにある心情は複雑だ。そもそも殺しの時点できつい。

 とはいってもそれを選んだのはアズラット自身。

 それが慈悲である、と。偽善の心情を持って行ったもの。


『……全然大丈夫じゃなさそうですよ。大丈夫です、大丈夫ですから』

『…………大分心配かけているみたいで悪いな』

『いいえ。私はアズラットさんのためになら、どのようなことでも頑張るつもりです。今はこう言葉で意思を、心を伝えるくらいの事しかできませんが、それでもアズラットさんの助けになるのであれば、どのようなことでも私は構いません』


 アノーゼにとってこの程度のことは負担でもなんでもない事柄である。

 むしろアノーゼにとってはアズラットが傷つく方がよろしくない。

 自分の言葉が少しでも慰めになるのであればいくらでも言葉を紡ぐだろう。


(まあいつまでもこのことばっかり考えても仕方がないし……もうやっちゃったことはしかたがないわけで。とりあえず今はゴブリンたちをどうするかだな)


 この場所にいたゴブリンに囚われていた女性たち。それをアズラットは発見した。

 しかし、アズラットにとって行うべきこと、するべきことはここで発見された彼女たちをどうにかすることではない。

 もともとは別の目的このゴブリンたちの集落に訪れたのである。

 ゴブリンたちの集団のリーダーを担う存在。

 もしくはリーダーについて集団の頭脳となっている存在。

 それをどうにかして倒し、アズラットを優先的に狙うような行動を止めることが目的である。

 ここで女性たちを殺したのはあくまで彼女たちを偶然発見し、その様に憂う想いがあったからである。

 それを行って満足してはいけない。本来の目的を忘れてはいけない。


(…………ん?)


 そんな風に次はどうするか、そんなことをアズラットが考えていると振動感知に異変を感知する。

 異変と言っても洞窟が崩落したとかそういうことではなく、すこしなにやら騒いでいるような感じ。

 ただ、それは何か危険が起きたとかそういう物ではなく……どこか喜んだような感じに思える。


(なんだろう……外に、いや、でも危険か?)

『天井、屋根の上から様子を見守ればいいのではないでしょうか? そもそもここに入る前はそうするつもりだったでしょう?』

『む。確かにそんな感じか』


 アズラットは入って来た格子から外に出て、屋根の上に登る。

 その場所からならばゴブリンの集落はそれなりによく見える。

 もっともアズラットにとっての視界はその大部分が振動感知に由来している物であるのだが。


(……あれは)


 ゴブリンたちが騒いでいる理由はすぐにわかった。

 ゴブリンたちのものではない存在をすぐに発見できたからである。

 人間、それも恐らくは装備的に冒険者。

 まあ迷宮に入り込む人間は冒険者以外ほぼいないのでそれも当然なのだが。

 しかしそこにいる人間は防具こそ着ているものの、武器はない。

 そもそもその人間は拘束されている。

 女性のあまり年端もいかない子供。

 この世界でもまだ成人年齢には達していないような年齢の女性だ。


(っ!)


 先ほどの女性たち、ゴブリンたちの苗床とされていた女性たちをアズラットは思い出す。

 つい先ほど殺した彼女たちのように、今ここにつれてこられたその少女も同じような目に合うのか。

 アズラットとしてそれは認めがたい事柄だ。


『アズラットさん』

『……アノーゼ? いったいなんだ?』

『いえ……どうするつもり、ですか?』

『…………』


 アズラットとしては彼女を救いたい。助けたい。ただ、今のアズラットは魔物である。

 また周りの状況、今彼女たちを連れてきたことでゴブリンたちは一ヵ所にたくさん集まっている状態。

 全てのゴブリンとまではいかない物の、ほとんどのゴブリンがその場所を見ている。

 そんな中で彼女を救い出すために動けるか。

 アズラットであっても危険性は高い。


『アズラットさん、別に無理はしないでいいんです』

『アノーゼ?』


 平坦な声。感情のすべてを排除したような声。

 アノーゼはそんな声でアズラットに話しかける。

 いつものアノーゼはないその声に、アズラットは戸惑ったように応える。


『彼女は見捨てましょう』

『っ! それはっ!』

『彼女は迷宮に訪れた冒険者です。それを無理に助ける必要性はありません。彼女も含め冒険者という者は魔物に襲われて殺されることを覚悟しています。これは殺されることとは違うかもしれません。ですがその在り様は同じです。殺されるか、陵辱されるかの違いでしかありません。それにアズラットさんは彼女に関わりがあるわけではありません。彼女を助ける必要性がない。それなのに助ける意味がありません。助けた所で彼女が感謝をするとも限りません。それなのに、このゴブリンの群れの中、命を懸けてまで彼女助ける意味があるでしょうか?』

『…………』


 アノーゼは理性的に少女を助ける必要性がないことを説く。

 そのことの本質はアズラットを危険に晒したくないと言うことだろう。

 もし少女を助けに行く場合、現在のゴブリンの集団が見ている中をアズラットが向かわなければならない。

 その危険性はいかほどのものとなるだろうか。


『今のアズラットさんは魔物です。彼女を助ける理由も何もない。それに……アズラットさんがこの場所に来た目的はゴブリンの集団の頭脳となる存在をどうにかし、自分の安全を確保することです。無暗に自分の身を危険に晒すことは危険すぎます。どちらかと言えば彼女を利用するのもありだとは思いますよ?』

『利用?』

『あそこに彼女が連れてこられている理由はあの集団にとってのリーダーを務めているゴブリンが彼女に一番に手を出すためなのでしょう。まああくまでこれは推測の話ですけど。そういうことを行っている最中のゴブリンは誰がどう考えても隙だらけでしょう。そこを襲えば、不意打ちに対する対処手段があったとしてもかなり楽に襲い殺すことができると思います。他のゴブリンたちも情事の最中に乱入してきた侵入者に対する対処は難しいと思いますし』

『でもそれは』

『彼女が襲われ犠牲になる。ええ、そうでしょう。ですがそれはアズラットさんには関係ありません。うまくいけばゴブリンを殺した時に逃げられる可能性もある。そう考えれば彼女にとっては悪いことではないかもしれませんよ? もちろん純潔は失うことになるでしょう。しかしそれだけで済むのであればまだましと言えます。ここであったことは他にはわからないでしょうしね』


 アノーゼの言葉は容赦がない。

 アズラットのために、他のあらゆるすべてを犠牲にしても構わない、そんな内容でもある。

 実際アノーゼにとってはアズラット以外のすべてはその程度だ。


『……アノーゼは、俺のことをよく知ってるんだよな?』

『はい』

『なら、こういう時俺がどうするか、わかるんだよな?』

『はい』

『さっきの言葉、俺が受け入れてその通りに行動するって思ってるか?』

『いいえ思っていません』

『…………なら、俺がどうするか、わかってるってことだよな』

『はい。アズラットさんがどうするつもりなのか、心を見なくてもわかります』

『……色々言わせてしまって悪いな』

『いえ。私はアズラットさんのために行動するだけです。アズラットさんがそれを受け入れてくれないとしても』

『……ありがとう』

『いえ……がんばってください、アズラットさん』

『ああ。もちろん。死にたくはないしな』


 アズラットはそうアノーゼに告げ、少女を助けるために屋根の上から<跳躍>でゴブリンたちが集まっている場所へと向かった。






「本当に、あなたは変わりませんね」

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