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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
一章 スライムの迷宮生活
30/356

030 追われるスライム

(ああもう! なんでこう追われるかなっ! 俺が何したって言うんだよ……って、まあそんなこと言える立場でもないけどっ!)


 アズラットは<跳躍>を使いながらぴょんぴょんと飛び跳ねながら逃げている。

 いったい何から逃げているかと言うと、それはゴブリンの集団であった。

 別にアズラットが襲うのに失敗して見つかったというわけではない。

 いや、見つかったのは事実である。

 ただ、アズラットが普通にしている状態で見つかった。

 <隠蔽>を普段使いしていないせいもあって姿を晒していたのが原因の一つだろう。

 何もしていないアズラットにゴブリンたちが襲い掛かっている。


(最近ゴブリンたちに見つかると追われるなあ、まったく!)


 以前はそうでもなかった。ゴブリンにとってスライムは弱者であり虐めるような相手である。

 しかし、四階層では生存競争が顕著で迂闊に手を出すことはできない。

 大した相手ではないとスライムに手を出していればその間に別の魔物が寄ってくる。

 そしてスライムに気をとられている間に襲われることも珍しくない。

 ゆえにアズラットを含むスライムに対しゴブリンたちが手を出すことは少な目だった。

 だが少し前からアズラットの姿を見かけるとゴブリンたちが襲ってくるようになったのである。


(まあ追われるのも仕方ないか。ゴブリンたちをどれだけ殺したと……ゴブリンよりも他の魔物の方が数は多いはず。そっちの魔物が襲ってくる……のはいつものことか。今までゴブリンが襲ってこなかったけど、一定数以上を殺したら襲ってきた。許容上限があるとかか? いや、そもそもゴブリンたちの司令塔とか頭脳とかそんな感じのゴブリンがいるんだよな? そのゴブリンまでに今まで襲ってきたうちの逃がしたゴブリンが何に襲われたかの報告をした、それにより襲われるようになったとか? この階層のスライムはレッド、赤色のスライム。それに対して俺はドノーマルのスライム。青……かな? 正確には青とはいいがたいけど、水みたいな感じの普通のスライム、それを見つけたら襲うように言ったとか? ありえなくもない。自分たちを積極的に襲ってくる危険のあるスライムを危険視した。まあこの階層に他に俺みたいなスライムはいない、つまりは一体しか存在しないから排除さえすれば脅威は一つ減る。安全を確保する目的ならそういうことをしてもおかしな話ではないか)


 なぜアズラットがゴブリンたちに追われるようになったのかアズラットは考察する。

 それ自体が悪いわけではないが、アズラットは今ゴブリンに追われている状態であると言うことを忘れているのではないだろうか。

 逃げる事自体は全く問題なくできているが、それ以外の危険をまったく考慮していない。


(げっ!? 巨大熊!? 勝てなくはないけど、流石にこの状態は!)


 咄嗟に方向転換。ゴブリンたちに突っ込むわけではなく斜めへと抜けていく。

 巨大熊は正面にスライム、ゴブリンと見据えていたが、そのうちのスライムが横へ跳んで抜けていく。

 視界の中に残っているのはゴブリンたち。

 少なくともスライムよりは食いでのある存在である。

 巨大熊は吠えながらゴブリンたちへと向かっていく。

 巨大熊にゴブリンたちは勝ち筋が少ない。

 武器や防具があるとはいえただでさえ巨大な熊、まともに戦って勝てる相手とは思えない。

 仮に戦うことになるのならば、罠を使うなりうまく散会して戦うなり他のグループと一緒に戦うなりしなければいけない。

 それゆえにスライムを追っているところに急に巨大熊に出会うことになったゴブリンたちは急な戦闘に困惑する。

 そんな困惑も巨大熊には関係ない。巨大熊にとってゴブリンたちは獲物。

 むしろ困惑しているのならば狩りやすい。

 そうしてゴブリンたちは巨大熊の腹に収まることとなったのである。






(はあ…………びっくりした、疲れた。まあスライムの体に疲労はないみたいだけど……精神的な疲弊はな)


 スライムの体は肉体的な疲労がなく、人間など生物の持つ欲求も多くは存在しない。

 しかし、やはりそこに精神が存在する以上精神的な疲れと言うものは存在する。

 逃げ切れるし襲われても対処できる、いくらか対抗策はあるとはいってもやはり追われるのは精神的に疲れるものである。


(アノーゼ!)

『はい……大変だったみたいですね』

『あー、もしかして見てた?』

『私がアズさんの御姿を見逃すとでも?』

『ストーカーか何かかな?』

『それでも私は構いませんけど』

『やめてください』


 基本的にアノーゼは常にアズラットの様子を観察している。

 時々目を離しているときもあるが、基本的に意識は向けている。

 なのでおおよそ何かがあった場合何があったかはわかる。アズラットの様子に関しては。

 流石にアズラットの意識、思考に関しては完全に把握するのは出来ない。

 そこは観察できる領域の問題があるだろう。

 まあそのあたりはアノーゼも完全に何でもできると言うわけではないが、今回は様子を観察していたようだ。


『ゴブリンに追われてましたね』

『最近は見つかるとずっと追われるんだよ』

『……それはやはり敵視されていると言うことでしょうね』

『あー、やっぱりそうか』


 アノーゼも確証があるというわけではないが、恐らくはそうだろうと言う答えをだす。

 アズラットもアノーゼの推測に関しては自分も思いついていたものなのでやっぱりそういうことだろうか、とうなずく。


『それで、わざわざ私を呼んだ理由は何でしょうか?』

『んー……ゴブリンたちの頭脳役の居場所ってどこかわかるか?』

『わかります。ですが……………………それは教えたくありません』

『…………そう』

『ごめんなさい。これに関しては、アズさんが自分で見つけるべきものです』


 アノーゼは教えられない、ではなく教えたくない、と言った。

 つまりはアノーゼは居場所を知っている。

 しかしアノーゼは何らかの理由がありアズラットに対してその居場所を教えたくない、ということだ。

 アズラット至上主義みたいなアノーゼにしてはその判断をするのは珍しいと感じられる。


『なら仕方ないか』

『ごめんなさい……でも、ヒントくらいなら私でも出していいと思います』

『どんなヒント?』

『そうですね……ゴブリンたちは集団です。現在のようなグループではなく、それこそ村や町を作れるような大集団。そうでなければ今の状況を維持できませんから。それほどの数を、この階層のどこでも見ていない。それは妙だと思いませんか? それくらいが私から言える事……です』


 ゴブリンの集団。

 そもそもアズラットが逃がしたゴブリンたちは一体どこへと行ったのか?

 誰へと会いに行ったのか?

 その相手がどこにいるのかわからなければ報告することも大変だろう。

 そもそもゴブリンの集団は一体どこでグループを作るに至っているのか。

 そんなたくさんのゴブリンたちをアズラットは見た覚えがない。

 アノーゼの言う通り、確かに状況的に大集団であってもおかしくはないはず。

 ではそれをなぜアズラットは見た覚えがないのか。


『……ありがとう、アノーゼ』

『どういたしまして』


 アズラットは考え始める。いったいゴブリンたちがどこにいるのかを。


(……探索が完全とは言えない。まだ五階層への道を見つけてはいない。しかし、そもそもそういった場所にゴブリンたちがいるはずがない。何故なら他の魔物も通る場所にいれば魔物の餌になるから。ならどこにいるかと言えば、巣みたい場所のはず。四階層の上層にあった、俺が休むのに使っていた場所みたいな出っ張った場所みたいな感じの、どこか本拠地にできるような場所が。そしてたくさんのゴブリンがいるのならば安全で見つからないような場所であってもおかしくはない。少なくとも鼠の集団が入らないような場所であるべきか。他の魔物、虎や熊、河馬も入れないような場所が望ましい。ってことは入り口は狭いか閉じられるような感じになるのか?)


 アズラットはゴブリンたちの本拠地の場所を推測する。

 ただ、アズラットも頭が悪いわけではないが良いわけでもない。

 推測するだけでその場所を特定することは難しい。


(……一度ゴブリンたちを襲って逃がす。それで逃げるゴブリンを追えばいいのか。途中で他の魔物に襲われる可能性はあるが、数だけはいるみたいだし試行回数を増やせば何とかなりそうだな)


 そう結論を出し、アズラットは行動を開始する。

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