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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
一章 スライムの迷宮生活
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031 洞窟の中の小穴

 ゴブリンを攻撃して逃げたゴブリンを追う。

 そうすることを決めたアズラット。

 しかしそういう時に限ってその目的の者に出くわさないということはよくあること。

 アズラットは幾らか見て回るがゴブリンを見かけなかった。


(くそー。見かけないな……一度三階層に戻ってみるか? 別に階層を戻れないっていうことはないだろうし)


 ゴブリンたちがいるのはこの四階層だけではない。

 餌となる物を求めて三階層へと流出している。

 なので三階層へ行けば確かにゴブリンたちには遭いやすいはずである。

 しかし、それは意味がない。

 三階層にいるゴブリンが襲われ四階層に戻るか、戻るにしてもどれだけの道のりを進むか。

 それを考えると三階層に戻るだけの意味もないだろう。


(んー。そもそもゴブリンたちは三階層に出張ってる。ってことは三階層に近い場所にあいつらのいる場所があるってことか? いや、そうとも限らない? どうなんだろうな……)


 アズラットは色々と考える。

 一体どこへ行けばいいのか。

 どこにゴブリンたちが潜んでいるのか。


(そうだな。四階層の奥、三階層から最も遠い場所にそのゴブリンたちの住んでいる場所への入り口があるのなら、いくらある程度何とかなると言っても三階層へと移動するはずはない。奥になるが五階層へ進むか、四階層で我慢するか。そもそも三階層へは……なんで出張ってる? 可能性として最も高いのは餌を求めて。四階層は餌であるだろう大蝙蝠や大鼠にすら逆に襲われ貪られる危険があるくらいだ。だからそれよりも安全な三階層で餌を探し食らう……まあ、魔狼の方が安全だからこれはありえそうな結論だ。っていうことは四階層に住んでいるにしても三階層に近い方面にある、というのは間違いではないかも? いったん境界方面まで行ってみるか。っていうか四階層結構広いな……)


 四階層の構造は洞窟のような構造。

 一本道というわけでもなく、幾らか道は分かれている。

 そんな感じの構造だが広さは結構なものである。

 これまでの階層と広さという点に関しては大きく違う。

 それに関してはこれまでが遺跡のような構造で圧迫される感じだったのに対し、洞窟の自然に近い構造がゆとりをとっているからだろう。

 そのせいでアズラットは広い、と勘違いしている所がある。

 いや、実際にこれまでの階層よりも一階層が大きくはあるのだが。


(おお? これって…………五階層との境? ちょっと覗いてみよう…………うわ)


 どうやらアズラットは目的である三階層と四階層の境目ではなく四階層と五階層の境目の方にたどり着いてしまったようだ。

 本来の目的地とは逆方面であるが、しかしここまで来てしまえばそちらを見てみたくなってしまう。

 ということでアズラットは五階層を覗いてみた。そして五階層を覗いた結果絶句する。


(迷宮に崖……断崖絶壁? それに橋までかかってるし。っていうか、これってそのまま通ろうとしたら目立つよな……明らかに)


 五階層を覗いた先に見えたのは断崖絶壁である。

 そして橋という人工物も架かっていた。

 そこにスライムが隠れることのできるような壁の穴みたいなものはない。

 あるとすれば橋の手前の場所にあるかもしれないくらいだろう。


(……五階層から先に進むのは今は置いておこう。どちらにしても別の目的があるんだし)


 ひとまずアズラットは五階層へと進むことは諦める。

 見つかりやすい場所であるゆえにすぐに進むのは危険と考えたからだ。

 仮に進むのであれば何かもっと隠れるためのスキルを得てから、もしくは何かの隠れられる手段を得てからだと考えている。

 そもそも、現在のアズラットの目的は別物だ。


(……このまま五階層へと進むのもありか?)


 仮に今ゴブリンたちが自分を襲ってくる状況であるとしても、五階層へと進めば問題はない。

 ゴブリンたちは四階層から三階層へと向かってはいるが四階層から五階層へと向かってはいない。

 それゆえに五階層に進めば確かにアズラットは安全になるだろう。

 だが、アズラットはそうするつもりがない。そうする気になれない。


(なんだろうな。このまま先に進んだらダメな気がする)


 アズラット自身でもよくわからない何か、それがこのまま五階層へと進むのはダメだと感じている。

 この階層でゴブリンたちの住んでいる場所、ゴブリンたちの頭脳である存在を倒さなければならない。

 まるで相手が不倶戴天の敵であるかのように、アズラットはその相手をどうにかしなければならないと感じている。


(とりあえずここのことは覚えておいて、戻ろう。少なくともこっちにはゴブリンたちはいないよな。マップ……あちこち行っているからちょっとわかんなくなってるか? えっと、とりあえず来た方向を戻るのがいいか)


 先へと進むことはせず、アズラットは来た道を逆走してゴブリンたちを探すこととした。






(見つけた! やっとゴブリンたち見つけたわっ! こんちくしょうめっ!)


 五階層への境目方面から戻り、逆に道を辿ってようやくアズラットはゴブリンの集団を見つける。


(……さて、どう襲う? どれを襲う? 武器を持っている相手でも階級、等級の違いはあるか? あまり詳しくは今まで考えてなかった。危ないだろう相手を優先して狙ってたからな。できるだけなら確実に報告に向かう可能性のある相手を狙うべきか? 少しはまともな思考ができるのなら、仲間を全部失えば逃げる可能性もある……となると、あの装備のいいゴブリンだけを残しておくべきか。多分あの集団でのまとめ役のはず)


 ゴブリンの集団においてもそれぞれのゴブリンたちに若干違いがある。

 一体が他のゴブリンから一歩引いて周りを見ていたり、先頭に立っていたり。

 明確に指示を出したりはしないものの、襲った場合一番に叫んでゴブリンたちに通じる何かの言葉を言っている感じであったり。

 武器や防具にも明確に違いがある。

 基本的に一歩引いて周りを見ていたりするゴブリンは武器や防具が少しいい傾向がある。

 ゴブリンたちには武器や防具が支給されている、もしくは冒険者から奪った武器を集めまとめ再分配している可能性がある。

 そうであるのならばいい武器や防具は評価のいいゴブリン、もしくはまとめ役のできる他より頭のいいゴブリンが持ている可能性がある。

 あくまでそれらは可能性だ。

 どちらにせよ、ゴブリンを一体だけ残せば逃げる可能性は低くない。

 いくらスライムとはいえ、他のゴブリンたちを飲み込むようなスライムを相手に一体で敵うはずがないのだから。


(よし、方針決定。行くぞっ!)


 アズラットが洞窟を登り、上から<跳躍>でゴブリンたちに跳びかかる。

 当然その最中に<圧縮>を解除する。

 ゴブリンたちはその急襲にすぐには気付かず、気づいた時には既にアズラットから逃げるすべはなかった。

 上から降ってくる広く巨大なスライム、大量の餌を吸収し巨大になったアズラットはかなり大きい。

 かつて小さく穴に隠れ潜んでいたスライムはビッグスライムへとなる過程で大きくなり、さらに次への進化の過程で巨大になった。

 そのスライムの体が一気に四体のゴブリンの体を飲みこむ。

 アズラットが上手く狙いをつけた結果である。

 残った一体のゴブリンは気がつけば自分一人だけが残っている状態であった。

 そして一度スライムにその武器を向ける……しかし、すぐにゴブリンは逃げ出した。


(よし、それでいい)


 食事もそこそこ、一気にアズラットは圧縮で自分の体を小さくする。

 スキルがあるとはいえあの大きな体では追いかけにくい。

 本来なら一度食らった生物を余さず残さず食べたいのであるが、今回は目的が別だ。

 どちらにせよお残しは他の魔物なり別のスライムなりが食する。

 この迷宮で死した命はまったくと言っていいほど無駄にならない。

 そんなことを考えながら、アズラットは逃げたゴブリンを追う。


(っ! あそこか…………)


 ゴブリンが逃げ込んだ場所。

 それは洞窟の中で少し高台にある場所、そこに存在する小さい穴だった。

 大鼠たちはその高台に昇るのが難しく、大蝙蝠も群れでの侵入は厳しい。

 強者の動物たちでは大きすぎて入らない。

 ゾンビはそこまで到達する知能を持たず、大蜥蜴は入れそうだがもともとあまり動かない。

 四階層の魔物ではあまり入れそうにない、小さな穴。入り口であるようだ。

 その小穴にアズラットは入り込む。ゴブリンたちの住む場所に進むために。

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