022 三階層への到達
『三階層へですか?』
『そうそう』
アズラットはアノーゼに二階層から三階層へと移るのはどうかという相談をする。
既にアズラットの戦闘能力であれば二階層はどうとでもなってしまう。
じっくりと食事を行い経験値を貯めるのもいいが、それが三階層でできるのであればそちらの方が効率がいい。
アズラットのようなスライム種は食事により経験値を貯めるため、強い魔物の方が経験値の貯まりがいい。
ならば下の階層へ行く方が経験値の貯まりがいいと言うことである。
しかし、迷宮の階層とは厄介なもので、一階層違えば強さが少し上がる、というわけではない。
場合によっては急激に強さが変わる、環境が変わる、魔物の種類や性質が変わると言うこともある。
そこまで考えたわけではないが、アズラットも下の階層へ行く場合の危険は考慮している。
二階層へ迂闊にも訪れ結果死にかけたからこそ、余計にそういう危険を考慮するわけだ。
『そうですね、今のアズさんの進化状況であれば三階層は問題ありません。流石に四階層は危険が大きいのですが……三階層なら、きちんと気を付けて探索するのであれば恐らくは問題ないでしょう』
『そっか、なら行ってみるか』
『あ! でも、ちゃんと油断はしないように、安全を確保して危なそうならすぐに逃げるように注意して探索してくださいね! いくら危険が少ないと言っても、全くないわけではありません! 何がどのように死の危機になるのかわからないんですからね! 今のアズさんは自分が強くなったと言う確証があるのかもしれませんが、それはあくまで弱い魔物相手に程度の物です! アズさん以上に強い魔物はいくらでもいるんですから、三階層行っても全然余裕だ、大丈夫だなんて思わないように! わかりましたか!』
『わ、わかったから! そこまで言わなくてもわかってるから!』
以前二階層へアノーゼの忠告を無視して移動したときから、アズラットの階層移動に関してアノーゼはかなり厳しくなっている。
もちろんアズラットの行動を制限すると言うわけではないのだが、油断や死の危険、余裕を持つことに関してはかなり厳しく言う。
実際に強くなったと言う自信、楽に攻略できると言う余裕、問題ないだろうと言う油断は慢心と言う名の大敵である。
慢心した結果、自分では敵わない可能性のある魔物に挑み殺されたりするかもしれない。
人間の接近を探知し忘れ、人間にあっさりと殺され終わってしまうかもしれない。
いつの間にか周りを無数の魔物に囲まれまともに抵抗できずに嬲り殺されるかもしれない。
確かにアズラットは強くなったが、それでも最強で無敵であるわけではない。
スライム種は魔物の種としては最弱に近いのである。
ゆえに常に油断はせず、臆病に行動するべきである。
『ならいいんです…………まあ、三階層なら問題ありません。経験してみればわかるでしょう』
アノーゼは最後にそう言って、<アナウンス>を切る。
(……ふう。アノーゼはこういう時、本当に厳しいな。まあ自業自得なんだけど)
アノーゼの長い説教のような忠告に関して、アズラットも気苦労している。
しかしアズラットが心配させたことが原因なので仕方がない。
(さて、アノーゼに聞いて問題なかったし、三階層に行くか。これまでの探索ですでに道はわかっているし、問題ないな)
ゴブリンの誘因など、魔物を探しそれと戦う最中、迷宮の探索を進め既に三階層までの道は把握済みである。
なので行くことさえ決まればすぐに三階層へと行くことができるのである。
(よし、行くぞ)
アズラットは三階層へと向かった。
迷宮三階層。一階層と二階層は明確に境目が分かったが、三階層と二階層も境目はよくわかる。
これまで通って来た道のり、それを地図化してみるとまるで回転するかのように迷宮の構造が連なっている。
(……よく迷宮、ダンジョンとかだとある階段がないな)
今まで迷宮の階層は境目を基準とする階層となっていた。
これは二階層と三階層もまた同一である。
しかし、階層と言うのに上下に移動する構造になっていないことにはアズラットは疑問だった。
(どういうことなんだろう?)
『僅かに傾斜があるんです。螺旋構造で螺旋階段のように徐々に下に向かっているんですよ』
『……へえ』
アズラットの疑問に簡単にアノーゼが応える。どうやらくるりと回りながら降りていくようだ。
迷宮の構造自体が僅かに、本当にわずかに傾斜しており、かなり先へ進むことで下に降りた状態になる、ということのようだ。
とはいえ、本当にそういった構造になっているのならば、三階層と続いても階段で一階層降りるくらいのものにしかならないだろう。
そのあたりはどうなのかと言うのも疑問だが、アズラットの疑問にアノーゼは応えず<アナウンス>は切れている。
(意外と気まぐれだな)
アズラットのためならば幾らでも行動するアノーゼだが、時々こういうこともある。
別にアズラットの疑問に答えないと言うわけではなく、単にアノーゼも知らないか、言えないかの場合もあるだろう。
(ゆっくりと下に降りていく形か……全部こんな構造なのかね?)
三階層へと入りつつ、アズラットはそう考える。
迷宮が螺旋階段のようにゆっくり降りていく構造だと大変だなと思っている。
(さて……とりあえず、スライムの様子を見ますかね。また二階層に来た時のようになるのは不安だし)
二階層に来た時のイエロースライムの群れに襲われた事実は今もアズラットにとっては半ばトラウマである。
ゆえに、最優先でスライム種がどうなのか、というのを確かめる。
一番近いスライム穴に入り、そこにこの階層のスライムがいるかどうかを調べる。
(紫色……階層で色違いで配置されてるのかな)
運よく穴の中に紫色のスライムがいる。
そのスライムは穴の中に入って来たアズラットを感知したのか、奥へと逃げる。
階層は違えど、色がついていようとも進化していない初期のスライムである。
その強さは進化したスライムよりも弱い。
そもそも上位スライムを回避しようとするのは本能的な物である。
実際の強さがそこまで重要というわけでもない。
まあ、実際の強さも上位のスライムの方が強いので実は自分の方が強いが避けている、ということは起こりえないのだが。
(よし、スライム相手は問題なし。えっと、パープルスライムかな? 三階層は紫のスライムと、他に何がいるかな)
スライム相手にはどうとでもなるにしても、他の魔物は別だ。
そもそもスライムはその階層の魔物で最弱の魔物ということである。
ゆえにスライムに怯えられるような立場と言えどもアズラットの方が強いとは限らない。
だからその階層の魔物を探し、強さを確認する、対策を取るなどをする必要性がある。
倒す必然性はないが、食事の関係上倒せるほうがいい。
(外へっと)
スライム穴から外へ出て、迷宮の構造を振動感知で把握しながら、同時に魔物の存在も感知しながら進む。
そうして進んでいると魔物の反応があった。
ただ、アズラットは進むことを少し躊躇う。
(……複数いるな)
二階層でもゴブリンが群れるということはありえたが、かなり珍しいケースである。
しかし、この三階層ではいきなり群れている魔物に遭遇した。その数は五体。
(っ! 動いた!?)
その魔物たちは突然動き出す。
それもアズラットへ向けて。
そして、アズラットからは直接見えない位置にいた魔物が姿を現す。
(狼? まあ、それなら群れも、って速い!)
出てきたのは狼の魔物。魔狼。それもアズラットの感知した五体全部。
その魔物たちが、アズラットへ向けて駆けだしてきた。この状況で咄嗟の逃亡はできなかった。
スライム穴に隠れればまだ対処は出来たかもしれないが、あまりにも唐突でその行動に移ることができなかったのである。
(やるしかないか!?)
アズラットは襲ってきた魔狼たちを相手取るしかない状況へと陥った。




