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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
一章 スライムの迷宮生活
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021 スライムの戦闘能力

「ギヒャーッ!」


 一体のゴブリンが迷宮の中を駆ける。

 ゴブリンは小型ゆえに、その一歩はあまり大きくない。

 それでも駆ける速度は人間程にある。

 レベルの高いゴブリンならば大人の人間ほどの速度は出せるだろう。

 ゴブリンは小柄な人の形を持つ。

 醜悪な顔、尖った耳に細長い顔か丸顔で、口には大きな牙が見える。

 ごつごつした手に腕、少し長く鋭い爪を持つ。

 基本的に知性も知能も低く服を着てはいるが下半身を隠す程度である。

 しかし、社会性を持つことがあり、進化したゴブリンや時々生まれる知能の高いゴブリンがいれば大集団になることもある。

 もっとも、迷宮内ではなかなかそう言ったことは見られず、多くの場合ただ見かけた生き物を襲う程度のものだ。

 それでも多少はグループを作ることもある。

 もっとも冒険者であれば、そこまで厄介なことにはならない。


「ギッ! ギッ! ギギーッ!」


 そんなゴブリンが迷宮の中を駆けているのは自分よりも弱い魔物を見つけたからだ。

 ゴブリンは基本的に他の魔物と比べ弱い。

 同じ階層にいる他の魔物よりも比較的弱めに見える。

 そもそも、素手で戦う時点でそこまで強いものでもない。

 それは同じ階層にいるスケルトンもそうだが。

 ゆえにゴブリンの餌はこの階では同じゴブリンか、イエロースライムであることが殆どである。

 スケルトンは食べられず、大蜥蜴はその攻撃力と防御力、俊敏さで逆に齧られ食われ殺される。

 集団ならば別だがゴブリンは生まれた時は一匹で生まれ他の仲間を見つけるまでは一匹で過ごす。

 それに、この階層では餌の種類の問題もあってゴブリン同士で喰い合うこともあるので仲間は難しかったりする。

 ゆえに一匹でどうにかできるのはスライム種だ。

 しかも、いまゴブリンが追っているのはイエロースライムよりも弱い。

 ただのスライムがどこから入り込んだかは知らないが、ゴブリンにとっては自分より弱い魔物だとわかっている。

 だからその魔物を追い、追い詰め、潰して殺す。殺して喰らう。

 それが弱者であるゴブリンの数少ない楽しみの一つだ。


「ギヒャッ!」


 スライムが逃げ、逃げ、そして壁に追い詰められる。迷宮内部には行き止まりの地点が存在する。

 ラビリンスと呼ばれる構造は迷路の様になっており、その中には無意味なルートもある。

 そこにスライムが追い込まれた。

 もう逃げられない。もうスライムは潰されるだけだ。

 それゆえにゴブリンは笑った。嗤った。

 だが、ゴブリンは気付くべきだっただろう。

 ゴブリンが駆けなければならないほどスライムは速くない。

 なぜスライムがそんな速度で移動できたのかと言うと、そのスライムはぴょんぴょん飛び跳ねて移動していたからだ。

 そんなスライムは本来存在しえない。

 通常のスライムがそんな能力を持つことはない。

 それに、何故普通に逃げるのか。

 スライムにはスライム穴と呼ばれるスライムの隠れられる場所がある。

 その場所に逃げ込まず、何故ただひたすらに道を走って逃げるのか?

 ゴブリンはそれに気が付かない。気が付くほどの知性や知能がゴブリンにはない。


(<跳躍>)


 スライムがぴょんっと跳び上がり壁にくっつく。


(<跳躍>)

「ギビャッ!? ギ…………」


 そしてその壁をさらに蹴って、スライムはゴブリンの頭に取り付いた。

 ゴブリンの頭が低い位置にあると言うのもよかっただろう。

 人間であれば頭部はもう少し上にある。

 ゴブリンには取り付くことでは成功したが同じ階層のスケルトンには同じ手は通用しない。

 まあ、スライムが相手取っているのはゴブリンなのでその高さでよかったのだろう。

 もしかしたらそのスライムはもっと高く跳ぶことのできる可能性もある。

 そこはわからないにしても、スライムは跳び上がり壁をさらに蹴って跳び、ゴブリンの頭に取り付いた。

 そしてゴブリンは訳も分からずスライムに取り付かれたままだ。

 剥がそうにも、スライムは液状で掴めない。

 核に手を伸ばそうにも、スライムの体が意外にぶよんとして、その上で固く、核まで手を伸ばせない。

 それ以前に顔にスライムが張り付き、目もうまく見えずスライムの消化能力で焼かれ、口と鼻が塞がれている。

 まともに呼吸できず、焦り、混乱し、そんな状態でうまくスライムを剥がせるか。

 呼吸が徐々に困難になり、力もうまく出せなくなり、そのままゴブリンは息ができなくなって意識を失う。

 そして意識を失ったゴブリンをスライムは体を大きく広げ、頭を取り込む。


(<圧縮>)


 頭を取り込んだスライムは一気にその体を収縮し、取り込んでいる頭部は一気にぐしゃりと潰された。

 痛みもなく、苦しみもなく、一瞬でゴブリンは死に至った。

 その結果はまだマシな方だろう。じわじわ溶かされるよりは。

 そうして死んだゴブリンをスライムは全身で飲み込み消化していく。

 迷宮の行き止まりの奥地だが、スライム穴はあるのでいざと言う時は逃げられるのでスライムには安全だ。


(……ふう。結構面倒だけど、できなくはないか)


 跳躍の能力と圧縮の能力を備えるスライム。その正体は当然ながらアズラットである。

 なぜゴブリンに追われていたかと言うと、ゴブリン相手に戦う手段を色々と試すためである。

 スキルを得た後、迷宮の構造を把握し色々と探索しマップや周辺状況を把握しアズラットは安全に戦闘できる手段を模索した。

 戦闘すること自体は安全ではないが、できる限り安全な相手、安全な場所を探り戦闘の訓練をするためである。

 まず人間、冒険者相手はあり得ない。

 いつ死ぬかわからない戦いになるし、まずほぼ勝ち目が薄い相手である。

 イエロースライムはそもそも逃げられるので戦いにならない。

 大蜥蜴は戦えるにしても対人の訓練にはならない。

 そういう点ではスケルトンが一番対人相手では合致するが、スケルトンはスライム相手にはあまり反応しない。

 スケルトンは生物ではないゆえに、視界や聴覚、嗅覚で物を見ているわけではない。

 流石に触れれば反応するし、スライムでも過剰に動けば反応するが、スケルトンの動きはかなり機械的だ。

 そういう点では生物的でありながら生物に含まれないスライムはスケルトンにそこそこ近しいものがあると言える。

 ともかく、そういうこともあって一番生物的であり、戦闘する可能性の高いゴブリンがいい相手であると判断されたのである。

 実際ゴブリンは殆どの場合スライムを見れば必ず追いかけて殺そうとしてきた。

 そこを返り討ちにするのが楽だった。

 とはいえ、ゴブリン相手にどの程度対人経験を積めるのかは謎である。

 これに関してはアズラットもそこまで意味があるとは思っていない。

 一応簡素的ではあるが対人経験を積めると言うことが重要なのである。

 また、スキルの使い方の鍛錬にもなる。


(……イエロースライム、スケルトン、ゴブリン、大蜥蜴。おおよそこの階層の魔物は見たな。襲って食べやすいのはゴブリン。向こうが勝手に追ってくる。スキルの鍛錬にもなるし、一応対人戦の練習にもなる……が、もう少しなんとかしたいな。三階層に行くべきか?)


 二階層ではもうアズラットは余裕で生活できる。

 流石に人間相手からは逃げるものの、魔物相手には苦戦はしなくなっている。

 つまり既にアズラットは二階層では満足できない状態になっている。

 食事に関しても以前ほどの充実はない。


(味はないんだけどな……満たされない、腹八分目に届いていないって感じか。量の問題……ではないよな)


 アズラットとしては、現在の食事では物足りない感じだ。

 これは経験値の入手量が今のアズラットには少ない、と言う意味合いである。

 スライムの経験値の確保手段は食事をすることだ。

 それゆえに食べることで得られる経験値の量が食事の感覚になる。

 そして今のレベルに対し得られる経験値が少なければ、それはそこが今のレベルの適性ではないと言うことである。

 もちろん食べ続ければ経験値は得られるわけでレベルも上がるのだが、本人の満足とはまた別である。

 もっとも、今のアズラットは無理に食事をする必要はないし、そもそもスライムはよほどのことがない限り飢え死にはしない。

 なのでこれに関してはアズラットの満足の問題だ。


(……勝手に決めてもいいだろうけど、アノーゼと相談して行こうかな)


 流石に今回の移動に関してアノーゼが怒るとは思わなかったものの、相談していくのが色々な意味で安全である。

 そう考え、三階層に行くかどうかアズラットはアノーゼに相談することに決めた。

 尻に敷かれている。

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