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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
一章 スライムの迷宮生活
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014 初進化

(もそもそと魔物を食べる生活に逆戻りか。まあ、俺が原因だから仕方ないんだけど……)


 現在アズラットは一階層にて普通のスライムと同じように魔物の死体やそのあたりにいる虫を食べる生活に戻っている。

 散々アノーゼに叱られ、泣かれ、怒られ、悲しまれ、あれほどまでに大きな激情を怒涛のようにぶつけられればそうもなる。

 また、アズラットが二階層に進み死にかけたことも大きいだろう。

 このまま進めば死ぬ。それが分かっているのに無謀な進行をするほどアズラットは愚かではない。

 もっとも、それ以上に現実的な状況がアズラットには存在していた。


(減った分は取り戻さないとな)


 アズラットは二階層で自分の体をイエロースライムたちに食べられている。

 別に食べられることそのものが問題と言うわけではない。体の喪失が根本的な問題である。

 スライムの体は今まで食べてきたもので蓄積されている。つまり大きいスライムは食事量が多い。

 そしてスライムの体の大きさが食事量であると言うのなら、レベルもまた食事に影響する。

 スライムのレベルは食事した量に比例する、つまりは食事がイコール経験値稼ぎなのである。

 もっとも、レベルとスライムの大きさは因果関係があると言っても減少はその限りではない。

 スライムの体が何らかの事情で喪失し小さくなろうともレベルが下がるわけではない。

 レベルはもっとシステム的に根本的な部分に存在するものであるため関連性はあっても影響はないのである。

 ただしそれはあくまでも下がらないと言うだけだ。スライムのレベルの上昇には影響する。

 具体的に言えばスライムの体の大きさがレベルに相当する分量に達するまでは経験値上昇が微量である。

 スライムの進化は養殖型でない場合は基本的には珍しい。

 迷宮内でのスライムの進化はほとんど見られない。

 それはそういった経験値に関する内容が存在するからである。

 そのためゴミ処理などで放ったスライムが大量の食事を糧に急速にレベルを上げ進化することになるのである。

 ゴミ処理時はそのスライムを襲う天敵が基本的には存在しないのだから。

 他のスライムとの競争にはなるが。


(早く……二階層に行きたいなあ。まあ、アノーゼを心配させるわけにもいかないし、ゆっくりしますか)


 アズラットも早く次の階層へと行きたい欲求がある。

 いつまでも一階層というのも退屈だからだ。

 しかし、あれだけ色々と二階層に行って大変な事態になったのだから進化しないで行くわけにもいかない。


(進化……まだかなー)


 一階層で、アズラットはゆっくりと、進化のために食事をしながら肥え太る。

 ゆっくり、ゆっくり、ゆっくり……






『アズさん、アズさん!』

(ん?)『アノーゼ、いきなりどうした?』


 ゆっくりと進化のために食事をする毎日を送っていたら、アノーゼからのアナウンスが来る。

 別にアノーゼからのアナウンスはそれなりにあることなので珍しくもないが、今回はアノーゼの雰囲気が違う。

 どこか嬉しそうにな感情をアズラットを呼ぶ声に含ませながらのアナウンスだ。

 そのせいもあり、アズラットは一体何があったかと少し気になったところである。

 もっとも、それはアズラットにも関係のあることだ。

 そもそもアノーゼが喜ぶようなことはアズラットに関連することしかない。


『少し前にレベルが十になりました!』

『え? そうなの? ステータス見てないからわかんなかったわ』

『実はですね……アズラットさんに関係すること、スキルやレベルに関しては私にそれなりの権限が委ねられているんです。まあ、寵愛を与えていると言うのもありますし、以前のアズラットさんの関係のごにょごにょもありますが……』

『そのごにょごにょってなんだよ、わざわざごにょごにょって言わずはっきり言えばいいのに』

『羞恥プレイですかっ!?』

『なんでだよっ!? っていうか他に誰かいるわけでもないだろ!?』


 アズラット相手でも果たして羞恥プレイか。

 まあ、アノーゼが恥ずかしいと感じるのなら羞恥プレイかもしれない。

 しかし、そもそも恥ずかしいことなのならばわざわざ言わなければいいのだ。

 必要性がないのだから。

 まあ、それはさておきアノーゼが続きの内容を話し始める。


『まあ、つまりは私がアズラットさんに色々とアナウンスをして教えるわけです。スキルの<アナウンス>ではなく、システム的なあれやこれやですね。ほら、スキルを覚える際にアズラットさんに届く神様の電波的なあれです』

『はあ』

『こほん……では送りますね』


<アズラットはビッグスライムに進化できます。進化しますか?>


『んー? んー……進化!?』

『はい、進化です。スライム種はレベルが十ごとに進化します! これ、レベルが一から始まるので十一から進化にするかという話し合いにもなったんですが、まあ区切りがいい方がわかりやすいしということで十から進化なんですよ』

『いや、いろいろなんか裏事情とか重要なこととか言っているけど、え? 進化できるの!?』

『はい! 進化できます!』


 ついに来たアズラットの進化。どうやらその条件が満たされたようである。

 スライムがビッグスライムに進化できるのはレベルが十になることだ。

 実はスライムの種類によっては派生進化の類もあったりするし、状況や環境などでも変化することはある。

 だがアズラットが進化できるのは通常のスライムの進化であるビッグスライムのみだ。

 もっともアズラットの場合、どれだけ頑張っても通常進化の進化系統を進むしかない。

 この辺りはアズラットが転生したという特殊性を有する故の弊害、またはそこに意思が存在することの弊害かもしれない。

 とは言っても、進化自体はとても大きな事柄である。なぜなら強さが跳ね上がる。

 以前アノーゼが言っていたが、スライムが一の強さだとするならばビッグスライムはその十倍の強さがあると言っていい。

 進化しないと言うことを選ぶのは自ら茨の道を進む縛りプレイのようなものである。


『……な、なんか怖いな。進化ってほら、やったことないから』

『誰だって初めてというものはあるんです。大丈夫です、危険なことはありません。何かあっても私が全力でサポートします。あなたを寵愛する私を信じてください。信じなさい……信じなさい……』

『むしろ最後ので信用を無くすような気がするけど? まあ、アノーゼを信頼していないわけじゃないからいいんだけどな……』


 信じろ、と言われてもやっぱり怖いものは怖い。

 だが、アノーゼの言う通り初めてというのは何事にもある。

 アズラットは迷宮に、スライム穴の外に出た時のことを思い出す。

 わからないままスライム穴の外に出た時のことを。

 今はあの時よりも遥かに何もかも分かっている状態で、自分を見守る神様らしい存在もいる。

 そんな状態でわからないから過度に怯えてこの先必要なことをやらない、というわけにもいかない。


『じゃあ、進化するけど……どうやればいいんだ?』

『スキルと同じで、進化する、と思ってくれればあとはこちらでします。大丈夫です、痛くはないですよ? あ、でも、進化は基本的にいくらか無防備な時間ができるのでスライム穴で行ってください。あと<圧縮>を解かないように。ビッグスライムは名前の通りビッグなので、そのままスライム穴の外に体が出ることになりますからね?』

『わかった。じゃあ……』


 進化したい、とアズラットが思う。願う。

 それにアノーゼが応え、アズラットにアナウンスが来る。


<ビッグスライムに進化します>


 そのアナウンスを最後に、アズラットの意識は眠るように喪失する。


(眠気……? 久し…………ぶり………………だ)


 スライムに睡眠は必要ない。肉体的な疲れもスライムには存在しない。

 なのでスライムは二十四時間一日中活動できる。

 そんなスライムが、初めて眠気を覚えた。

 アズラットにとっては本当に久しぶりの代物。

 それを感じながら、アズラットの意識は暗闇へと落ちていった。

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