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元将軍のアンデッドナイト  作者: 猫子
第一章 蘇った英雄
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第四十四話 オーボック伯爵⑬

 オーボック伯爵邸襲撃事件の後、オーボック伯爵の罪を訴えるため、ジェルマンは王都へと向かった。

 都市アインザスの領主、オーボック伯爵の悪事は、国中へと知れ渡ることとなった。

 オーボック伯爵は生きたまま捕らえられたが、後に王都にて、死刑が執行された。


 王国法違反の繰り返しや虐殺も重罪であったが、何よりも、反国家組織『笛吹き悪魔』への肩入れが重大視されたためである。

 王国の要人である立場のオーボック伯爵が反国家組織に出資していたという事実の衝撃は大きかった。


 王国の『笛吹き悪魔』への警戒心も高まったが、『笛吹き悪魔』は規模が大きく、中には箔をつけるために自称しているだけの者もいる。

 また組織内において高い地位にいるはずの者も、自分の管理している範囲のことしか知らされていないこともあり、実態はまったく掴めていなかった。

 調査や対策を進めたところで、規模も、目的も、完全に不透明なことに変わりはない。

 唯一わかったことといえば、今までの『ただ国から禁止されている魔術の開発を行っている集団』というわけではなさそうだということ、それだけである。


 オーボック伯爵の死刑、伯爵の取り潰しに伴い、オーボック伯爵との繋がりが強かった他の貴族家にも疑いの目が向けられ、王都の騎士団が調査のために送られたが、大物が多く、捜査は難航しているのが現状である。


 ふた月ほどが経ち、都市アインザスにも新領主が現れ、国内もようやく落ち着きを取り戻し始めていた。

 ジェルマンが都市アインザスへと立ち寄ったのも、その時期である。

 ジェルマンは、ギルド『精霊の黄昏』の主要メンバーであったフィオナ、ロイド、リリーの三人組と、酒場で顔を合わせていた。


「お久しぶりです、ギルドマスター」


 フィオナが頭を下げると、ジェルマンが苦笑する。


「……私としては、そっちの方が性に合ってたんだがな。生憎だが、取り潰された家の爵位を引き継ぐことになってしまった。身勝手で悪いがな」


 ジェルマンは元々男爵家の生まれであったが、オーボック伯爵に目を付けられ、冤罪を着せられて一族ごと刑に処されていた。

 家を出て冒険者になっていたジェルマンだけが、元の名前を捨ててどうにか逃れられていたのだ。

 今更爵位を返されても、というのがジェルマンの心境であったが、自分が捨てれば、今度こそ本当に家名はなくなってしまう。

 元々、性に合わないと、親と喧嘩をして飛び出した家だった。

 それでもジェルマンは、家の再興を選ぶことにしたのである。


「え……ギルドマ……ジェ、ジェルマンさん、き、貴族だったのか?」


 一連の騒動をあまり把握できていなかったロイドは、ぽかんと口を開けてジェルマンへと尋ねた。

 その言い直したジェルマンの名前自体、オーボック伯爵から身を隠すための偽名でしかなかったのが、ジェルマンは敢えて訂正しなかった。


「アインザスに新領主が来ると聞きましたけど、まさか……」


「いや、それは違う。ここアインザスは、腐っても国の重要都市だからな。私のような者には任せられんよ。オーボックの様な者が私物化しないためにも、王族の親戚筋から選ばれたという話だった」


 フィオナの問いに、ジェルマンは首を振って答える。


「マジかよ……ギルドマスターが帰ってきたらまた仕事ができると思って、必死に食いつないでたのによ……」


 ロイドがテーブルの上に頬を乗せ、深い溜め息を吐く。

 ロイドを含め、『精霊の黄昏』のメンバーはそこまで腕が立つわけではない。

 元々、ジェルマンがオーボック伯爵の情報を集めるため、都市アインザスのギルドマスターという肩書が欲しかっただけなのだ。

 実力はせいぜい、ジェルマン以外は中の下、といったところである。

 他ギルドへの再登録もしがらみがありなかなかできるわけでもないし、はっきりとした取柄のない彼らを欲しがるギルドはあまり多くない。


「ロイド、こんなときにわざわざそんな話……」


 リリーが呆れたように言い、フィオナが苦笑いする。


「お前達さえよければ、私の家の騎士として、雇い入れたいと思っているのだが、どうだ? 人手が必要でな。私としても、顔見知りがいるととても助かる」


 それを聞いたロイドが、感嘆を上げながら席を立つ。


「ほ、ほほ、本当なのか? ジェルマンさん……いや、ジェルマン様!」


 弱小ギルドの冒険者と騎士では、面子も待遇も大違いである。

 当然その分、責任のある仕事も増えるが、大出世であることには違いない。


「リ、リリーもフィオナも、勿論行くよな? な? そうだろ?」


 リリーは無言ながらも、こくりと頷いた。

 フィオナは少し考える様子を見せた後、首を振った。


「お誘いはありがたいのですが……もう少し、冒険者を続けてみようと思います。今度はまた、別のところで。申し訳ございません」


「そうか。残念だが……まぁ、フィオナなら、そう言うだろうとは思っていたがな」


 そこまで言って、ジェルマンはやや眉尻を下げ、酒場内を見回す。


「あの男は……もう、アインザスにはいないのか?」


「……あ、ああ、ランベールのおっさんなら、あの日から、まったく姿を見ねぇよ。ふらっと……それこそ、幽霊みたいに消えちまった」


「そうか。複雑な身の上のようだったから、いついなくなってもおかしくないとは思っていたが……もう一度、会いたかったものだな」


「なんだ、ランベールのおっさんが欲しくて、俺達はおまけかよ」


 ロイドがやや拗ねたように言う。


「そういうわけではないのだが、恩人だからな。それに、あの男は、私の下に着くような男ではないだろう」


「縁があれば、また会えますよ。きっと」


 オーボック邸での襲撃事件の後、ジェルマンは彼らにオーボック邸で起こったことを話し、それから王都へと向かっていた。

 ランベールがオーボック邸に乗り込み、ほとんど一人で大暴れして邸内の私兵を壊滅させた後、オーボック伯爵の前で激戦の末にヘクトルを斬り殺したのだ、と。

 通常ならば到底信じられる話ではなかったが、ランベールの規格外さを知っている彼らはしばし驚いた後、きっと事実なのだろうと、どこか冷静に考えていた、。


 だが、その日をきっかけに、ランベールは都市アインザスから姿を消した。

 まるで最初から存在しなかった、それこそ本人が自称していた亡霊だったかのように。

 本人の非現実的な強さと合わさって、実際目にし、その恩恵を受けたジェルマンですら、ただの夢だったのではないかと、時折考えてしまうほどである。


 ジェルマンの脳裏に、跳び上がったヘクトルを、大きく振り下ろした大剣で斬りつけたランベールの姿が浮かんだ。

 まるで史実の一端に立ち会ったかのような感動と、静かな興奮があった。


 ジェルマンが、窓から外を見る。

 人通りの中に鎧の男を見つけて思わず目を見張るが、まったくの別人であったと知って、自分の間違いに自嘲気味に口許を綻ばせた。


「……もしかしたら、本物だったのかもしれんな」

アンデッドナイト、書籍化決定いたしました!

まだ少し間が空きそうだということで、出版社名等を公開できる段階ではありませんが、お楽しみに!

(2017/06/27)

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