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元将軍のアンデッドナイト  作者: 猫子
第一章 蘇った英雄
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第十二話 一流冒険者クレイドル③

 やがてランベール一行は都市アインザスへと辿り着いた。

 二、三階建ての高い建物がずらりと並んでおり、人通りも多くなかなか賑やかである。

 街全体に統一感があり、美しい白壁と橙の屋根がどちらを向いても目に入ってくる。

 まるで街全体で一つの巨大な城のようである。

 ランベールはコンコンと足で、真っ白の石で舗装された床を叩いた。


「……こ、ここが都市アインザスか。なかなかの街並みではないか」


 ランベールの声には興奮があった。

 歩幅が自然と狭まり、早歩きになる。


(なんと我が国は立派になったものか……! 殿下が見れば、涙を流して喜んだものであろうに!)


「レギオス王国の都市の中でも、一、二を争う街並みと評されていますからね」


 フィオナ達は、興奮気味に歩き回るランベールへと必死について歩いた。

 ランベールはことあるごとに立ち止まっては「おおっ!」「これは!」といちいち大げさに驚いていた。

 ランベールから距離を離されたフィオナは苦笑しながら、声を潜めてリリーへと言った。


「騎士様、少し怖い人かと思っていましたが、案外可愛いところもあるのですね」


「かわ、いい……?」


 リリーはがしゃんがしゃんと大きな音を立てながら歩く全身鎧を遠巻きに眺めながら、疑問符のついた言葉を発した。

 リリーからしてみれば、なぜあんな重そうな鎧を着てはしゃぎながら歩き回る体力があるのか、そのことがただ不気味であった。


「ぜぇ……ぜぇ……なぁ、その、えっと……なんて呼べばいい?」


 ロイドが息を切らしながら、五階建ての建物の天辺にある風見鶏を眺めていたランベールへと尋ねる。


「陛……あのフィオナという小娘同様、騎士で構わんぞ」


「……アインザスも知らない騎士がいるかよ。とにかくアンタ、その恰好はただでさえ目立つんだから、変なオーバーリアクションするのは止めてくれ! ついて歩くこっちが恥ずかしい」


「…………」


 ランベールはロイドへとゆっくりと振り返った。


 確かに、知らない時代だからと言って少し浮かれすぎていた。

 ただでさえ悪目立ちする格好である。

 ランベールは不審がられて正体が暴かれれば、魔物として討伐されかねない身である。

 目的が現代のレギオス王国を見て回ることであるため、情報を集めるために街に入り、そこで多少奇異の目を向けられることは仕方ない。

 しかし、無意味に余計な注目を集める行動は避けるべきだった。


 迂闊すぎた。

 レギオス王国の四魔将ランベールたる彼が、完全にただ浮かれていたのだ。おまけにアンデッドの分際で。


 ランベールはしばし黙り、自分を戒めていた。

 しかしその様は、ロイドから見れば口にされた内容に憤慨しているようにも見えた。というよりも、そうとしか見えなかった。


「あ……い、いや、別に、無理にって言うんじゃなくて、心掛けてほしいっていうか……」


「わかった。気を付けよう」


 ランベールは落ち着いた足取りで歩き、ロイドへと近づいた。


「ひっ!」


 ロイドは思わず自分の前に手を出して、目を固く瞑った。

 それからそうっと目を開けたとき、ランベールは普通にロイドの横を抜けて通り過ぎて行ったところであった。


「……あ、あの人、怒ってないよな? なぁ?」


 ロイドはリリーへと必死に尋ねた。

 リリーは無言で溜め息を吐き、ランベールの後へと続いた。


 ランベールの放浪が落ち着いた後にどうにかフィオナが説得し、ギルドへの道へと進んだ。

 途中まで口数がそれなりに多かったランベールではあるが、いつの間にかすっかりと黙りこくっていた。

 どことなくランベールの周りの空気が重いように感じた。


「なんかあの人、不機嫌になってないか?」


「やっぱりロイドが怒らせたんじゃ?」


 ロイドとリリーは声を潜めてあれやこれやと言い合っていた。


「こ、怖えこと言うなよ」


「ご愁傷様。あのときの盗賊みたいに、あの大きな剣で真っ二つ……。墓にはエールを置いてあげる」


 リリーが小さく手を叩いて頭を下げた。


「やめろって! 洒落になってないぞ! なぁ、フィオナ……やっぱりあの人、何考えてんのか全然わかんねぇよ。連れてくのは止めに……」


「すいません騎士様。街の探索でしたら、ギルドマスターへの顔合わせが終わった後に、私が案内しますから……」


「……べ、別にそこまで見て回りたかったわけではないのだが……まぁ、今後何かと不便かもしれん、任せるとしよう」


 フィオナが後で案内する約束を取り付けると、ランベールの重々しい雰囲気はすっと和らいだ。

 ロイドはその様子を見ながら、「なんでわかるんだよ……」とぽつりと呟いた。


「そろそろですね……この先に、『精霊の黄昏』と書いた看板のある、二階建ての大きめの建物があります。あっ、あれです! あの……屋根に、精霊の風向計のある……」


 フィオナに言われて顔を上げれば、屋根のとんがりの上に、精霊の影絵のような飾りがくっ付いていた。


「なるほど、あの建物か。随分と謙遜していた割には、立派な建物ではないか」


 都市アインザスにある冒険者ギルドの中で一番規模が小さく、適当な運営がされていると聞かされていたが、それにしては立派な建物である。


「あ、いえ……違うのです。実は、あの二階が私達の冒険者ギルド、『精霊の黄昏』です。一階は建物の所有者の方が経営されている酒場『精霊の竈』でして……。私達は、二階を借りさせていただいている形だといいますか……。その、独立した建物を持てる余裕は、まだないと言いますか……この都市、土地の値段がよそよりもずっと高いですし……」


「……そ、そうか」

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