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元将軍のアンデッドナイト 作者:猫子

第一章 蘇った英雄

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第十一話 一流冒険者クレイドル②

「騎士様、金銭をお持ちではないのですか?」

「ああ。事情があり、今は持ち歩いていない」

 道中において、フィオナとランベールは不思議と馴染んでいた。
 ロイドとリリーはやや敬遠がちであり必要以上のことを話すことはなかったが、フィオナとランベールは何度も言葉を交わしていた。
 ランベールがかつての君主と似た顔つきのフィオナに興味を持ったことと、フィオナのランベールのフルプレート姿に必要以上に物怖じしない姿勢、大らかさが上手く噛み合った結果であった。

「でしたら、先ほどの村の人から感謝の証をいただいても、問題はなかったでしょうに……。私も生憎、手持ちが少ないもので……大した謝礼はできませんが」

 言いながら、フィオナが道具袋へと手を伸ばす。
 その動きをランベールが制した。

「構わん。元より、そのために手を貸したわけではない」

 実は盗賊を討伐した際、村長より謝礼金を渡したいという申し出があったのだ。
 しかし、ランベールはそれを断った。

 ランベールは自身が民の平穏を守るのは義務であり、対価は税として国が受け取っているという考えが頭の根本にあったからである。
 国から給金が降りているわけではないか、ランベールの頭の中には半ば常識としてそう染みついているのである。
 今更民を助けて路銀を稼ぐなど、とてもそんな発想はなかった。

 また、村が盗賊被害のせいで余裕がないのはわかりきっていた。
 それに黒幕であるオーボック伯爵が存命である限り、再びあの村を魔の手が襲うことが予想された。
 村を救うという意味では、まだ十全な働きを終えてなどいない。

 加えて、理由がもう一つある。
 ランベールは今、金銭を必要としない身体であるからである。
 疲れを知らず、飢えも知らないアンデッドにとって、金銭とは大した価値を持つものではない。

「……お金もなしに都市アインザスへ向かい、騎士様はどうなさるおつもりなのですか?」

「どうとでもなる。建物の隅で仮眠を取り、動物の肉を食らえばよい」

「そんな……いくら都市アインザスとはいえ、夜になれば柄の悪い者も現れますし、荷物の保管も満足にできないでしょう。食事だって、狩った獲物を焼くだけというのはどうにも……」

「遠征時ならば、もっと過酷であろうに。死の渓谷に比べれば、街の寒さや、野盗如きの障害など……」

「は、はぁ……な、なるほど……?」

 フィオナはランベールの言わんとすることが時折わからなかったが、わからないなりに相槌を打って誤魔化していた。

「しかし、お金がないというのは何かと困ります。命の恩人ですし、私としても気持ちが……。そうです! どうしても直接受け取っていただけないというのであれば、仕事を紹介させていただく、というのはどうでしょうか?」

「仕事?」

「ええ。私達はギルド所属の冒険者でして。最近ギルドが商会と提携したので、効率のいい仕事がよく回って来るようになったのです。騎士様ほどの力があるのならば、しばらく暮らしを安定させるだけの金銭を得ることは容易いのではないかと。私の紹介という形を取れば、簡易名簿登録にもさして時間は掛からないはずです」

 ギルドとは、冒険者としての労働力を商品とした商売である。
 依頼に対して冒険者を紹介し、依頼料の一部を仲人料としてギルドが回収するのである。
 大手では百人近くの冒険者を囲っており、本部と支部に分かれているところも存在する。
 ただフィオナ達の所属するギルド『精霊の黄昏』は弱小ギルドであり、所属している冒険者もフィオナ達を含めてもたったの十人である。

「お、おいフィオナ……勝手に……」

 話を聞いていたロイドが口を挟んでくる。
 ランベールはアンデッドの瘴気を意識的に抑えてはいるが、それでもただならぬ者であるという雰囲気が醸し出ていた。
 ありていに言って不気味であった。

「しかし、騎士様はこの辺りの領地について疎そうですし……このまま別れるというのも、少し気掛かりで……」

 ロイドとフィオナが言い争うのを耳にして、乗り気ではなかったランベールも少し心を動かした。
 確かに現在のレギオス王国の実情について、ランベールは無知であった。
 一国民として労働を行うことで、この国の一端を把握できるのではないかと考えた。

「第一……この人がそんな、冒険者業なんてやるようなタマには見えねぇが」

「わかった、引き受けよう。確かに今の懐事情では、何かと不便であるからな」

「ほらよ、こう言って……ええっ!?」

 ランベールはその場で即決した。

 元より、ランベールの目標は多くない。
 かつての主君が統一した王国の果てを見守ること……そしてその一環として、オーボック伯爵の身辺を調査することである。
 今のランベールにはあまりに情報が少ない。
 オーボック伯爵の調査よりも先に、基本的な知識を得ておきたかった。

「では街に着いたら私達のギルドである『精霊の黄昏』へと向かいましょう」

「ただ一つ聞いておきたいのだが……」

「なんでしょうか?」

「その……冒険者ギルド、とはどのような組織なのだ?」

「そ、そこからですか……」

 フィオナはランベールの素性を内心でやや怪しんだが、それを口に出すことはなかった。
 ただ、ロイドは露骨に顔を歪ませていた。

 ランベールの生前の時代、冒険者同士の組合など存在しなかった。
 ほとんどの戦闘技能を持った者はどこかしらの王族に仕えて戦争に備えており、一か所に留まることをよしとしない流れ者達でも、傭兵団を結成して戦地を渡り歩くことが常であったためである。

 冒険者はいたがごく少数であり、逸れ者の中の逸れ者、といった扱いであった。
 実際、腕はほどほどに立つが集団に馴染めない変わり者が多く、危険な未開の地へとひっきりなしに訪れるため、一年間生き延びる者は一割以下であった。
 名称を付けて区別しなければならないほど一つの町に多くの冒険者の組合があるなど、ランベールには想像もできなかった。

「冒険者ギルドは、冒険者達に仕事や情報を仲介してくれるところです。ギルドごとに細かい規定や方針、入ってくる仕事の種類に違いがあるのです。『精霊の黄昏』は村を襲う害獣や魔物の討伐が主でしたが……最近では商会と契約して、ダンジョン内での魔物の肉や毛皮などの素材集めにも乗り出しています」

「ふむ、なるほど」

(危険地区の情報が出回るようになって、冒険者の生存率が上がったのかもしれんな。戦争を終えて戦力に余裕ができ、貴族達が率先して探索に力を注ぐようになったのか……)

 ランベールはフィオナの話を聞き、勝手に戦争後のレギオス王国についてあれこれと考察しては、楽し気に笑った。
 鎧の奥で籠った笑い声が不気味に反響する。

「都市アインザスには六つのギルドがあるのですが、私達の『精霊の黄昏』は規模が小さく……いえ、小回りが利くといいますか……ええと、ギルドマスターもいい加減……いえ、大らかで融通の利く人物なので、手続きにもそう時間は掛からないでしょう。周囲の方からも、親しみ易くて仕事が頼みやすいと好評で……」

 フィオナは利点を話そうとして、ぽろぽろとボロを出していた。
 しかし、元より金銭よりも情報集に重きを置いていたランベールにとって、小規模で審査が緩いというのは、むしろ利点であった。
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