荒野に日は落ちまた昇る
剣と魔法を操る二足歩行戦闘ロボット機動霊装アルガント・ソードを駆り少年は一人旅をする
彼の名はエン・ソルシオン!
そして「助けて!」と叫びながらエンの懐に飛び込んで来た美少女ルルフィ・ドラグニア!
だが少年よ!気を付けたまえ綺麗な華には棘もあれば毒もあるのだ!
彼女がこの後の彼の運命を大きく揺り動かす事をこの時は誰も知らなかった。
過去の大戦により文明進歩が停止した世界を二人の出会いが変えて行く!
機動霊装アルガント・ソード 第一話 荒野に日は落ちまた昇る
目の前に広がる真っ赤な夕日に照らされた枯れ木の群れ様な針葉樹林帯を貫く道…
来た方向に今は取り立てて何かある訳でも無い…
人々から忘れられたかつての街道を
周囲の木々と同じ背丈の鉄の巨人に乗って進んで行く。
巨人の名は『アルガント・ソード』
数百年前にあったと言われる文明の進歩を止めたほどの戦乱期
その最後の時代に作られた機動霊装の生き残りだ。
針葉樹林帯を抜けると目の前に荒野…
それまで木々に遮られていた冷たい風が強くなる。
砂埃さえ立たない乾いた岩の大地が広がっている。
その先にあるはずの街の光はまだ見えない。
「地図の通り町があれば良いんだけど…」
目的地を失った街道は周辺の町や村ごと枯れるように消えて行く。
予定通り補給が出来なきゃ詰むかも知れない。
先を急ぎたいけど『二本足』が夜道を進むのは避けた方が良い。
慣れない地形に足を取られ転倒すれば重大な損傷を受ける可能性があるからだ。
ダメだ…野営しよう。
僕は巨人=『アルガント・ソード』に膝を付かせ、休止態勢を取らせる。
身の回りの物を確認する。
寝袋、水、硬パン、干し肉、乾燥ライム…。
どれも心許ない…次の街で補給できなかったら本当にどうしよう?
靄の様に湧いて出る不安を振り払いながらそれらを手に取り正面のハッチを開ける。
夕暮れの風が心地よい…。
そしてアルガント・ソードのコクピットから剣を抜き、膝に飛び移ってそこから地面へ。
休止態勢の機動霊装のマントはそのままテントになる。
僕はそのマントの外に出て剣を握り詠唱する。
「索敵結界」
周囲の空気が少しだけ霊気を帯び、アルガント・ソードと契約した精霊が周辺警戒を始める。
コクピットの中の方が安全なのは当然だ。
しかしあんな狭い中に一晩体を折りたたんでいたら気が狂うかも知れない。
さて、焚火でもするか…。
幸い枯れ枝に不自由する事は無さそうだ。
僕は薪を探し森の中に進んで行った。
程なく一晩の焚火に十分な枯れ枝は集まった。
乾ききった枯れ木の山に剣を翳す。
「着火」
軽く火花が散った瞬間枯れ木は燃え上がる…。
アルガント・ソードの周りに居ればこんな風に数百年前の文明の恩恵に与る事が出来る。
この程度なら理力の無駄遣いにもならないだろう…
残り少ない飲み水を沸かし、パンと干し肉も木の枝にさして火で炙る。
食い物が温かいだけでも気持ちが和らいで行く。
パチパチと音を立て燃え盛る焚火に少しずつ枯れ木をくべて行く。
パチパチ パチパチ
パチパチ パキ パチパチ
…………?
パキ パチパチ パチパチ
!………枯れ枝を踏む音が聞こえる…?
こういうのは獣じゃ無い…
パキ パチパチ パキ
人だ!
僕が気付くとほぼ同時に剣が鈴のような音を立てる。
索敵結界の範囲に何者かが侵入しているのは間違い無い。
「誰か!そこにいるんでしょう?」
少し大きめの声で呼びかける。
…………………………
剣からの侵入者警報は続く
「いるのは分かってるんです!敵意が無いなら顔を見せるか黙って通り過ぎるかして下さい!」
パキ!
「‼」
パキ パリ パキパキ
足音が近づいて来る!
音の方向に向けて剣を構え闇の中に目を凝らし迎撃態勢を取る。
その瞬間闇の中から
「助けて!」
「‼」
女の子?
「助けて下さい!」
呆気にとられる僕の腕の中に飛び込んで来たのは
長い黒髪の小柄な女の子だった…。
「助けて下さい!」
助けてとしか言わないその女の子は酷い出で立ちをしていた。
腕も足も丸出しと言っていいほどの軽装…いや薄着と言ってもいいレベルだ。
何だこれ…でもこういう時は確か…
「おい!兄ちゃん…」
再び闇の中から声がする。
「後ろのデカブツを渡して貰おうか?」
次に闇の中から現れたのは剣を持った大柄な皮鎧の男だった。
後ろの物?アルガント・ソードの事か?と、言う事は…。
「はい♡捕まえた♡」
女の子はいつの間にか柳の葉の様なナイフを取り出し僕の首に押し当てていた。
なるほど…彼女は囮で薄着は色仕掛けか…。
何とか交渉の余地は無いだろうか…?僕は女の子に呼びかける。
「ねえ、君…そのナイフ何処に隠してたの?」
「乙女の秘密よ♡まったく…男って本当にチョロいんだから♡」
闇の中から一人二人と男たちが現れる。参った…完全に囲まれてしまった…。
「おいルルフィ!」
ルルフィ?この女の子の名前か?
「何してる!さっさとキーソードを取り上げちまえ!」
「分かったよ。」
男の呼びかけで彼女は僕の持つ剣に手を伸ばした
「ああ。止めた方がいいよ。」
僕の呼びかけを気にもかけず彼女は剣の柄に手を伸ばす。
その瞬間
バチィッ
青い火花が走り彼女の手に少しだけ稲妻が光る。
「きゃあっ?」
驚き手を離した彼女を突き飛ばし両手に剣を構え正面の敵を数えた。
闇の中にはいつの間にか松明も迫っている。
一人ずつ相手をしていてはきりが無い…
剣を天にかざしアルガント・ソードに命じる
「雷撃防御!」
アルガント・ソードの頭頂から真っ白な光とともに男たちの剣に雷撃が降り注ぐ
「あちっ!」
「こいつ!」
男たちは剣を取り落としこちらを睨みつけた。
「てめぇ!」
「夜が明けたらここを出て行きます。それまで捨て置いてくれればこれ以上危害は加えません!」
「くっ…覚えてやがれ!」
男たちは捨て台詞を残して去って行った。
「こりゃ…今夜は寝ずの番だな…。」
?
足元にはさっきの女の子、ルルフィが転がっている。
ああ…全くもう…。
「起きられないはずは無いよ…。」
「‼」
僕の呼びかけに渋々と言った様子で彼女は起き上がった。
「全くもう…これだから女の子は…。」
似たような手が二度も通じる訳無いじゃないか…。
僕は焚火の傍に腰を下ろし、パンを半分に割って彼女に手渡そうとした。
「要らないよ。見た感じあんたの方が腹が減ってるように見えるけど。」
「あっそ…。」
パンを飲み込んでそのまま横になる。
「ねえ。」
ルルフィに呼びかける。
「どうして逃げなかったの?」
「あんたを見張るためだよ。」
ああ、獲物を逃がさぬ様にか…。
「縄張りを荒らした事は謝るよ。でも朝にはここを出て行くから見逃すよう上に報告して貰えないかな?」
僕の言葉にルルフィは驚いた様な顔を向けて来た。
「はぁ?何言ってるの?そんなの通る訳無いじゃない。」
はぁ…向こうにも面子って物があるんだろうなぁ…
僕みたいなの一人に退散させられたら色々と通らないものがあるんだろう。
「それよりあんた…名前は?」
「……エン…エン・ソルシオン。」
「何処から来たの?」
「ここから馬で三日ほど街道を遡った所に斜方石の鉱山があるんだ。」
「うん知ってるよ。100年ほど前に閉山になったんじゃ無かったっけ?」
「そこに義父さんと住んでて堀残された斜方石を切り出して石像や土産物にして行商人に卸してたんだ。」
ルルフィは不審そうに僕の顔を見つめている。
「そんな奴が何でそんなデカブツ持ってるのよ?」
「…あれは…父さんの形見…なんだ…。」
「いや、じゃあ何でお父様はそんなの持ってたの?」
「………僕も知らない。」
次第に夜が明けて来る。
「そろそろ来るよ。」
ルルフィが呼びかける。奴らの本体か…。
………!………?
空気が震える?大質量の物体が地面を揺らす音?
「来た!」
アルガント・ソードと同じくらいの巨体…
「機動霊装?」
「どうするの?お父様は強いわよ。」
あんなのを持ってるなんて…
どういう山賊だ?
羽振りがいいじゃ済まないぞ?
にやりと笑うルルフィを横目で見ながら僕はキーソードを取り
アルガント・ソードのコクピットに駆け上った。
コクピットシートに体を押し込みキーソードをエントリー・レーンに添える。
「キーソード・インサート‼エン・ソルシオン‼」
キーソードを奥まで押し込み搭乗者としての名乗りを上げる。
機体に理力が通い嵐の様なうねりが起こった。
「フェンサーモード!」
機体が立ち上がると同時にマントと関節負荷軽減用のリミッター・アーマーが振り落とされる。
フェンサーモード起動確認。
機体が完全に戦闘モードになったのを確認して大きく大地を踏みしめ腰だめに両手剣を構える。
「アルガント・ソード‼」
用語解説
機動霊装=モビル・スピリット 精霊を機械の体に憑依させる事により誕生した戦術級の機動兵器
現在その製法のほとんどは失われている。
80年代土曜午後のサンライズアニメをかなり意識して書きました。




