セノとシルドバ②
セノは少し前まで光が漏れていた場所に顔を近づける。
それを見たコロミィがセノの肩を押さえた。
再び光が漏れた。
しかし、すぐに塞がれる。
口元が出てきた。
顔を近づけようとするセノ。
コロミィは肩を押さえる手に力を入れる。
二人でじっと、その口元を見つめる。
「返して」
セノとコロミィはビクッとする。
顔を見合わせた。
再び光が漏れ、すぐに塞がれる。
今度は片耳が出てきた。
再び光が漏れ、すぐに塞がれる。
見えるのは片目。黒い部分が左右に動く。
セノとコロミィは少し腰を浮かせた正座で、目を丸くしてそれを見つめている。
再び光が漏れ、すぐに塞がれる。
見えるのは口元。
「返して。聞こえてるでしょ? その棒」
再び光が漏れ、すぐに塞がれる。
見えるのは片目。
セノが棒を手に取った時、その片目が頷いたように見えた。
すぐに口元に入れ替わった。
口が開いた瞬間。
セノはタイミングよく、棒の先を口元にねじ込んだ。
ふがふが……
コロミィがあわてて棒を手に取って引っこ抜く。
再び光が漏れ、ゴホッゴホッと聞こえた。
しばらくすると、今度は手が出てきた。何かを掴もうと指先がせわしなく動いている。
セノはそれに手を伸ばそうとする。
コロミィはあわててセノの肩を押さえた。
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「シルドバさん?」
警備員の一人が立ち上がった。
シルドバは突然立ち上がったかと思うと、床にある通気口に頭をつけ、必死に動いている。
シルドバにもう一度、後ろから声を掛ける。
「シルドバさん?」
シルドバが振り返る。
目が血走っていた。さらに顔全体がうっすら赤くなっている。
さきほどまでのだらしない表情は微塵も残っていなかった。
シルドバがキレのある声で問いかけてきた。ただ、ヨダレが垂れている。
「外に出られないのか?」
「……出れますけど、夜は危ないです。足を滑らせたら死にますよ」
シルドバは立ち上がると、外へと走って出て行った。
「シルドバさん!」
声を掛けるが、反応はなかった。
シルドバが覗いていた通気口は以前より明らかに大きくなっていた。
床に寝そべって、そこから外の様子を見る。
――手招きする、侵入者の姿があった――
~~
シルドバは展示会場の外壁にしがみついていた。
両手の指先を外壁の出っ張りにかけ、足も同様に乗せて、スルスルと移動している。
もし足を踏み外せば、地面に叩きつけられる。命はない。
あの棒は魔術師の命。
あれがないと、何もできない。
両手の指先にしっかりと力を入れ、すり足でテンポよく横へ進んでいく。
下は見ない。
それでも指先は汗ばむ。ただ、それがちょうどよかった。
右足だけに集中すればいい。
ただひたすら、薄闇の中を這うようにして進む。
――
出口の扉が見えてきた。
もう、一周していた。
どこにもあの子供の姿はなかった。あの棒も。
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【あトがき】
翌朝。
セヴァンはすっかり良くなっていた。
もう頭痛もない。鼻水もない。
いつもより頭の中が冴えていた。
両手でヒモをピンッと張り、セノを見つめている。
セノは灰色のビンに夢中だった。
それは展示会場にあった物より小さい。セノでも持てる大きさと重さだった。
一生懸命、フタを開けようとするセノ。
目をつぶって、うんうんと唸っている。
でも開かない。
セノは目を開けた時に気づいた。
両手首にヒモがつけられている。
たどっていくと、セヴァンの足首へとつながっていた。
セノ「えーーーーっ」
セヴァン「昨日、一昨日と、やりたい放題だったな」
セヴァン「アバロンに行くまで、大人しくしてもらう」
セノはさらに白い手輪と足輪もつけられた。
これで魔法は使えない。
セノ「……」
セヴァンの部屋の窓からシカくんが覗いている。まばたきをして二人を見ている。
それに気づいたセノ。
セノ「シカくん!」
セノ「シカくんのごはん!」
セヴァン「一緒に取りに行こうか」
セノ「あそこだよ?」
セノは外を指さす。セノのアヂトだ。
入口も中も小さく、大人の男性は入れない。
セヴァン「じゃあ、コロミィが起きてくるのを待とうか」
セノ「……」
大人の貫禄で、セヴァンはセノのあがきを封じた。
こうしてセノとの五日間は幕を閉じた。
セヴァンが平和に過ごせたのは最後の一日だけだった。
ちなみに、展示会場から持ち帰った”木の棒”は扉の脇で雪に埋もれかけていた。
セノの夏休み前半はこれで終わりです。
次はヴァレンタリアとの魔法訓練までセノは魔法使工房を少しだけ離れます。
夏休み後半でまた戻ってきます。




