夏休み前日
[ナツメ視点]
夏休み前日の放課後。
魔術教室の二階では、セノを真ん中にして窓際のカウンターに五人が座っていた。
ノノア、ヴァレンタリア、ナツメとテノルド。そして椅子の上に積み上げた本に乗ったセノ。
窓には日に照らされた湖面やさざめく葉が映っていた。
そこでナツメたちは夏休み中のセノの魔法特訓について話し合っていた。
「セノくん、一人だと絶対やらないよね?」
ヴァレンタリアが、あきらめたようなトーンで声を出す。
ノノアも、うんうんと、うなずいた。
当のセノはといえば、まぶしそうに正面の一点を見つめたまま、一定のリズムでグミを口に運んでいる。
ガラステーブルの下には、色とりどりのグミが一面に何層も敷き詰められていた。
テーブルの側面から一粒ずつ、摘まんで取り出す。
「ナツメ先生。これ、今まで食べたものでいちばん好きかもです」
「ありがとうございます。どれが一番好きですか?」
ヴァレンタリアが首を傾け、テーブルのグミを見つめる。
「黄色いのの、突き抜ける香りが好きです」とテノルド。
「私、ミルク味の白いのが好きです」とノノア。
ヴァレンタリアは緑色と空色の粒を一粒ずつ口に入れる――
斜め上を見て首をかしげた。
「食感がいいですね」
「濃い赤色が一番弾力ありますよ。個人的におすすめです」
ナツメは、ヴァレンタリアの少しズレた一言を爽やかに受け流した。
「ノノアちゃんも私も予定があるから、毎日は無理ね」
それを聞いた瞬間、無心にグミを食べていたセノの手が止まった。
「週一回にしましょう。私、ノノアちゃん、ノノアちゃん、私でどう?」
「うん」
セノの返事が少し上ずった気がした。
その様子を黙って聞いていたナツメは紙に線を引き終えるとゆっくり目を閉じた。
このままではセノに自由な時間ができてしまう……。
ナツメは隣に座るテノルドに、声を潜めて耳打ちした。
「セノと魔法特訓できる?」
テノルドは困ったように首を振る。
「……すみません。大人になるまで魔力を使わないほうがいいと言われてまして……」
「わかった、ごめんね」
別の誰かに預けるしかない……
ナツメの脳裏に、リンモルト夫妻の顔が浮かぶ。
あの二人なら、セノの相手も務まるだろうか。
そんなことを考えながら、紙に書いたカレンダーに予定を追記していった。
「ここに居る五人の夏休みの予定です。くれぐれも予定を変更する時以外は直接触れないでください」
ナツメは予定を書いた紙を透明フィルムに入れて配った。
セノはその紙を頭を下げず、目線だけ下にしてチェックする。
「ナツメ、展示会に行かないの?」
セノの問いに、ナツメは透明フィルムから紙を出した。
紙の裏、ザラザラとした面を指でなぞって表に書かれた文字を消した。
再度、紙の表、きめ細やかな面に指先で展示会の日程を書いた。
すると、他の四人の紙にも、その変更が反映されている。
セノのグミを口に運ぶ手が再び止まった。
「ナツメ、夏休みはずっとテノルドと一緒だね……」
セノは不満を隠しきれない顔で、どんどんグミを口の中に入れる。
そして、頬がいっぱいになると、小刻みに噛み噛みした。
ナツメは左手中指で左頬を押さえ、セノの横顔を横目で見つめる。
話し合いの最初から今まで、セノはずっと正面を見たままだ。
しばらく隣でセノと同じ方向を見続けた。




