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夜の心配事


魔術教室の二階には、柔らかな朝の光が差し込んでいた。

その穏やかな空気とは裏腹に、ナツメと骸骨紳士の間で少々物騒な話が交わされていた。


「それで、昨晩はどうでしたか?」


ナツメの問いかけに、ノノアの姿をした骸骨紳士は心底げっそりとした表情で答えた。


「二回ほど消滅しかけた……。この娘の母親にやられた」


ノノアの母親、フォトリナ。

彼女が夜な夜な捧げる光の祈祷。

それが、天から降り注ぐ幾筋もの閃光となって骸骨紳士の魂を何度も貫いたのだ。

本来なら魂ごと消滅してもおかしくないが、ノノアの魂が避雷針となり、辛くも消失は免れた。


ノノアと骸骨紳士の魂の癒着を剥がすよりも、ナツメはノノアの意識を取り戻す段取りを考えていた。

だが、いまだにどうするかの策を決めきれずにいる。


「ナツメ、これを預かってほしい」


骸骨紳士が何もない手のひらを差し出す。

すると、手の周りから禍々しい瘴気が湧き、徐々に凝縮されていく。

――そこにはすべての光を闇に葬る、漆黒の結晶が形作られていた。


「これは私の『魂の箱』だ。魂の半分が入っている。この娘の母親の祈祷は私の存在自体に関わる。どこか安全な場所に保管してはくれないか?」


よほど昨夜の祈りが堪えたのだろう。

切実に懇願するような声色を出す骸骨紳士の頼みを、ナツメは柔らかな微笑みで快諾しようとした。

が、受け取ろうと出した手を止め、魂の箱を見つめたまま、動きを止める。


「ちょっと待ってください。それはノノアちゃんの魂の中に隠してしまえば、母親の祈り対策になりませんか?」

「それはこの娘と運命を共有することになるぞ」

「たった数十年、時が過ぎるのを待つだけですよ。あっと言う間です」

「人間である君が言うかね……」


少し残念そうにうつむいて、骸骨紳士は魂の箱を胸に当てる。

漆黒の結晶は、吸い込まれるようにノノアの胸中へと消えていった。




ナツメは骸骨紳士を三階の奥の部屋に連れて行った。

そこにはニタニルが横向きになって穏やかにスヤスヤ眠っている。


「彼を依り代に使ってください」

「ん……。彼は生きてるようだが、問題ないのか?」

「あくまでも一時的な依り代です。次の依り代を見つけるまでの繋ぎですから」

「そうか。それなら、少しばかり借りることにしよう」



◇◇◇



ノノアがまぶしそうに目を開けた。

隣ではナツメ先生と賢者ニタニル様が楽しげに話している声が聞こえてくる。

うまく体が動かせない……。


「ん、んん……」


「ノノアちゃん?」


ナツメ先生の声だ。私の目の前で手を動かす。


「ノノアちゃん?」

「はい……」


小さい声だったが、ようやく絞り出すように返事ができた。


「んー、今日は一日安静にしておいた方が良さそうですね」


そういうとナツメ先生は私を背負って、私の家へと連れて帰ってくれた。



◇◇◇



一方その頃。

同じ教室の壁際では、一人の少年が眠い目をして息を潜めていた。


セノは隠ぺい魔術を施した布を全身に纏い、ナツメたちの様子をじっとうかがっていた。

二人が何を話しているのか気になって仕方がないのだが、これ以上近づけばナツメに気づかれる気がする。


(……何を話してるんだろう……あの黒い塊は何だろう……)


セノは布の隙間から、重くなるまぶたを必死にあげながら二人の背中を見つめていたのだが――


結局、セノはこのあと寝てしまい、朝の授業に遅刻してしまった。


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