121_スカンク少女の不安
「なんや、パフィの嬢ちゃん。エラく不機嫌そうやなぁ。」
「そんな事ありません!昨日も別行動でしたし!家に帰っても疲れた感じで構ってくれませんでしたし!でもわたしは大人だから我が儘とか言わないんです!!」
集落から少し離れた森の中。狩猟部隊の皆さんがスキル開発をしている中、わたしはバックルさんに八つ当たり中です。
だってコンヨウさん、全然構ってくれませんし、せっかく大豆食品を確保したのにまず最初にやるのが戦力確保とか絶対にオカシイです。
そりゃ、食べ物の事を放ってでも防衛に力を入れないといけない状況って言うのは何となく理解できますけど、それにしたってわたしがコンヨウさんの護衛なんだから戦闘の事はまずわたしに相談して欲しいです。
…もっともわたし、戦いはスキル頼りだから戦術とか戦略とか分からないですし、スキル無しの戦闘だったら下手したらコンヨウさんより弱い。
もしかしてわたしって…
「なんや、嬢ちゃん。さっきまで怒っとったと思ったら次はしょんぼりか?何があったかおっちゃんに話してや。」
「はい…実は………」
太いけど優しい声で心配してくれるバックルさんに甘えて、わたしは今、感じた不安を吐露します。自分が戦術や戦略について無知な事。自分はスキル以外では役立たずな事。もしかしたら自分はコンヨウさんに頼りにされていないんじゃないかと思ってる事。それらをポツポツとバックルさんに話しました。
言葉にするとドンドン落ち込んだ気分になってきます。このままじゃコンヨウさんに見捨てられる…いや、それはないですけど、でもコンヨウさんのお荷物になる自分を想像するとたまらなく不安になります。
わたしが落ち込んでいると、それと反比例してバックルさんの顔から呆れてモノも言えないという様な表情がありありと浮かび上がります。
「あんなぁ~、目の前の光景見てみぃ。こんな事出来る人間を頼りないと思うやつはおらへんわ。」
バックルさんが指差した先には、全長3mの大型熊モンスター_デスグリズリーが2体、全長1mの大型カブトムシモンスター_デッドリービートルが4体が倒れ、少し上を見上げると全長2mの大型猿モンスター_キラーエイプ10体が意識を失った状態で木にぶら下がっています。
これはわたしがガスで仕留めたものなんですけど、これがなんだと言うのでしょうか?
「コンヨウのにいちゃんといい、嬢ちゃんといい、本当に自分の能力ってものを把握してへんのやな。」
「どういう事ですか?」
「嬢ちゃんは…こいつらどのくらいの時間で倒したか分かっとる?」
「えっと、見つけた瞬間にガスで倒しましたから…合計で5分くらいでしょうか。」
「…嬢ちゃん、それや。コンヨウのにいちゃんは嬢ちゃんをこれ以上強化する必要が無いって考えとるんや。」
強化する必要がない?ますます意味が分かりません。だって強い護衛が近くにいた方が安心じゃないでしょうか。今回、わたしのスキル開発はされなかった。それはつまりわたしは強くなれないって事だと思ったんですけど。
「嬢ちゃん。あんさんは強すぎるんや。仮に俺ら狩猟部隊全員と嬢ちゃんが本気の殺し合いをしたとしてや。勝つのは嬢ちゃんや。」
「エッ?そんな事は…だってバックルさん達、すっごく強いじゃないですか。」
「あぁ、強いで~。でも視界に入った瞬間に相手を倒す様な圧倒的な能力は持っとらん。勝つための唯一の手段はラックの超遠距離攻撃くらいやろけど、嬢ちゃん、最近『隠れる』スキル手に入れたやろ。」
バックルさんの言う通り、わたしは最近『隠れる』スキルを手に入れました。
これはコンヨウさんが『パフィさんのスキルを活かす為には自分が見つかる前に相手を見つける事が重要だよ。』ってアドバイスしてくれたから、隠れる事を意識して動いていたらいつの間にか覚えてました。
ちなみにラック君は新しいスキルが手に入るたびにコンヨウさんに相談していたから、今回のスキル開発は対象外になってます。確か『エイミング』と『ロングスナイピング』でしたっけ。どっちも長距離射撃用のスキルだそうです。
『隠れる』スキルはある一定の距離まで近づかないと発見できなくなるというものでラック君にとっては相性最悪のスキルです。でもグラディスさんの『鷹の目』には発見されますけど。
そう考えると今のわたしの天敵はグラディスさんですね。
わたしの現在の能力については分かって貰えたと思いますけど、やっぱりバックルさんが言った事に実感が持てません。だって…
「コンヨウさんのスキルはご存じですか?」
「あぁ。嬢ちゃんも知っとったんか。俺は一昨日、嬢ちゃん達がナプールから帰ってきた日に教えてもろうた。」
「好きな所に火や水を出す力。コンヨウさんが言うには石や蒸気も出せるみたいです。」
「なるほどなぁ!コンヨウのにいちゃんが力を手に入れたからそれが不安やったんやな。」
バックルさんの言う通り。わたしの不安の理由はそれです。もうコンヨウさんは自衛手段を手に入れた。
本当は喜ぶべき事なのに、わたしにとってはそれがたまらなく受け入れ難い事でした。
だって…それって護衛が必要じゃなくなるって事だから。
「はい。コンヨウさんはもう護衛を必要としないんです。なのに何故かわたしはコンヨウさんの側にいる。
でも、昨日と今日は別行動。もしかしてこれはわたしに護衛を辞めろって事なんでしょうか?」
「それは無いと思うわ。いくらコンヨウのにいちゃんに自衛の手段が出来たって言うても嬢ちゃんほどやないから。」
「でも怖いんです!!今のわたしがあるのはコンヨウさんのおかげですから!!」
そう、わたしは怖い。コンヨウさんがわたしを必要としなくなることが。あの人に必要じゃないと言われることが。
二日間出向させられるだけでこれです。もしあの人に『いらない』って言われたら…
「はぁ~、共依存一歩手前やな。」
「きょういぞん?」
「そうや、今の嬢ちゃんはコンヨウのにいちゃんに必要とされたいちゅう強迫観念…嫌われたくないって思い過ぎとるんや。」
「えっと、それってイケナイ事なんですか?」
「いや、少しならえぇんや。でも強すぎると相手無しでは生きていけんようなる。それは相手にも自分にも大きな負担になってしまうんや。」
「今のままだと、コンヨウさんに迷惑を掛けるって事ですか?」
「こういうのはネイチャンはんの領分なんやけどなぁ。
そやな…今の気持ちのまま、それがドンドン強くなれば…いずれはそうなるかもしれへんな。」
「どうしたらいいんでしょうか?」
コンヨウさんに迷惑を掛けるのはイヤだ。バックルさんの言葉に不安になったわたしは聞き返しました。するとバックルさんは豪快な笑みを浮かべながら力強い言葉を放ちます。
「もっと自信を持てばえぇんや。自分は相手に必要とされてる。自分も相手が必要だ。嫌われたくないんじゃない、好かれたいんや、とな。」
「嫌われたくないのと好かれたいのはどう違うんですか?」
「嫌われない簡単な方法を教えよか。それは相手に関わらないことや。そうすれば間違いなく嫌われる事はないでぇ。」
「エッ!でもそれじゃ。」
「そう、人と人の付き合いってのは好きと嫌いの割合みたいなもんや。そして関わった人間には必ず好きな部分と嫌いな部分があるもんや。」
「確かにそうですね。わたし、コンヨウさんのボイン好きだけは許せません。」
「せやろ。じゃあコンヨウのにいちゃんの事嫌いか?」
「いえ、優しいですし、物知りですし、みんなの為に一生懸命ですし。それにあれでとても繊細な部分があって、それから…」
「あぁ、その辺でえぇで。つまり嫌いが10あっても好きが100あればそれは相手の事が好きっちゅうことや。」
「わたしは多分、コンヨウさんが…好きです…だからでしょうか。コンヨウさんがわたし以外の事に目を向けているとモヤモヤします。」
「そっか…嬢ちゃんはあのひねくれ者にはもったいない上玉やからな。心配せんとせいぜい気張りぃや。」
「はい、お話を聞いてくれてありがとうございます。おかげで少し気が楽になりました。」
「そうか、そりゃ何よりや。」
バックルさんのおかげで少しスッキリした気分になりました。さて、なにはともあれもっと強くならないとですね。その為にもモンスター狩り再開です。
…………
「はぁ、俺もミルに告るまでは散々うじうじ悩んだもんやからなぁ~。ホンマ、若いってえぇわ~。」
笑顔でモンスターを虐殺する少女を眺めながら、遠い目をするバックル。思わず『本日は大漁やなぁ~。』と呟いてしまうのであった。




