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29話 オドロの谷~リルル視点

 トロールは棍棒をぞろぞろと地面にこすらせながら、列をなして街のある方面へと向かっていった。


 私はトロールを見た瞬間、近くのシゲミへと隠れるようにしてしゃがみこんだ。


 なんで?警備もいるはずなのに……村を襲うつもりだわ。


 とめないと。でも今の私には到底倒せない。スキルを使えばどうにかなるかもしれない。


 ふと自分の指先を見つめた。


 両親とスキルは使わないと約束した……私のスキルは人を傷つける。


 なら、せめて村のみんなにこのことを知らせないと。


 村へ向かうため立ち上がろうとした。


 ピキッ


 足元で枝が折れる音が聞こえた。


 音に気付いた一匹のトロールがこちらに歩み寄ってくる。


 ――殺される。


 私は一目散に森のほうへと駆け出した。


 走りながら後ろを振り返るとトロールも追いかけてきた。


 しばらく走ると、トロールの姿が見えなくなった。やっぱりいつもこの森で遊んでいて、地形がわかっている私には勝てないのよ。


 トロールと遭遇しないように、回り道をして街へと向かった。



 街へ帰りつくと、私の普段知っている街とはかけ離れた景色が広がっていた。


 いくつも家はもえあがっており、そこらじゅうに血まみれの人が倒れていた。


 あたり一面は血の匂いが充満していた。私は吐きそうになりながらも口元を抑えて街を歩いた。


 パパとママは…急がないと。


 私はいつもと違う街並みを駆け抜けた。


 家につくと、いつも暮らしていた家は変わり果てていた。


 私は家であっただろう。木片をかき分けた。下からはパパとママが変わり果てた姿で出てきた。


 どうして。どうして。どうしてこんな目に私があのときスキルを使って足止めしていれば、パパとママは……。


 ふと物音がして振り返ると、そこには棍棒を付しかざしたトロールの姿だった。


 わたし…死ぬのかな。いいや。もうどうなっても…あきらめると体の力は自然とぬけ、その場に座り込んだ。


「ぐごっ」


 突然トロールの声が聞こえて前へ倒れた。倒れたトロールを見下ろすようにして一人の女性が立っていた。


 昔懐かしい顔だった。姉だ。


「メルルお姉ちゃん」


「ああ、リルルか。久しぶりね。大きくなったのね」


 家の残骸と両親に目をやったあとお姉ちゃんは下を向いた。目に涙を浮かべている。


「リルル…よく頑張ったわ。私たちがきたから安心よ。あちらのほうに生き残った街人がいるから逃げなさい」


 兵士が走ってやってきた。


「メルル副隊長。あちらに最後の一匹のトロールが暴れております。加勢をお願いします」


「わかった。すぐ行く」お姉ちゃんは去り際にくるっと向いた。


「なにか困ったらわたしを頼りなさい」


 私の住んでいた地域一帯の街は壊滅的な被害をうけた。


 私はその日から帰る場所もなく、何日も街をさまよい続けた。


 もう3日間なにも食べていない。立っているのがつらい。


 お姉ちゃんは頼りなさいと言ったけど、もう私とは違う世界の人間だ…頼れないよ。


 もうヤダ。歩けない。


 私は地面に座りこみ、足を抱えこんで、背を丸くして顔を伏せた。


 このまま、死んじゃってもいいや。パパ…ママ…。



「あのー、大丈夫ですか?」


 声がして顔をあげると、一人の男の子がたっていた。


「うん。大丈夫」


 私はこの期に及んで精一杯強がって見せた。

 

「よかった、無事だったんだ。俺の名前はリエト。よろしく」 


 リエちゃんとの初めての出会いだった。


 私は突然手を握られた。


「よかったらうちにご飯食べにおいでよ」リエちゃんはにこっと笑った。


「でも私なにもお礼できない……」


「いいよ。俺がしたくてやっているのだし」


 まだ神様は私に生きろって言ってるのかな。


 私はリエちゃんの手握り返すと静かに立ち上がった。


 それから少しはなれた地域へ連れていれた。そこは被害もなく、当たり前の日常の風景が広がていた。


 私の焼き払われた村もゴブリンさえ来なければ、私が食い止めていれば、今もこんな感じに……。


 リエちゃんに連れていかれるがまま、家の中に入った。


「お母さん、友達連れてきたよ」


「まあまあ、上がってらしゃい。すぐごはんにするから。なにか嫌いなものある?」


「いえ……食べられるだけで、もう……」


「お母さん、この子もう三日も食べていないらしいんだ」


「あら、じゃあ、栄養のあって食べやすいものがいいかしら」


 三人でご飯を食べた。久しぶりのご飯は暖かくてのどにつかえた。なにより食卓をかこむことが久しぶりで、涙がこぼれてきた。


 あれ?こんなはずじゃ…


 リエちゃんは優しく手をにぎってくれた。


「なにがあったか話してほしい。無理にとは言わないよ」


「うん。ありがとう」


 私は今までのことを打ち明けた。


「お母さん、この子を家に引き取りたいねえ、いいでしょ」リエちゃんは言った。


「ええ、いいわよ。反対したら、困っている人を見逃すなってお父さんに叱られちゃうわね」


「ありがとう。なんでもします。いらなくなったら捨ててください」


「捨てないよ。ずっといていいからね。今までよく耐えたね」


 それから入隊するまでリエちゃんとの生活が続いた。



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