33(残酷な表現あり)
その後、無事に生き返った遊佐は成長した奏の目や手足を移植され、一週間後に新居にて目を覚ました。そしてロゼから何があったのかを聞いて泣いた。涙が枯れるまで…しかし悲しむばかりでは駄目だと思った遊佐は移植された手足を自由に動かす為にリハビリを開始した。リハビリは困難を極めると思っていたが、精霊たちの助けもあって遊佐は想像よりも早く奏の手足を自分のものとした。それと同時に移植された奏の目で古代文字が読め、精霊が見えるようになった。遊佐はそれを悪用することなくロゼのあとを継ぐ為に勉強に勤しんだ。そしてそれから月日は流れ、三年後の奏の命日にもう一つの悲しい事件が起こった。
「大変だ!遊佐!」
奏の墓の前で座り込み、目を閉じている遊佐の耳に自分を呼ぶ声が聞こえてきた。その声に反応するように目を開けた遊佐が声のした方へと目を向けると一人の男が息を切らし、焦ったような表情をしてたっていた。
「血を吐いて倒れちまったやつが出てっ…それも一人二人じゃないんだ。墓参りの邪魔しちゃ悪いとは思ったんだけどロゼさんのところに行くよりは早いと思って…」
男は必死になって説明をする。
「案内して」
遊佐は直ぐに立ち上がり、男へと近寄っていく。
「あ、ああ。こっちだ」
男は遊佐が直ぐに動いてくれるとは思わなかったのか少しだけ動揺をした。だがその後直ぐに遊佐に背を向けて駆け出した。遊佐がそのあとを走って追いかけると倒れている人が老若男女問わず、街中に沢山いて遊佐はそれを見て思わず、険しい表情をする。
「……いったい何が…おい。じっちゃんも呼んできて」
遊佐はここまで案内してくれた男に声をかけると遊佐はそのうち一人に駆け寄り、状態を確かめた。声をかけられた男は走り去ってしまう。
「……これは毒か」
駆け寄った人が白目を向き、既に息絶えていて口から泡を吹いていた。遊佐はその状態を見て判断したあと、小さく呟く。
「おい…経緯がわかるやつはいるか?」
遊佐は周囲を見渡し、他の倒れている人たちが同じ状態であると目視で確認したあと、真っ青な顔色をした人や身内が倒れたのか泣きじゃくっている人へと問いかける。
「も、もしかしたら炊き出しの食べ物かもしれません」
周囲にいた男の一人が心当たりがあるのか控えめに声をあげる。
「炊き出し…?」
遊佐は男へと目を向ける。
「ここ数日、上のやつらが気前よく配っていたんです。俺はあいつらがそんな気前よく配るはずないって怪しんで食べなかったんですけど…食事に困ってたやつは半信半疑ではあるけれど毎日貰いに行ってたみたいだから今日の炊き出しには毒が入っていたのかも!」
男は必死になって説明をする。
「毒…」
遊佐は状態を見ていた人の近くに味噌汁とその器が落ちていることを目視で確認した。
「っ…動けるやつは炊き出しを貰ったやつに食べるなって声かけに回ってくれ!今すぐに!」
そしてその後直ぐに遊佐は指示を出した。その指示を聞いた周囲の人たちは慌てた様子で駆け出した。
「くそっ…即効性な上に毒はまだ勉強中だから何の毒が使われたかわからない限り処置のしようがない…」
遊佐は悔しそうな顔をし、唇を噛み締めた。
「ゆ、遊佐!大変だ!」
遊佐が自分の無力さを痛感しているとそこへロゼを呼びに行った男が慌てて戻ってきた。
「ロ、ロゼさんがっ」
息を切らしながら男は声を漏らした。呼びに行ったはずのロゼの姿がないことや男の慌てようを見た遊佐は焦ったように駆け出した。
「じっちゃん!」
遊佐は勢いよく自分の家の扉を開けた。
「っ!」
そして家の中にいたロゼの姿を見て大きく目を見開いた。ロゼは先程、状態を見た人と同じように倒れていてその傍らには少女の姿があり、その少女の腕の中には何が起こったのか理解していない幼い少女の姿があった。
「じっちゃん…?」
遊佐は信じられないといった表情をしてゆっくりとロゼへと近寄り、膝をついて状態を確認した。そしてロゼが既に息をしていないことを確認すると息を飲み、悲しげに俯いた。
「遊佐くん…ごめん、なさい…ごめんなさいっ…あたしの…あたしのせいなの…」
遊佐に気がつくなり、少女は泣きじゃくりながら何度も謝罪の言葉を口にした。
「遊んで怪我ばかりする妹の治療のお礼にって持ってきた料理を食べたら倒れてっ…数日は様子を見て大丈夫そうだったから…あたし…あたしっ…大丈夫だと思ってっ…」
遊佐は無言で少女へと目を向ける。そんな遊佐に対して少女は泣きながら言葉を続け、腕の中にいる幼い少女…妹をぎゅっと抱きしめる。その際、妹は痛いと抗議の声をあげた。
「……あんたらのせいじゃない」
遊佐はもう一度ロゼへと目を向け、ギュッと拳を握った。そしてその後直ぐに立ち上がった。
「ゆ、遊佐くん?」
少女な恐る恐るそんな遊佐へと声をかける。だが遊佐は何も言わず、駆け出して家から出ていってしまう。
「……あんたらか」
駆け出した遊佐が向かったのは炊き出しを行っていた場所だった。そこでは黒服の男たちの手によってあと片付けが行われていた。
「なんで毒を盛った!」
遊佐はそんな黒服の男たちを睨みつけるように見つめる。
「ああ。もう効いた?流石上の方々がくれたものは即効だな。ゴミ掃除にはピッタリだ」
黒服の男の一人が片付けの手を止め、口を開いた。
「ゴミ…?」
遊佐はその発言を聞いて信じられないといった表情をする。
「スラム街の奴らなんてゴミ同然なんだよ。だからゴミ同然を命じられた。それに死ぬ前、最後の晩餐が食えたんだから感謝して貰いたいくらいだ」
答えた黒服の男の言葉を聞いて周囲にいた黒服たちも嘲笑った。
「……ゴミじゃねぇよ」
その言葉に遊佐の中で何かが音を立てて崩れた。そのあと、遊佐は俯いていて怒りに拳を震わせながら小さく呟いた。
「ああ?なんだ?さっさと帰んな。痛い目にあいたくないならな」
遊佐の呟きが聞こえなかった黒服の男たちは見下したように遊佐を見つめる。
「ゴミじゃねぇよ!俺の大事な家族だっ!」
遊佐は近くにあった鉄パイプを手に取り、それで黒服の男へと殴りかかった。
「っ…こいつ!」
遊佐の行動はあまりにもいきなりだった為、黒服の男は肩に鉄パイプを受けてよろけてしまうが、直ぐにその肩を押さえながら怒ったように遊佐を見つめた。
「おい!やっちまえ!」
殴られた黒服の男が周囲の黒服たちへと声をかけた。すると黒服たちはナイフを取り出し、、遊佐へと向かっていった。遊佐は避けきれずに小さな傷を作りながら一人一人確実に鉄パイプで頭を強打していき、最終的には肩を殴った黒服の男だけになった。
「あとはあんた一人だけだ」
遊佐は地面に伏した黒服からナイフを奪い取ると黒服の男へとその刃を向けた。
「やってやるよ!」
肩から手を離した黒服の男は懐からナイフを取り出そうとした。だがその前に遊佐が黒服の男へと近寄り、頸動脈をナイフで掻っ切った。黒服の男は首から大量の血が吹き出しながら地面に伏し、遊佐はその血を浴びても顔色一つ変えずにナイフについた血を払った。
「ここにいる人たちがゴミだと言うのなら俺にとってのゴミはあんたらだ」
遊佐はとても冷たい眼差し、声色で地面に伏した黒服の男に淡々と告げると鉄パイプとナイフを手に持ったまま歩き出す。
「ゆ、遊佐…」
残状に驚きながらもスラム街で暮らしている男が遊佐に向かって控えめに声をかける。
「ゴミ掃除してくる。埋葬は任せた」
遊佐は微かに微笑んだ顔を男へと向け、そう言うと直ぐに微笑むのを止めて前を向いた。そして光を失った目で前だけを見つめ、駆け出したのだった…これが遊佐が闇堕ちした瞬間である。
その後のことは残酷な場面である為、目の前は真っ暗となり愛の女神から口頭で伝えられた。遊佐は貴族の人間を見つけ次第、老若男女問わず殺し回ったのだと…最初はふしょうしながらも殺しを行っていた。だが場数を踏んでからは医者を目指していたという知識をいかし、人の急所だけを虎視眈々と狙ってスムーズに殺しを行っていたのだと…
「そんな…」
世愛は愛の女神からその話を聞いて戸惑いの声をあげる。
「……そして遊佐はこうなってしまった」
愛の女神の声と共に再び映像が目の前に現れた。そこには威圧的で近寄り難い雰囲気で壁に寄りかかって座り、休んでいる遊佐の姿があった。世愛はそんな遊佐の姿を見て恐怖を感じたのかぶるっと体を震わせ、手で口を覆った。
「……何者だ?」
目を閉じ、休んでいた遊佐は目を開けて鋭い目付きである一点を見つめた。すると光の粒子と共に愛の女神が姿を現した。世愛が姿を現した愛の女神と自分と共にいる愛の女神を交互に目配せをすると世愛と共にいる愛の女神は過去の私よ、と世愛に向かってにっこりと微笑んだ。
「神さまよ」
過去の愛の女神は答えながら遊佐に向かってにっこりと微笑む。
「なんの冗談だ。そんなくだらない冗談に付き合ってやる暇はない。消えろ」
遊佐は興味を失ったかのように目を閉じようとする。
「ちょ、ちょっと待って待って。ほら!私をよく見て?少し浮いているし、影はないし、よく見たら少し透けているでしょう?」
そんな遊佐を見た愛の女神は慌てて自分の体を見せるように胸をはった。
「……人ではない…けど神なんて信じないり神なんていない…いたらじっちゃんや義兄さんはもっと穏やかな死を迎えられただろうから…あんたは幽霊の類だろう」
遊佐は目を閉じるまでに愛の女神の姿をちゃんと確認するが直ぐに目を伏せてしまう。
「信じる信じないは貴方の勝手よね。私、貴方に言いたいことがあって来ただけだから」
愛の女神は胸をはるのを止め、じっと遊佐を見つめた。
「言いたいこと?」
遊佐は愛の女神へと目を向ける。
「ええ。貴方はもう時期、完全なる闇堕ち…魔界へと堕ちるわ」
愛の女神は魔界へと連れていこうと遊佐の影から出ていての体に纒わり付く無数の黒い手を遊佐に見えるようにしてあげた。
「やってきた事がやってきた事だから別にかまわねぇよ」
遊佐は黒い手を見ても動じることはなかった。
「あら?いいの?奏くんは来世で貴方の魂と出会うことを望んでいたわよ」
愛の女神はそんな遊佐を見つめ、首を傾げた。
「義兄さんが…?」
遊佐は愛の女神へと目を向けた。
「ええ。生まれ変わったら必ず貴方の転生体に出会うのだと…堕ちたら叶わなくなるわね」
愛の女神は遊佐に対する奏の恋心を伏せ、肯定をした。
「……そうか。なら」
遊佐は血がこびり付いたナイフを手に取り、自分の首を掻っ切ろうとした。
「っ…待って!待ちなさい!死んでも記憶を失って魔界で悪魔として誕生するだけだわ!」
そんな遊佐を見て愛の女神は慌てて止めに入った。遊佐はそれを聞いて初めて動揺を見せ、ナイフを地面へと置いてから今後のことを考え始めた。
「それでね。私、貴方に提案をしに来たのよ。貴方、私と契約しない?」
愛の女神はそんな遊佐に向かって唐突に問いかけた。
「は?契約?」
遊佐は考えるのを止め、険しい表情をして愛の女神を見つめた。
「そうよ。期限付きの契約。契約すれば生き物を死に至らしめない限り貴方が魔界に堕ちることはないし、不老になるから奏くんの転生体も探せるわ。どうかしら?」
愛の女神は遊佐を見つめ、首を傾げる。
「……あんたにメリットなんてない筈だ」
遊佐は愛の女神が何を考えているかわからず、警戒するように見つめた。
「ちょうど契約者が欲しいと思っていたところなのよ。そんな時、貴方に目がついた、では駄目かしら?」
愛の女神は首を傾げるのを止め、にっこりと微笑んだ。
「……契約してやってもいい。ただもっと詳しく契約のことを聞かせろ」
遊佐は少しの間、考える素振りを見せたあとで答えた。愛の女神は契約について素直に答える。
「…わかった。契約する。それでさっき言っていた期限は?」
契約についての説明を受けた遊佐は小さく頷いたあと、問いかける。
「そうね…三百年ってところかしら?それだけあれば探せるでしょう?」
愛の女神は少し考えたあとで答えた。
「三百年…わかった。それで契約はどうすれば出来る?」
遊佐はゆっくりとした動作で立ち上がる。
「そのままでいて」
愛の女神ら遊佐に手を翳し、目を閉じて意識を集中させると遊佐の心臓辺りが淡く光って証となる刺青が刻印された。その際、遊佐に纒わり付く無数の黒い手は消えてなくなってしまう。
「これで貴方は私の契約者よ。よろしくね」
愛の女神は手を引っ込めてにっこりと微笑んだ。遊佐は胸へと手を当てる。
「…さっき生き物を死に至らしめない限り落ちることはないと言ったけれど危害を加えた場合、心臓を締め付ける激痛が走るからそこだけは注意して過ごしてね」
愛の女神はたった今、思い出したと言わんばかりに笑みをとき、口を開いた。
「……わかった」
遊佐は小さく頷くと試しに目を閉じて意識を集中させ、別の世界へと飛ぼうとした。すると遊佐の体は眩い光に包まれて消えてしまう。
「普通なら着替えてから行くべきでしょうに…でも約束は果たしたわ。これでよかったかしら。奏くん」
愛の女神は遊佐を見送ったあと、空を見上げて独り言のように呟いたのだった。
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