表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/24

08 「朝の一幕」

「──おい、起きろキョウカ」

「ん……ママ? もう学校?」


 眠気眼を擦り起き上がるキョウカ。

 寝惚けて俺をママと呼び、自分の家とでも勘違いしてるようだ。


 まあしょうがない。キョウカの話じゃ昨日この世界に来るまでは、普通に生活してたみたいだしな。


 前の世界では両親と平和に過ごしていたんだろう。

 それが急に、別の世界で神の使いなんてしなくちゃいけないなんて……胸中察するよ。


「ああ……此処は異世界でしたね……てか」


 おお、完全に目を覚ましたみたいだ。

 こう見ると、本当に幼い顔してんだな。


 キョウカは16歳。

 16なんてまだアソコに毛が生えただけのひよっこ。


 勇んで道に出たはいいが、道が分からず右往左往する。

 16なんてそんなもん。現に俺がそうだった。


 俺は道が分からずこの10年を無駄にしちまったが、キョウカにはちゃんとした道を歩いて欲しい。


 せっかく縁が有って出会ったんだ。

 少しでもキョウカを導ければいいんだがな……。


「──てか、フォグさん臭! 昨日から思ってたけど臭!」

「……お前な! 人がせっかく!」


「だって本当ですもん!お風呂とか入ってないんですか? それに髪もボサボサだし、髭も汚いですし」 

「風呂なんて入れるかよ、金持ちじゃ有るまいし。まあ、水浴びならたまにしてるぞ? 服は10年同じだがな」


「うげぇ……えんがちょ。あっ! だったら、私に考えが有ります! フォグさんそこに座って下さい」

「あ? 別に良いけど、何すんだ?」


「良いから良いから! えっと、汚れと臭いは光で消えるかな? 髪と髭は風で切って、体と服は水で濡らして火と風で乾かせば良いか!」


 キョウカの奴、何をブツブツ言ってやがんだ?


 何やら独り言を呟くキョウカを見ていると、俺に両手を向け何かを唱えだした。


「──光、風、水、火。キョウカ特製"スペシャルクリーニング"!」

「うおっ! なんだなんだ!?」


 キョウカが謎の言葉を叫ぶと、不思議な現象が俺の身に起こり始めた。


 ボサボサで長く伸びた髪は短く切られ、無精髭も剃られている。体は水で洗われた様な感覚。と、思ったら暖かい風が体を乾かしていく。


 なんでこんな事になっているか困惑していると──

 突然、体全体に光が注がれた。


「終わりましたよフォグさん!」


 キョウカの言葉を聞いて体を確認してみる。

 すると、汚かった服は綺麗になり、体の臭いも取れた気がする。


「キョウカのスキルでやったのか?」

「そうですよ。複合スキルです! 私のスキルは特別仕様なんで!」


 スキルでこんな事も出来るのか……。

 神の使いってのは末恐ろしい。


「うん……ありがとう。お陰でさっぱりしたよ」

「いいえ。どういたしましてです! それにしても……フォグさんって、男前だったんですね……」


「そうか? お世辞でも嬉しいぜ。どっこらショット──じゃあ、ギルドに行くとするか」


「はい! ──ちょっとドキッとしちゃったよ……」

「あ? 何か言ったか?」


「な、なんでもないでーす!」


 変な奴だな……?

 

──宿屋を出てギルドへと町を歩く。


 町は朝から騒がしい。仕事へと向かう人。

 外で洗濯や井戸端会議をする女性達。


 商店街も次々と店が開き、露店では串焼きや麺類などの軽食が売られている。


 俺達が泊まった宿屋はその商店街の一角に有った為、案の定……食いしん坊が露店の匂いに釣られていた。


「うわ~。これも美味しそう! あっ、あれも! ねえ~フォグさ~ん。自分で買うから買っても良いですか?」

「まったく、昨日の夜あんだけ食って良く入るな……別に買っても良いが、ほどほどにしとけよ?」


「はーい! おじさん、この串焼き10本下さい!」

「お、お嬢さん気前が良いね~。よし! 一本オマケしてあげるよ」


 朝から串焼き10本も食うのかよ……。


「あ、おばちゃん! その麺なに?」

「これは焼きバソだよ! 甘辛いソースがとっても美味しいんだ! お嬢さん一個どうだい?」


「わぁ~。良い匂い……おばちゃん! 焼きバソ5個頂戴!」

「毎度! お嬢さん可愛いから一個オマケしたよ!」


 ……あいつ、人の話聞いてたか?

 

「おいキョウカ。俺はほどほどにしろって言ったよな?」

「なに言ってるんですかフォグさん。私のほどほどは、まだまだですよ!」


「…………」

「いだだだだっ! ちょっとフォグさん! 耳引っ張らないで~!」


 露店から漂う誘惑に負けそうになるキョウカを引っ張り、商店街を抜け出していく。


 後ろに見える露店を名残惜しそうに振り返るキョウカ。

 こいつ、食いしん坊スキルでも付いてるじゃないか?


──そんなこんなで、ギルドの看板が見えて来た。

 

 ギルドが建っている広場は、丁度町の分岐点で道行く人が多い。

 

 北に下がるとさっき居た商店街。

 南に上ると住宅街と領主の邸宅。

 左に曲がるとちょっとディープな歓楽街。

 右は……スラム街だ。

 何処の町もこんな感じの作りじゃないだろうか。


 もう少しで俺もスラムの住民になる所だった。

 今は何とかなりそうだが、油断してると危ない。

 歓楽街を目指して頑張らないとな。


 目指すはお姉さんのおっぱいだ!


「フォグさん顔がだらしないですよ! またスケベな事考えてるんですか?」


 目を細めて俺を伺うキョウカ。

 その口元は立派な食べカスが付いている。


「うるせえ! それより、また食べカス付いてるぞ。てか、お前全部食ったのかよ……」

「やだっ!! ──取れました?」


 焼きバソの茶色いソースを付けて聞いてくるキョウカ。

 それは顔洗わんと取れないな。


「まだ付いて──」

「誰かー!! 私の売上を取り返してー!!」


 キョウカにソースが付いてる事を教えようとしていると、俺の声を掻き消す女の声が広場に響いた。


 その声の方向を見ると、二人の姿が見える。


 ボロボロの服を着た男が、大事そうに袋を抱え走っている姿。

 そして、その男を追いかけるブロンドの長い髪を束ねた綺麗な女性。女性の胸は豊満で、走る度にタユンタユンと揺れている。


「フォグさん鼻の下伸び過ぎ!! スケベな顔して見てないで助けて上げて下さいよ!」

「あ? ああ……」


 助けろって言ってもな……俺に出来るか?

 袋を抱えた男は、もう直ぐ俺の横を通り過ぎる所だ。


「そこの人! そいつを捕まえて!」


 胸を揺らした女性が必死に叫ぶ。

 俺の横を男が通り過ぎるその瞬間──


「……え?」


 抱えていた袋が無くなり、間抜けな声を出す男。

 本人は何が起きているか良く分かってないようだ。


 実は、俺も良く分かってねえ。

 何で俺……袋持ってんだ?


「旦那、ありがとう! それ貰うよ! そりゃっ!!」

「うぎゃっ!!」


 男に追い付いた女性は、俺に一言礼を言って袋を受け取ると、その袋で男の頭を殴った。


 袋からは重そうなジャリっという硬貨がぶつかる音がする。

 それで殴られた男は、一撃で地面へと伏せていた。


「改めて、ありがとう旦那! お陰で売上が返ってきたよ!」

「いいえ! お役に立てて良かったです!」


 何でキョウカが答える?

 取り返したのは俺だぞ……。


「私は歓楽街で『シュリーの酒場』やってる店主のシュリーよ。お礼したいんだけど、何が良い?」


 お礼ね……そう言われると、男の性なのか自然とたわわな2つの果実へ目がいってしまう。


 シュリーさんもそれが分かったのか、苦笑いを浮かべている。

 だが、隠そうとしない堂々した所が、大人の女だと感じた。


「フォグさん! あっ、お礼なら美味しいものが食べたいです!」

「だから、なんでキョウカが答えるだよ! てか、目の前に立つな! 邪魔だ」


「うぅぅ~。フォグさんの馬鹿」

「ウフフ。面白いお二人さんね」

「すいません──改めて、俺はフォグです。こいつはキョウカ。お礼ですけど……困っている人を助けるのが自分の使命だと思っています! だからお礼は結構です!」


「決まった! これでシュリーさんへの好感度は急上昇! 忘れた頃に酒場へ行けば、シュリーさんと……ムフフッ」

「お前な~! 心の声を読むな! あっ……」

「本当に面白いお二人。フフ」


 キョウカの奴! シュリーさんに笑われてしまったじゃないか! 後でとっちめてやらんと!


「でしたら……夜になったら私の酒場に来て下さい。ご馳走しますから。勿論……サービスもたっぷりしますよ?」

「は、はい……」


 俺に体を近付け、耳元で呟くシュリーさん。

 なんて官能的なんだ……俺の眠っている獣を呼び起こす囁きに、思わず背中がゾクゾクした。


「はーい、離れて下さい~。ほらっフォグさん! 早くギルドに行きますよ!」

「ああ……じゃあシュリーさん。また……」

「ええ、待ってますよ」


 さっきとは逆に、耳を引っ張られ連れて行かれる俺。

 あれ? もしかして脱童貞チャンス廻ってきた?

 そう思うと、体の中から熱い活力が湧いてきていた。


 それにしても、さっき男から掠め取った早業。

 あれは俊敏スキルのお陰なのだろうか?


 だとしたら……素早い動きの敵にも対応出来るのではないか。

 例えばホーンラビットの突撃とか。

 

 それこそ──ポイズンウルフだって倒せるかもしれん。

 

 キョウカに出会ってから昨日の今日。

 俺の中の獣、活力、闘志が煮えたぎるのを感じる。


 もしかしたら、キョウカとの出会いは本当に"運命"だったのかもな──

お読み頂きありがとうございます!

面白いと思って頂けましたら、評価&ブクマして頂けると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ