09 「教育始めます!」
「──おっ、フォグとキョウカ。おはよう」
「ああ、おっさん。おはよう」
「おはようございます!」
ギルドに着くと、朝から冒険者達で賑わっていた。
3つの受付の内、綺麗な受付嬢2人の受付は大混雑。
まあ、おっさんの受付はすっかすかだけどな……。
「相変わらず人気ねえな、おっさん」
「うるせえ! 大きなお世話だ! それより、キョウカを下宿所に案内しなきゃな。ついでにルーキーがやらなきゃいけない雑用依頼も受けていけ」
「はーい。お願いします」
おっさんから雑用依頼の案件を受け、下宿所への案内は俺が引き受けた。良く知った場所だしな。
雑用依頼は武器と防具を売る店の手伝いだそうだ。
ついでに装備を整えられるから丁度良かった。
──ギルドを出た俺達は、北に下がって商店街を目指していた。
下宿所に行こうと思ったんだが、キョウカの荷物は0。
荷物を置いてこないといけない訳でもないので、先に雑用依頼に行くことにしたのだ。
下宿所は夕方に行けば良いだろう。
「──着いたぞ。ここが武器と防具屋だな」
「本当だ! 剣と盾のマークが有って分かりやすいですね。今日は武器とか防具のお手入れ? のお仕事でしたっけ?」
「ああ、そうだ。じゃあ、入るぞ」
「はーい! 初仕事、頑張ろう!」
元気が良いキョウカを伴い店に入ると、鉄臭い匂いが鼻をつく。そして、厳つい親父が俺達を睨んでいた。
「いらっしゃい」
「ああ、どうも。俺達ギルドの依頼で来たんです」
「宜しくお願いしまーす!」
「そうか。なら、倉庫に行って武器と防具を磨いてきてくれ。倉庫は裏口を出て直ぐに有る。大事な商品だ。丁寧に頼むぞ」
「あ、分かりました」
「頑張ります!」
厳つい親父の言葉通り裏口をキョウカと出ると、扉を出て直ぐに倉庫が見える。
倉庫に入ると、大量の武器と防具が置いてあった。
「これ全部やるのかよ……相変わらず雑用依頼はわりに合わないな」
「うわ~。これ全部やって一人500エーンなんですよね……」
「ああ、雑用依頼は大体そんなもんだ。俺達の報酬が何処から出てるか分かるか?」
「うーんと、確かギルドは国とか町からお金を貰って運営してるんですよね? だったら、偉い人?」
「まあ間違ってないが。その偉い人達は何処からその金を得ている?」
「あ、そっか! 国民が払う税金!」
「そうだ。という事は町の人が払った税金で、俺達は飯を食ってるって事。だから、雑用依頼ってのは安い報酬で請け負って、町の人に還元する意味も有るんだ。まあ、雑用依頼自体はわりに合わない事が多いから、ルーキーの仕事みたいになってるけどな」
「成る程……じゃあ、私達公務員って事ですよね! 何か凄い仕事ですね冒険者って!」
「公務員が何の事か分からんが、凄い仕事なのは違いねえ。なんせ、町や村がモンスターに襲われたら、出張ってくのが俺達の仕事だからな」
「危険と隣り合わせって事ですね……」
「そうだな……ほらっ、無駄話は終わりだ。早くやらねえと日が暮ちまう」
「はーい」
大量の武器と防具。急いでやらんと、本当に日が暮れるまで掛かりそうだった。
油を湿らせた布で武器や防具をひたすら拭いていく。
地味で辛い作業だ。
1時間位経った頃だろうか。地味な作業に根を上げたキョウカが大きなため息を吐いて手を止めた。
「どうした? もう疲れたのか? まだまだ武器と防具は有るぞ」
「分かってますよ……ねえ、フォグさん。この世界の油って、どうやって取るんですか?」
「油? ……良く知らんが、植物とかモンスターから取れる様な気がしたが。それがどうした?」
「じゃあ、向こうとあんまり変わらないのか……そうだ!」
何かを閃いたキョウカが徐に立ち上がる。
一体何をしようってんだ?
「地のスキルで植物性の油を作って……あ、出来た!」
空中に丸いテカテカしたものが浮いている。
相変わらずキョウカのスキルは意味が分からない。
「次は、武器と防具を風スキルで空中に並べて……」
カタカタと武器と防具が動き出し、空中に整然と浮いていく。
「よし。そしたら、並べた武器と防具を水スキルで綺麗に洗う!」
空中に浮いた丸い水が、同じく空中に並べられた武器と防具に向かって飛んでいき、武器と防具を包んでいく。
武器と防具を包んだ丸い水はクルクルと回っている様に見える。洗っているのか?
「これで汚れは取れた! じゃあ、次は風で乾かしてと……後は油を塗っていけば終わり!」
5分後──
見事に武器と防具をピカピカのテカテカに仕上げたキョウカは、見事なドヤ顔を俺に見せつけていた。
「凄いでしょ! フォグさん!」
「あ、ああ……」
確かに凄いが、これじゃルーキー教育にならない……。
このわりに合わない作業の合間に、ルーキーには町の人の大切を語り、最後に依頼を受けた町の人から若干演技くさいお礼を言われるまでがセットなんだ。
参ったな……キョウカが規格外過ぎて、俺が受けたルーキー教育は出来そうにないな……。
「──おじさん! 終わりましたよ!」
「え……もう終わったのか? あんなに大量に有ったのに? まさか適当にやったんじゃないだろうな! 確かめて来るから待ってろ!」
倉庫を出て店に戻り、キョウカが作業終了の報告をするが、店の親父は早すぎる報告に疑いの目で倉庫に確認しに行ってしまった。
まあ、あれを見ればちゃんとやったのは分かるだろ。そう考えていると、店の親父が申し訳なそうな顔で戻って来た。
「ピカピカのテカテカだった……疑ってすまない! 作業ご苦労だった。報酬はギルドで貰ってくれ」
「はーい!」
「あ、親父さん。ついでに武器と防具を揃えたいんだが、大丈夫か?」
「ああ勿論だ。お客さんになってくれるなら大歓迎だよ」
「じゃあ頼む。今日はコイツの武器と防具を揃えたい。軽くて丈夫なのを見繕ってくれ」
「お嬢さんのか……分かった。武器は何が良い?」
「キョウカ。使いたい武器は有るのか?」
「うーん……私、弓道部だったんで、出来れば弓が良いですね」
「分かった。防具はお嬢さんに合いそうな物を選んでくる。因みに予算はいくらだ?」
「そうだな……キョウカ、ルーキーが最初に武器と防具を全部揃えられる事なんか滅多にない。ここは安全も考えて10万位出しても良いと思うぞ?」
「成る程……じゃあ、一人25万エーン使いましょう! おじさん! 私のだけじゃなくて、この人のもお願いします!」
「分かった! こんなに気前の良いお客様は久しぶりだ! 張り切って選んでくるぜ!!」
「キョ、キョウカ! 俺のは別に大丈夫だ! そんな大金返せねえよ……」
「返さなくて良いですよ! フォグさんは森で私を助けてくれた恩人です! それに、私達はパーティーじゃないですか! 私が貰ったお金は、フォグさんの物でも有るんですから」
な、なんて良い子なんだ……ちっぱいなんて言って悪かった! お前の山はちっぱいなんかじゃない! 荘厳に聳える黄金の山だ!!
「ありがとうキョウカ。ん……俺とパーティー? ちょっと待てキョウカ! 俺とパーティーって本気か!? 俺はどうみてもくそ弱いぞ! キョウカならもっと──」
「そこまでですフォグ! なんと言おうともう決めたんです! それとも……私とパーティー組むの嫌ですか?」
そ、そんな上目遣いで言われたら、嫌なんて言える訳ねえじゃねえか……。
「嫌じゃ、ない……」
「良かった~。嫌って言われたらどうしようかと思いましたよ! あっ、おじさん戻ってきたみたいですよ!」
本当に良いのか? 化け物スキラーのキョウカと組めるのは願ってもないが……俺は、キョウカに釣り合うだけの仲間になれるのだろうか……。
「──選んできたぞお二人さん! 先ずはお嬢さんの武器と防具からだ」
戻ってきた店の親父がカウンターに武器と防具を並べ始める。
俺の甲斐性じゃ到底揃えられない物が次々と置かれていった。
「これはワイバーンの骨とビックスパイダーの糸で作られた合成弓だ。軽くて丈夫だから、お嬢さんでも扱いやすいぞ。次はドラゴンの皮を鞣した皮の鎧。これもドラゴンの皮だけあって丈夫だ。重さもそんなに無いから動きやすいと思う。矢は普通の鉄の矢じりと、ホーンラビットの角を加工した矢じりを100本ずつ。後はブーツだな。これで、おまけして20万エーンだ」
「凄ーい! 何か冒険者っぽくなってきましたね!」
豪華な装備セットを前にはしゃぐキョウカ。
これはモンスターと戦う為の装備だって事、分かってんのか?
「次はあんちゃんの分だ。先ずは武器だが、あんちゃんの背中に装備してる剣は両手剣だよな?」
「ああそうだ」
俺が唯一装備してる背中に装備した両手剣。
170センチ位の俺の体格からすると、不釣り合いに見える。
それもその筈、この剣は元々俺を教育してくれた冒険者の剣だった。その人は、教育が終わった時に俺をパーティーに入れない代わりにとこの剣をくれたんだ。
それから10年──この剣は苦楽を共にしてきた大切な相棒になっていた。
「一応、あんちゃんの体格を元に鋼の片手剣を持ってきた。もう1つは鋼の両手剣だ。好きな方を選んでくれ」
店の親父の言葉に軽く頷いた俺は、カウンターに置かれた鋼の片手剣を握ってみた。
その場で軽く振って感触を確かめる。
うーん……どうもしっくりこないな。
鋼の片手剣を戻して今度は鋼の両手剣を握ってみた。でかい両手剣をその場で降ることは出来ないので、両手で握って持った感触だけを確かめる。
うん。やっぱりこの感じが一番しっくりくるな。
「こっちの両手剣だな」
「そうか。じゃあ、武器はその鋼の両手剣として後は……この鋼の鎧と鋼の小手だ。軽くて丈夫な鋼装備一式で20万エーン。こっちもおまけしたんだよ」
「ありがとうございます! フォグさん! 早速装備してモンスター退治でも行きますか!」
張り切ってんなキョウカ……。
だが、モンスター退治はそんな甘いもんじゃねえぞ。
「会計はどうする? 今持ってるのか?」
「いや、大金はギルドに預けてあるから一度ギルドに戻って持ってくる」
「あ、そっか。お金はほとんどギルドに預けてたんでしたね! じゃあ、報告ついでにギルドに戻りましょうフォグさん!」
ギルドへ報告と金を取りに戻る為、店を出る俺達。金を取りに行って装備を買ったら、いよいよ聖域の森に行ってみるか……。
装備を整え、新しいスキルを獲得した俺がどこまで戦えるか楽しみだ。
──その後、ギルドへ戻って金を取ってきた俺達は、武器と防具を購入し、今はある所へ寄っていた。
「フォグさん! これはどうですか!? 似合いますか?」
「ああ、似合ってるよ」
「もーう! なんですかその気の無い返事は! 真剣に答えて下さいよ」
「いや、本当に全部似合ってるよ。可愛いキョウカが着れば何でも似合うさ」
「え!? あ、その……ありがとうございます……」
照れているキョウカは良いとして、俺達は聖域の森へ行く前にキョウカの服を買いに着ていた。
セーラー服? だかなんだか分からんが、あの格好じゃ浮いてしょうがないならな。
「──毎度ありがとうございました」
無事にキョウカの服を買って店を出た俺達。キョウカは買った服に着替え、武器と防具も装備した。同じく俺も、買った武器と防具は装備している。
因みに、キョウカの服は下から茶色のブーツ。ズボンは白いサスペンダーショートパンツに上はピンクのシャツ。
本人曰く、可愛さと実用性を兼ねたコーディネートらしいが、俺には良く分からん……。
まあ良い。後は道具屋に寄って薬草何かを揃えたら、いよいよ聖域の森へ出発だ。
そして──
ようやく聖域の森へやってきた俺達。これからスライムや比較的弱いモンスターを倒しつつ、モンスターの恐ろしさを教育するつもりだった。
だが……。
「「ガルルッ!!」」
俺達の前には、鋭い爪と剥き出しで牙を出して唸る集団。
ポイズンウルフの群れが現れてしまった……。




